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自動車業界の環境変化への組織・人材領域の対策

デジタルトランスフォーメーションを実現する組織・人材戦略(1)

CASEやMaaSがもたらす変化やCOVID-19が、自動車業界に100年に1度といわれる大きなインパクトを与えており、自動車サプライヤーも変革を求められている。全6回シリーズの初回である今回は、自動車業界およびサプライヤーへのインパクトはどのようなものか、それらの対策としてどのような事例があるかを振り返ると同時に、今後どのような人材が必要になるかを考察したい。

環境変化がサプライヤーに与えているインパクト

本FoM Community “KYO-SOU” メールマガジンの初号(2020.7.14配信「自動車部品のサプライヤーが直面する変革の必要性と活路 ~事業の方向性検討のアプローチ」*1)でご説明したように、自動車業界を取り巻く環境がサプライヤーに与えている主要インパクトには、以下のものが挙げられる。

  1. 製品付加価値構造のシフト
  2. 新たな顧客・プレイヤーへの対応の必要性
  3. 自動車メーカーからの期待値変化

 

図1:CASE・MaaSがもたらすサプライヤーへのインパクト

上記のインパクトの度合や、取りうる打ち手は、サプライヤー各社の取り扱い製品・事業規模・割合によっても異なるため*2、詳しくは上述の過去号を参照頂きたいが、共通するのは、厳しいリソース制約がある中で、デジタルトランスフォーメーション(DX)により抜本的に業務を効率化すること、デジタル技術活用や社外リソースとの連携を通じて新たな取り組みを早く回すこと、といえる。

*1:自動車部品のサプライヤーが直面する変革の必要性と活路

*2:上記メールマガジンでは、①統合システムサプライヤー、②CASE部品サプライヤー、③汎用品サプライヤー、④内燃機関・駆動部品サプライヤーの4つに分類し打ち手を考察した。

 

自動車部品サプライヤーの取り組み先進事例

従来の守りに力点を置いた情報システム部門とは別に、イノベーションに取り組むデジタル専任組織を設置し、新しい提供価値創造に取り組むサプライヤーもある。この組織では、新しい価値をスピーディに市場に届けるために、価値創造プロセスにクラウドサービスを活用したアジャイル開発を採用し、トライ&エラーを迅速に繰り返しながら改善している。また、顧客の真のニーズに対応するために、デザイン思考でサービスの全プロセスに取り組んでいる。人材の調達については、ビジネスの知見に加え、一般的なIT動向を把握し、イノベーティブなサービスに求められるIT知見を持つ人を社内外から公募・採用すると同時に、DXに対する取り組みを全社的に推進するために、このデジタル専任組織が、アジャイル開発の進め方や具体的効用を説明し、積極的に啓蒙活動を行っている。

また、マーケットや製品別の予測精度とスピードを高めるために、販売実績や価格等の実績データと市場動向や天気予報等の関連データを活用して、AIを活用した需要予測を導入する企業もある。

業務効率化には、自動車部品サプライヤーのバックオフィスでも取り組まれている。例えば人事部門においては、勤怠管理表の作成やチェックといった定型業務をロボット導入で自動化することにより、担当者は付加価値がより高い業務へ時間を投入することが可能となっている。

 

デジタル人材に求められる要件・機能とは

以上の事例や考察をもとに、自動車部品サプライヤーの人材には、従来のビジネス知見や担当領域での専門知識に加え、今後どのような要件が求められるのか整理する。 

1.ビジネスを変革するためのIT/デジタル知見

前述のように新しい価値の創出・提供、既存事業の効率化・リーン化を実現するためには、IT/デジタルを活用することは必須である。そのため、自社のビジネス課題を解決するためには、どのようなソリューションを活用できるのか、誰と組めば良いのかを判断することが必要であり、これまで以上にビジネスとデジタルの距離を近づけることが求められる。

デジタルがビジネスの共通言語になることが想定されるため、ビジネスもデジタルも分かる人材、少なくともデジタル領域の専門家と協働が可能となる程度にデジタル知識を持つ人の存在が重要となる。

なお、環境変化に対応するために今後強化が求められる主要なデジタル機能には、以下が挙げられる。

 

1.     イノベーション
新しいプロダクト・サービス立ち上げに向けて、アイデア創出を行うと同時に、トライアル導入を行って品質を高めると同時に、自社でカバーできない範囲について、社外に協働できる組織を探すなど、エコシステム形成を行う。

