調査レポート

2023年度版「グローバル自動車消費者意識調査」

世界24か国の自動車ニーズから、EVシフトとモビリティの「今」を推し量る

ポスト・グローバリズムの加速と極度なインフレ、さらには、経済安全保障やカーボンニュートラルの流れの中、サプライチェーンの抜本的な再構築や地域主義的経済圏も加速している。自動車業界でも、一部の市場において加速するEVシフトにより、市場間の質的差異が広がっている。こうしたねじれの中で、自動車業界に携わる企業はいかにして各市場の消費者を捉えるべきか?本調査の結果を通じて、消費者の意識を掴んでいきたい。

市場ごとに消費者ニーズは異なる

EVシフトが消費者にもたらした変化は市場によって異なり、かつ限定的だ。次の購入車にBEV(電気自動車)を選択する消費者が、前年より大きく増加した市場は中国、東南アジアのみ。依然としてHEV(ハイブリッド車)がBEVを上回る状況だ。

また、ICE(ガソリン・ディーゼル)車でサスティナブルな合成燃料が使用可能ならBEV購入を再検討する、という消費者が中国やインド、東南アジアなどで多く、EVシフトが先行する市場の消費者も完全にBEVへ心変わりしたとはまだ断言できない。

EV選択理由では、「燃費」の削減が多くの市場で最上位に挙がり、昨年は上位だった「気候変動への懸念」は、米国とドイツを除いた多くの市場で後退した点は注目に値する。各国政府や自動車メーカーが提言する気候変動への対応とは裏腹に、世界的なインフレが消費者にもたらした影響は甚大である。

懸案の「航続距離」だが、400km以上を希望する消費者が大多数を占める市場がある一方で、さほど重視しない市場もあり、市場ごとに大きく異なる。消費者のBEVに対する要求も、各市場の地理的条件に左右されるため、差があるのは当然とも言える。EVシフトがさらに進行すれば、対応すべき消費者ニーズのレンジも同様に広がり、より多様なラインナップでの対応が求められるだろう。

在庫不足により長期化した納車期間が生む新たな「受注生産」の枠組み

地政学リスクがもたらしたサプライチェーンの混乱と輸送コストの急騰、そして半導体不足により、消費者は自動車を購入する際に、長期の納車期間を受け入れざるを得ない状況となった。では、消費者は希望通りの車が手に入る場合、どの程度の納車期間まで許容するのだろうか?

中国や東南アジアのように短納期を優先する国もあるが、日本、ドイツ、韓国などでは「一か月以上から半年以内」の期間は許容できる人が意外にも多く、日本と韓国に至っては、半年以上でも待つ人は15%に達する結果だった。現在の在庫危機に消費者が適応し始めている傾向は興味深く、従来よりも多くのオーダーで「受注生産」が適応されるなど、生産と販売の新たな枠組みが形成される可能性もある。

一方で、半導体不足は徐々に解消され、自動車生産も回復傾向が見られ始めている中で、納車期間に対する消費者の耐性は持続するのか?あるいは新たな地政学リスクの発生により、在庫不足はさらに継続するのか?いずれのシナリオにおいても対応可能な枠組みの構築を急ぐ必要がある。

消費者との取引で信頼に足る存在は、やはりディーラー

OEMメーカーによる消費者への直接販売やアフターサービスまでの一元管理化は、一部のメーカーや市場で導入が進んでおり、今後のビジネス展開の可能性に向け多くの議論を生んでいる。では、肝心の消費者は誰を最も信頼するのか?韓国や中国では、メーカーを最も信頼する消費者の数は他の市場より比較的に多かったものの、購入時や普段のメンテナンス時に利用するディーラーへの信頼は根強い。

他の市場ではその差がより明白で、日本でメーカーを信頼する割合は最も低く、23%。購入時のディーラーが45%と、大きな差がある。だが、日本国内における世代間の意識差も大きく、若い世代ではメーカーを信頼する層は、購入時のディーラーやメンテナンス時のディーラーとほぼ同様の割合だ。メーカーが消費者と関係性を築く上で、全ての消費者に対して同様のコミュニケーションを取るのではなく、世代に応じた手法の使い分けに一定の有効性があるだろう。

消費者との信頼性を維持するために、ディーラーが重要な役割を担うことに当面は変わらない。だが、新しい手法と伝統的な手法の組み合わせにより相乗効果を生むコミュニケーションのあり方を模索する必要がありそうだ。

コネクテッド・サービスの月額課金制導入には課題が多い

OEMメーカーによる消費者への直接販売と同様に、コネクテッド・サービスを基にしたサブスクリプションビジネスも各メーカーで検討が進む。だが、大多数の消費者が、「自動車購入時の初期費用の一部として」、もしくは「使用回数に応じた」費用設定を希望しているのが現状だ。日本や東南アジア、米国の消費者では月額サブスクリプションでの支払いを希望する人が他市場よりは多いが、それでも少数派である。

また、コネクテッド・サービス自体に利便性を感じるものの、利用時に車両の位置情報など個人情報が共有されることに懸念を感じる消費者も多い。この傾向は米国やドイツ、日本で見られる一方で、中国やインド、東南アジアなどでは個人情報流出の懸念以上に、コネクテッド・サービスに利点を感じる人が多いようだ。

だが、現在の消費者がスマートフォンを利用する際に、個人情報の共有への懸念を理由にスマートフォンの所持を断念するだろうか?当然、それはごく少数派であり、最終的にはそのような懸念に勝るほどの魅力的なコンテンツや、便利なサービスを提供できるかがポイントとなるのは間違いないだろう。

2023年グローバル自動車消費者調査(PDF)

※グローバル版(主要7地域の比較考察)こちらからダウンロードください。

クローバル版 [ PDF, 3.1MB]

 

※日本市場編はこちらからダウンロードください。

日本市場編 [ PDF, 2.8MB]
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本レポートの問い合わせ先

菅野 弘孝 パートナー
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

稼農 慧 シニアアソシエイト
デロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社

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