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デジタル人材の志向性に即した人材マネジメントのあり方

デジタルトランスフォーメーションを実現する組織・人材戦略(2)

デジタル人材の需要は非常に高まっている一方、マネジメントの仕組みは従来のままという企業は多い。デジタル人材の志向性に即した配置や評価制度等の整備ができておらず、結果としてせっかく採用してきた人材の活躍の場がない、すぐにやめてしまうといった「ミスマッチ」が生じている。本稿では、デジタル人材の志向性をデータに基づき明らかにし、その上でのマネジメントやアトラクションのあり方について考察する。

デジタル人材の市場規模

デジタルを活用したビジネス変革を実現・成功させるには、デジタル人材の存在が欠かせない。既にデジタル人材の需要は非常に高まっている一方、マネジメントの仕組みは従来のままという企業は多い。デジタル人材の志向性に即した配置や評価制度等の整備ができておらず、結果としてせっかく採用してきた人材の活躍の場がない、すぐにやめてしまうといった「ミスマッチ」が生じている。


デロイトが実施したデジタル人材志向性調査では、その職種・人数規模と人物像を明らかにし、確保・育成の施策構築に向けた示唆を提供している(本調査ではデジタル領域での業務経験がある者を「デジタル人材」と定義(図1))。



図1:デジタル人材の定義

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調査の結果、2020年2月時点において、デジタル人材は国内において約367万人存在し、相対的に20-30代が多いと推計されている(図2)。

 

図2:日本におけるデジタル人材の規模

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  • 国勢調査の人口動態を踏まえ、アンケート結果から推計​
  • 日本の就業者人口は、平成27年国勢調査より、日本でフルタイムに働く男女20~50代の就業者(会社役員・正社員・業主)人口を29,848,439名と算出​
  • 本調査ではデジタル領域での業務経験がある者を「デジタル人材」と定義している。

 

これら人材が現在従事している職種として、プランナー(デジタル戦略策定・推進・外部機関連携等)が最も多く、次いでプロダクトオーナー(自社ビジネス・プロセス理解のもと、必要なプロダクトの企画・立案等)が多いという結果が明らかになった(図3)。これはビジネス側の部門に配置され、デジタル関連の役割を担う者が多いということが推定される。


図3:デジタル人材の業務内容別分布

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デジタル人材の志向性

デジタル人材を確保しマネジメントしていくためには、彼ら/彼女らの志向性を把握し、適切な施策を検討する必要がある。


一般的に、DXの推進にあたっては、デジタル技術を用いた新規ビジネスの創出やAI・機械学習やブロックチェーンなどの新規技術といった「新規性・革新性」や、前回述べたようにトライ&エラーで走りながら品質を高め提供価値を更新し続けるアジャイルアプローチが求められる。


そういった役割を担うデジタル人材とそうでない人材(非デジタル人材)とでは、志向性やキャラクターが異なっている。図4はデジタル人材と非デジタル人材との志向性の差を表したものだ。デジタル人材は、非デジタル人材と比較して、不確実性が高い中でもリスクを取って新しいことに挑戦し、世の中にインパクトを創出することを志向する傾向が強い。

図4:デジタル人材の志向性

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デジタル人材の流動性

労働市場の需給バランスおよび上記のような特性によって、デジタル人材の流動性は高い。デジタル人材は非デジタル人材と比較して転職経験がある割合が13pt高い結果が明らかになっている(図5-1)。特に、デジタル人材の31%は3年以内の離職意向があると回答しており、年代別にみると、20代が48%ともっとも高い(図5-2)。

図5-1:デジタル人材の転職経験

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図5-2:デジタル人材の離職移行

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若手の流動性はデジタル人材に限ったことではないが、それでも20代は半数近くが3年以内に離職する意向があることを考えると、いかにデジタル人材をリテインすることが難しいかがわかる。

職種別に離職意向理由を確認していこう(図6-1、6-2、6-3)。

図6-1:業務内容別にみるデジタル人材の離職意向理由

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プランナーは自身のエッジは立っているが、周りの人材が追いつくことができず、戦略を遂行するためのリソースが足りないと感じているようだ。また、仕事に尽力している割には、昇進機会は用意されていないことが多いと考えている。また、プロダクトオーナーはその役割上、仕事や施策の優先順位付けを行うために、関係各所(非デジタル部門含む)とのコミュニケーションを行うが、部門間の壁が障壁となり、人間関係も難しいことが想像される。また、新規性がある技術を活用した企画立案にチャレンジをすることができないもどかしさも感じている。アーキテクトについては、全社でのデータ活用推進にはインフラや業務面での改革が必須だが、経営陣や現場に理解されていない。そのため、必要な協力を取り付けることができず、実装が進まないというもどかしさを感じている。

図6-2:業務内容別にみるデジタル人材の離職意向理由2

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PMやスクラムマスターは、専門職のキャリアパスが用意されておらず、昇進はマネジメントの方向でしか可能性がないため、専門職の社内の相対的地位が低く、評価されないと感じている。UX/UIデザイナーは、顧客との直接のコミュニケーションが取れなければ、バリューを発揮することが困難であると考えているようだ。エンジニアについては、経営層のテクノロジーに対する理解が低く、専門職のキャリアトラックもない企業では、専門職の地位が社内で低く見られがちである。そのため、報酬も低く設定されていることが多いようだ。

