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医療機関における再編・統合の潮流

地域医療構想が各都道府県から公表され、病床再編や機能分担などの議論が本格化しています。 このような中、医療機関の規模・機能について、抜本的な見直しを行う背景や、再編・統合についての動向、実行時の障壁などについて、ご紹介いたします。

はじめに

地域医療構想が各都道府県から公表され、病床再編や機能分担などの議論が本格化しています。また制度的な要請のほかに、人口減少などによる医療ニーズの減少、医師をはじめとする人材確保難、収益減少による経営難など、医療機関を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。

このような背景の中、複数の医療機関による再編・統合や、単独病院での機能転換・ダウンサイズなど、医療機関の規模・機能について、抜本的に見直す医療機関が増えています。以下で、抜本的な見直しを行う背景や、再編・統合についての動向、実行時の障壁などについて、ご紹介いたします。

 

抜本的な見直しが検討される代表的な背景

再編・統合や機能転換・ダウンサイズが検討される背景にある、多くの事例の共通点として、以下の4点を挙げることができます。これらの要因がそれぞれ関連し合いながら、抜本的な見直し策が検討されています。

1. 医療資源不足
特に地方の中小規模の病院を中心に、医師の高齢化や医局からの医師派遣不足により長期的な医師の確保が見通せず、既存医師の負担が更に増加するなどの悪循環に陥っているケースが少なくありません。また、地域内の生産年齢人口の減少等により、看護師やコメディカルスタッフの採用に苦慮している医療機関も少なくありません。

2. 地域住民のニーズとのミスマッチ
人口が増加し高齢化率も低水準で推移していた時代と、総人口が減少し高齢化率が上昇している現在、そして今後では求められるニーズは違っており、現状、医療機関が提供している医療機能と、より多くの地域住民が求める医療機能との間にギャップが生じているケースが少なくありません。また、道路整備をはじめとする交通網の発達により、遠くの医療機関へも容易にアクセスが可能となっています。急性期医療においては、地域住民がより高度な医療機能や症例数の豊富な施設を求め、遠方の医療機関の受診割合が高まっている地域も少なくありません。

3. 制度的な要請
各都道府県で作成・推進が行われている地域医療構想や、公立病院改革プラン・公的病院2025プラン、急性期から回復期、そして在宅医療の充実を目的とした診療報酬改定など、これまでの医療提供内容の延長線上ではなく、地域の実情に応じた医療提供体制の抜本的な見直しが迫られる機会が増えています。

4. 収益減少による経営難
医療資源不足や地域住民ニーズとのミスマッチ、各種制度とのミスマッチなどにより収益が減少し、経営状況が悪化している医療機関も少なくありません。将来的な診療の継続性に疑義が生じはじめ、スピード感ある対応が求められている医療機関が増えています。

 

抜本的な見直しのパターン

上記を背景に、抜本的な見直しを検討する医療機関が増えていますが、抜本的な見直しの代表的なパターンとして、以下の3パターンを挙げることができます。

1.  単独病院による機能転換・ダウンサイジング
自院以外に周辺に医療機関がない場合や、再編・統合などに向けた医療機関同士の協議が困難な事情がある場合に多く選択される事例です。急性期を標榜していた医療機関が、地域のニーズに合わせる形でダウンサイジングした上で、機能を急性期から回復期などに転換するケースが増加しています。

2. 複数病院によるネットワーク化
複数の病院がそれぞれの施設を残した上でネットワークを構築する事例です。複数の病院が、医療機能を相互補完的に分担することができるケースや、病院間の物理的な距離が離れている場合などにおいて多く選択されています。車で30分前後の距離がある医療機関同士で、急性期機能と回復期・慢性期機能等のすみ分けを行い、急性期機能の集約化と施設間の役割分担・機能分化を推進するケースが増加しています。

3. 複数病院による経営・施設統合
複数の病院において、経営主体および施設を統合する事例です。お互いの病院が急性期機能で建替えを控えている場合などおいて多く選択されており、新病院の建設とセットで議論が行われています。

何れの選択肢においても、「自病院単独での経営改善の検討」「立地場所(市町村)のみを考えた医療提供体制整備」といった、狭域的な発想や部分最適的な考えから脱却し、大きく変化する外部環境に対応するため、運営の効率化や機能分化の推進による広域化など、全体最適的な発想での検討が重要となってきます。

 

抜本的な見直しを行う際の代表的な障壁

今後の医療機関は、全体最適的な発想での検討が強く求められることになります。一方で、医療機関は地域住民にとって必要不可欠な社会資源であり、抜本的な見直しを行う場合は、少なからず注目を集めます。注目を集めた結果、以下のような障壁にぶつかるケースも少なくありません。

1. 議会・首長の壁
住民の関心が高いことから、特に自治体病院においては、医療提供体制の変更や住民ニーズの変化があるにもかかわらず、政治的な理由で決断が先送りになることが少なからず存在します。

2. 財源面での壁
公的、民間に限らず、抜本的な見直しを行う場合は、診療機能や病床の転換・建替えに伴う資金負担が多く発生し、財源確保が課題となります

3. 住民感情の壁
住民の近くにあり、長年利用してきた病院が機能転換すること、経営主体が変更すること、他の地域への移転すること、などにおいて抵抗感があり、反対運動に発展する場合なども存在します。

上記に代表される障壁を乗り越えるため、医療機関の抜本的な見直しには、「強いリーダーシップと地域医療に対する信念とねばり」「外部に開いた検討会開催などによる利害関係者との合意形成」「抜本的な見直しによって診療機能・住民サービスが充実することの明確なビジョン」の3点が重要な要素となります。
 

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