2.     デジタルマーケティング(B2Bが主体のサプライヤーでは限定的)
マーケティングのシナリオを構築し、各顧客セグメントに対して魅力的なキャンペーン等を展開して、プロダクト・サービスを訴求する。 

3.     プロダクト開発
様々な機能の組み合わせで優れたUI/UXを備えたデジタルプロダクトサービス(Apps)を迅速に開発する。市場へ提供後も、必要に応じた改修を行い、ユーザー体験を高める。 

4.     プラットフォームエンジニアリング
開発生産性やリリースタイムを高めるために、DevOps基盤の構築・継続的改善を行うと同時に、マイクロサービス化やAPI化を進める。 

5.     アナリティクス
プロダクトやサービスの立ち上げや改善に向け、データ活用を進めるために、データ分析基盤を構築し、データ準備~分析モデル構築を行う。 

6.     クラウド開発
AWSやAzureなどのIaaS、WorkdayやSuccessFactorsなどのSaaSといったクラウドサービスを活用して、効率的・効果的にシステム導入を進める。 

7.     サイバーセキュリティ
サービスの拡大により増大するセキュリティ課題もふまえ、セキュリティ対策を検討・実行し、監視・モニタリングを継続すると同時に、インシデント発生時には迅速に対策を講じる。

 

図2:中長期的に求められるデジタル機能

画像をクリック、またはタップすると拡大版がご覧いただけます

2.アジャイルアプローチとの親和性

求められる要件がある程度不変であり、一歩一歩確実に品質を積み上げていくことが求められていた従来の環境では、ウォーターフォール型のアプローチが有効であった。一方、現在のように激しい環境変化にスピーディに対応し、顧客自身も認識できているとは限らない彼らが真に求める価値を提供するためには、従来のウォーターフォール型のアプローチではなく、トライ&エラーで走りながら品質を高め提供価値を更新し続けるアジャイルアプローチが求められる。

 

3.外部環境・情報に対するアンテナ

新規参入プレイヤーや顧客への対応は、全て自社で実現できるとは限らない。必要に応じて他社と協業したり、潜在的リスクを把握したりするためには、社外とのネットワークの重要性が今後更に増すと考えられる。そのため、デジタル人材には専門領域以外に対する視野の広さ、新しいことに対する挑戦意欲、気になったことにフットワーク良く関わってみるといった実験志向等が求められる。組織全体としては、これらの人材の好奇心や活動を支援する機運を醸成すると同時に、情報収集・収集した情報の管理と社内への展開を継続的に可能とするオフィシャルな仕組みの構築が求められる。

 

人材戦略構築のために組織に求められる取り組み

2030年にはデジタル人材が45万人不足すると言われており*3、グローバルレベルでデジタル人材の獲得競争が激化している中、前述のようなデジタル機能を担える人材を一気に獲得できるとは限らない。想定通りのタイミングで人材が獲得できない場合、当面の対策として社外のチームの力も借りながら取り組みを進め、中長期の視点で人材戦略の取り組みを進めることは重要である。具体的には、自社の事業戦略に沿って自社に求められるデジタル人材機能の優先度を明確にし、人材配置や育成方法を改めて検討すると同時に、雇用条件をはじめとした採用優位性を強化することが欠かせない。

また、組織のデジタル化を進めるためには、多くの場合カルチャー変革も必要である。ウォーターフォールとアジャイルの違いは、手法の側面だけでなく、顧客に提供する価値の生み出し方やステークホルダーとの役割分担や求めるスピード等、仕事や顧客に向き合うマインドセットや仕事の進め方にも色濃く表れる。

そのため、デジタル人材にはスキル・知識を提供するだけでなく、仕事や顧客に向き合うマインドセットのアップデートも必要となるが、組織全体としてアジャイルな動き方を支援・賞賛するカルチャーがない場合、環境変化に対応するための行動がタイムリーに取れないことが考えられる。

また、激しい環境変化に対応するためには、全てを自社でカバーすることは難しいため、社外のトレンドを把握しながら、業界における優位性を獲得・維持するためのエコシステムを構築するために、業界の枠にとらわれずに社外との協業・情報共有を行うための仕組みを作ることも重要である。

 

以上、今回は業界を取り巻く環境変化が、自動車部品サプライヤーへ与えるインパクト、それに対応するための機能および取り組みについて考察した。

次回は、今後非常に重要となるデジタル人材の確保・育成に向けた課題と対策について、具体的に整理していきたい。

 

*3: IPA「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査(‘19年5月)」

執筆者

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

シニアマネジャー 野原 裕美

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

 

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