図6-3:業務内容別にみるデジタル人材の離職意向理由3

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データスチュワードは、日々継続的な対応が必要な業務が多いが、属人的な内容となっており、業務や働き方に対する自律性が与えられていないと感じている。データサイエンティストは、答えがない課題を扱うが、検証の方向性などについて、与えられる自律性も限定的なことがある。会社が想定していた結果が出ないときには自身の評価が悪くなってしまうこともある。

 

デジタル人材の特性を踏まえた人材マネジメント・アトラクション方針

調査の結果明らかとなった志向性や離職意向を踏まえ、デジタル人材をリテンション・アトラクションするためのマネジメント方針を、事例も交えながら考察したい。 

[採用]

DXを推進していくために特にプランナーやプロダクトオーナーといった職種については、自社ビジネスに関する知見は不可欠である。ゆえにこれら人材は内部育成を前提としつつ、リファラル/ダイレクト採用も活用して、デジタル人材同士のコミュニティから採用を行っていくことが望ましい。デジタル人材の特徴として、自らアンテナを張って同様のスキルや志向性を持った者とSNS等によりネットワーキングしているケースが多い。ゆえに、こういったコミュニティに着目することも1つの手だ。

また、前述したようにデジタル人材は「世の中にインパクトを与えることができる仕事」「新しいテクノロジーの活用にチャレンジする会社」といった環境を望んでいることから、社内外からの人材採用力を高めるため、プロジェクトの好事例やロールモデルを積極的に情報発信することも望ましい。 

[発掘]

 デジタル人材には自社ビジネス知見も必要なことから、内部育成を前提と述べたが、一方で誰でもデジタル人材の候補者となりうるかというと、そうではない。デジタル人材の特性としては、その役割から不確実性が高い中でもリスクを取って新しいことに挑戦し、世の中にインパクトを創出することを志向する気質が求められる。「そんな人材が社内にいるのか」といった声も聞かれるが、当社の調査では、非デジタル人材の中でも約19.8%、候補者になりうる者がいると推定している(図7)。

図7:デジタル人材への育成候補の考え方

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当社が支援する企業においては、図7に示す19.8%の人材を、行動・意識特性を把握する人材アセスメントを通じて「発掘」し、これら人材に対する専門トレーニングの提供や、デジタル組織への異動を通じたOJTを実施することによって、スキル開発を行っている。内部育成にあたっては、まずはこういった「発掘」を実施することが望ましい。 

[配置]

配置にあたっては、先に述べた人材アセスメント等を通じ、そもそも社内の誰がどのようなスキルや意識・行動特性を持っているか、可視化・データベース化することが望ましい。また、デジタル人材は「仕事のおもしろさ」や「チャレンジ」などを重視する特性があることから、通常の会社主導の異動に加え、チームリーダーがPJごとに求める人材を募集し、メンバーが応募するマーケット方式の仕組みも合わせて導入することも一案だ。

[育成]

「知識・スキル獲得には、複数の会社で様々な経験を積む」といった特性を持つことから、自律的に自身のキャリアを考え、能力開発していく人材であることも推察される。ゆえに、社員が目指すキャリアや専門領域を自ら定め、そのために必要な育成機会・内容等を決定する仕組みが望ましい。

コミュニティへの参加等を通じて自ら能力開発機会を獲得し、自己育成を推進するとともに、会社は各人の価値観・キャリア形成や求める能力開発機会を把握し、それを支援するための環境やコーチによる助言を提供する。ただし、前述した「発掘してきた人材」に対しては、デザインシンキングや顧客のニーズ・課題のつかみかたなど、必要な知識・スキル・経験の付与について会社が育成の主導が必要だ。 

[評価・処遇]

DXは「ユーザー・顧客中心」といわれることから、個々人の評価もそういった観点で行うことが望ましい。チームで発揮した成果の評価と、個人の評価(チームへの貢献・研究テーマ等で創出したインパクト)に加え、クライアントや他チームからの評価も得られる仕組みとする。また、失敗に対する心理的安全性を確保し、チャレンジを促すべく、短期インセンティブによる短期成果・利益の追求よりも、研究やイノベーションなど、足の長い成果創出に報いることのできる報酬構成・仕組みとすることが望ましい。また、ビジネスの面白さや、自由に動ける環境など、価値観とマッチする機会・環境・報奨(非金銭的報酬)を提供することも重要だ。

 

以上、今回はデジタル人材の特性から、求められる新しい人材マネジメント・アトラクションのあり方を考察・整理した。こういった内容を全社的に一律で展開することは、既存ビジネスもあることから難しいものと考えられるが、国内企業においては例えばデジタル組織や一部子会社において、出島的にこういったマネジメントの仕組みを適用するケースもあり、そういったアプローチが望ましい。 

次回は、このような環境変化を踏まえた中長期視点での人材リソースのあり方ついて考察を行っていきたい。

執筆者

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

シニアマネジャー 小出 翔

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

 

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