世界のM&A事情 ~ドイツ~ ブックマークが追加されました
ナレッジ
世界のM&A事情 ~ドイツ~
ドイツの経済動向およびM&A成功の鍵を握る「Mittelstand」とは
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の駐在員が、現地のM&Aの状況・トレンド、M&A交渉の際の留意点などをご紹介します。本稿ではドイツの政治・経済状況と日系案件におけるM&Aの動向を紹介し、さらにドイツでのM&A成功の鍵をにぎるミッテルシュタンド(Mittelstand)について解説します。
I.ドイツにおけるマクロ環境
1.ドイツにおける政治・経済動向
その自動車・自動車部品、機械類および化学製品を中心とした産業基盤、世界第3位の輸出大国としての強みを背景に、ドイツ経済は現在もなお欧州最大の規模を誇るのみならず、高い安定性を有している。加えてユーロのゼロ金利政策もドイツ企業における安価な資金調達を可能としており、先日、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が2019年末までゼロ金利政策を継続すると表明したことから、この優位性は暫く継続し、国として盤石なポジションを今後も維持するものと見込まれている。一つ、不安要素を挙げるとすれば未だ不透明なBrexitの影響である。ドイツにとり、英国は米国、フランスに次ぐ輸出先として第3位の市場であり、Brexitの決着には多く注目が集まっている。
政治に目を向けると、昨年の総選挙を経てメルケル氏率いるCDUが与党第一党の座を確保し、それまで12年間首相を務めたメルケル氏がさらに4年間そのリーダーシップを発揮することとなった。ただし、同選挙にて与党は議席数を大幅に減らしており、結果として内閣組成に要した期間は約半年と異例の事態を招いた。また、直近では難民・移民問題でCDUと意見が対立する与党第二党のCSUゼーホーファー党首がCSU党首および内相辞任の意向を表明し、連立政権は崩壊の危機に直面した。CDUとCSUは協議の末、同問題の対応策で合意して事なきを得たが、メルケル氏の求心力は大幅に低下しており、今後の政治動向には引き続き注視が必要である。
2.ドイツ自動車産業の動向
ドイツの主要産業である自動車産業では足元、面白い動きが出ている。ご存知のとおり、ドイツには世界的な大手OEMやTier1サプライヤーが複数存在しており、長きにわたりお互いの強烈なライバル意識を持ちつつ、マーケットシェア拡大に向けた競争を繰り広げてきた。
一方、EV化、自動運転、モビリティなどに伴う自動車業界における新エコシステムの構築がグローバルに進むなか、IT企業をはじめとする新規プレーヤーによる自動車業界への本格的参入が見込まれ、既存の大手OEM・Tier1サプライヤーは新エコシステムにおけるポジションの確保が最重要課題となっている。その結果、ドイツOEM同士が連携したEVチャージャープロジェクトの発足や、複数のOEMによる同一の自動運転関連ソフトウェア企業に対する共同投資等、これまでにはない新たなトレンドが生まれつつある。
II.ドイツにおける日系案件の状況およびM&Aにおける留意点
1.ドイツにおける日系案件トレンド
日系企業によるドイツ企業の買収案件(以下、日独案件)は過去数年、年間約25件程度と安定的な水準にて推移してきた。2017年は件数がやや落ち込んだものの、2018年に入り従前を上回るペースで日独案件が成立しており、足元では高いモメンタムを維持している。
また、図表1のとおり、日独案件は一件当たりの平均規模が比較的小さいという特徴を持つ。これはターゲットとなるドイツ企業の多くが優れたノウハウを有するMittelstand(中小企業)が大層を占めることが主な要因となっている。
日独案件の業種別比率は図表2のとおりとなっている。これまでも自動車関連および化学関連を中心としたIndustrials案件に加えてTMT案件が中心であったが、足元ではそのトレンドがさらに顕著化している。なお、TMT案件は自動車関連ソフトウェア関係の案件がしばしば見られるという特徴を持つ。
2.Mittelstand(ドイツにおける中小企業)を理解する
ドイツにおけるM&Aを語るうえで「Mittelstand」の理解は必要不可避である。Mittelstandは直訳すると「ミドルクラス」となるが、いわゆる中小企業を指している。このMittelstandはドイツGDPの50%近くを占め、国内雇用の約70%を支えていると言われており、「Made in Germany」ブランドとして積極的な輸出戦略を展開する傾向にある。また、ニッチかつ最先端の技術に特化するプレーヤーが多く、彼らはしばしば「World Class Hidden Champions」とも呼ばれる。
なお、Mittelstandは国内に広く分散しているという特徴を有する。これはドイツに赴任して発見した驚きだが、ドイツは国内における人口の分散が非常に進んでいる。要因は複数存在するが、「官」による積極的な地方インフラ整備政策に加え、各地方にて雇用を創出するMittelstandの存在による影響も大きいと考えられる。
余談だが、大都市と思われがちな私が駐在しているフランクフルト・アム・マイン市も人口は70万人強にとどまる。参考までに、これは日本で言えば相模原市とほぼ同等の人口である。
3.ドイツでM&Aを実施する際の留意点
~M&Aの成功は、Mittelstandをいかに攻略するかが大きなポイント~
ドイツにおけるM&Aの成功を目指す際、Mittelstandをいかに攻略するかが大きなポイントとなる。
Mittelstandのオーナーの多くはM&A慣れをしておらず、中には英語を話せない者、(ドイツ的)昔堅気な者、リスクを忌み嫌う者、直情的な者など、バラエティーに富む。これらオーナーを説得するには相手の特色を十二分に理解したうえでの慎重な交渉が必要となる。そのため、まずは日系クライアントのニーズに合うMittelstandを的確に発見し、熟慮された能動的かつ戦略的アプローチを仕掛けることが肝要である。
上記の背景もあり、Deloitteとしてもドイツに興味を有する日系クライアントに対しては案件のエクセキューションより一歩手前のマーケット調査、スクリーニング、ショートリストへの絞り込み、アプローチ戦略の検討よりサポートするケースが多く見られる。
III.最後に~Deloitteドイツの紹介~
DeloitteドイツとしてクロスボーダーM&Aの中でも特に日独案件に対する関心は高く、ファームとしても最も手厚いサポートを得ている領域である。コーポレートファイナンシャルアドバイザリーは、日独案件専任のローカルマネージングディレクターが所属しており「日独案件ならでは」の経験・知見の蓄積が進んでいる。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フランクフルト駐在
太田 壮一
(2018.7.23)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
記事全文[PDF]
こちらから記事全文[PDF]のダウンロードができます。
関連サービス
M&A:トップページ
・ M&Aアドバイザリー
・ 海外ビジネス支援
・ ドイツでの日経企業向けサービス
シリーズ記事一覧
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の駐在員が、現地のM&Aの状況・トレンド、M&A交渉の際の留意点などをご紹介します。
・ 世界のM&A事情
その他の記事
基礎からのM&A講座
ファイナンシャルアドバイザリー メルマガ連載記事