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大学を取り巻く環境と大学統合について

大学統合の難しさと成功に向けたポイント、海外の事例

中央教育審議会大学分科会において、2017年、大学再編を進めるための新制度の検討が始まった。そこで、本レポートでは、日本の大学が持続的な経営を行う方法として、大学統合の可能性やその意義を探る。

大学を取り巻く国際的競争・協調の現状

近年、スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校のように、シリコンバレーで活躍する人材輩出や産学連携の中核となっている大学が注目されている。これらと同様、日本の大学にも、価値創造のプラットフォームとなることや日本の若者を世界で活躍できる人材に育て上げる機能が期待されるようになっている。

こうした社会からの期待が大きくなるなか、日本の大学を取り巻く経営環境は、国内の社会環境だけではなく、海外大学が競争相手として出現したことで、厳しさを増している。

 

大学を取り巻く環境の変化

帝国データバンク「私立大学を運営する498法人の経営実態調査」 によると、2016年度の大学法人の37.2%は赤字経営であり、三期連続赤字となっている大学も19.9%存在している。また、4年制大学への進学率上昇が鈍化するなか、2017年には120万人であった18歳人口は、2031年には99万人まで減少することが予想されている。日本の大学の主なステークホルダーである18歳人口の減少は、大学経営悪化に直結し、大学を取り巻くパラダイムシフトが確実に進んでいると同時に、大学の淘汰が確実視されている。

こうした環境では、日本の大学の多くは、18歳の入学者以外の顧客を新規獲得しなくてはならない状況にあるが、必ずしも企業から期待されている価値を提供できているとは言えないのが現状である。日本企業の新卒採用では大学で身に付けた専門性や知識・技能は、アルバイト経験よりも重視されていないという調査結果や、著名な日本企業は国内大学よりも海外大学と共同研究を行うことが多いことは、これを示しているとも言えるだろう。

前述の通り、こうした国内状況に加え、海外大学が日本の大学の競争相手として出現している。マレーシアの首相が筑波大学に対して、マレーシアに分校を設置するように要請したという報道からもわかるようにボーダーレスな市場化が進んでいることがうかがえる。

オーストラリアの大学では、自国の学生のみならず、留学生の獲得も非常に重要視しており、その対象として日本の学生も例外ではない。背景にはオーストラリアにおける留学サービスは、鉄鉱石・石炭に次いで大きな外貨獲得の手段であることから、留学生の権利保護を行うための「留学生のための教育サービス(ESOS)法」等を制定するなど、オーストラリア政府として留学生の獲得を目指していることもある。

また、世界の有力大学は、潤沢な大学基金から留学生向けに返金不要の奨学金を捻出し、自学が望んでいる属性の学生獲得を行っている。国際的に知名度が高い海外大学の学位は、国際的レピュテーションが決して高いとは言えない大半の日本の大学よりもグローバル社会においてキャリアを築くためには有効であることも多いため、海外でのキャリア志向のある18歳は、日本の大学より海外の大学を選択することも多くなっている。

こうした学校や学生の現状だけでなく、優秀な教員は、より優秀な学生の教育・研究指導を求め、海外大学に移ることにも抵抗がない状況にある。それは更なる海外への学生流出や学生の質の低下を引き起こし、日本の大学の評判への影響も懸念されるところだろう。

 

「大学統合」という選択肢

こうした環境の中で、大学が既存のリソースのみを利用し、国内外の競争を勝ち抜くことは、従来より難しくなってきていることは間違いない。そこで、大学が単独で努力し、サービス提供するよりも、複数の大学がリソースを最適化・再構築することで、社会的評判を高め、国際競争力ある大学を生み出すことが求められる。そのための一つの選択肢として「大学統合」という選択肢が言及されることが増えている。もちろん国際的競争の激化のみが理由ではなく、どちらかというと国の財政的制約やその他複合的要素によるものであることは言うまでもない。

日本の現行法の下では、こうした選択肢を自主的に採用できるのは、私立学校法により所轄官庁による規制ができるだけ制限され、直接的に国が介入することはできない私立大学のみである。そして、競争力を生み出すためには、互いの大学で有していない分野を獲得しシナジー効果を生み出す必要があるため、総合大学と単科大学、単科大学と単科大学という組み合わせが考えられる。

 

大学統合の海外事例

ここからは、大学統合が戦略的に行われた事例を確認していきたい。

長期的な戦略に基づき大学統合を行い成功した例としては、Imperial College Londonがある。同校は言わずと知れたイギリスの名門校でロンドンに本部を置く公立研究大学である。Times Higher Education World University Rankings 2018において総合9位(日本最高位は東京大学の42位)にランキングされている。University of London群の1つを構成していた単科大学のImperial College Londonは、St Mary‘s Hospital Medical School等の機関と合併を重ね、研究教育分野を拡大し、世界的な研究機関としての名声を築いていった 。そして、創立100周年にあたる2007年にはUniversity of London群から独立したというケースが有名である。

新しいリソースを獲得するための大学統合には次のようなものがある。フィンランドのAalto Universityは、2010年にHelsinki University of Technology、Helsinki School of Economics、University of Art and Design HelsinkiというDesign Thinkingでも注目される工学・経済・アートという要素が統合し、イノベーションを生み出すための新しい大学となった。スコットランドのUniversity of Edinburghは、革新的なプログラム提供や新しい収入源を生み出すために、2011年にEdinburgh College of Artsと統合した。

 

大学統合の難しさと成功に向けたポイント

持続可能な経営を行うための選択肢である大学統合が、民間企業のように実現した例は日本においては少ない。そこで最後に大学統合を具体的に進めるためのポイントを検討していきたい。

(1) 自大学のビジョン、強み・弱み等を整理する

大学統合は、大学の掲げている長期ビジョンやプランを達成する手段の一つと考えられるが、統合を行った後に、こうした目標の違いを解消していくことは大きなコストがかかる。そのため、将来の大学像、それに向けた経営方針、大学が持つ強み・弱み、他大学の動向等について入念に調査・分析を行い、現状を正確に把握する必要がある。

そのためには、判断根拠となる大学情報を一括して集めるIR(Institutional Research:特に経営IR)を充実させ、客観的な数値データによる分析とともに、大学の構成員を交えたワークショップを実施し、意見を収集することも有効である。加えて、外部アドバイザーや海外を含めた統廃合の有識者、大学の卒業生や大学関係者以外から意見を聞くことができれば、より客観的に大学を把握できるようになるだろう。ただし、こうした意見収集では、当事者が実施するとバイアスがかかりやすいため、第三者を利用することで客観的な判断を得て欲しい。研究の強みに関しては、Web of Science等の指標を使い、自大学の状況を把握するだけではなく、他大学の状況との比較も必要となる(本来的には他学比較ができるようなIRの仕組みは構築されて然るべきとは考えるが)。また、分野ごとに、学生の就職先や就職率を詳細に分析することも、社会から大学がどのように判断されているかを把握することや、社会動向を理解するには有用であろう。

(2) 大学統合を検討している大学間で将来ビジョン、教育方針を一致させる

大学は、理念やビジョンにより教育方針や大学文化が大きく変わるため、統合を検討している大学と理念が近いか、または理念を一致させるということが可能かどうかを見極める必要がある。University of SydneyのSydney College of the ArtsがUniversity of New South WalesのArt and Designに統合される計画があったが、優れたビジュアルアート機関として持つべきビジョンが異なるという理由で、2016年に計画は白紙となった。

ビジョンのすり合わせには、大学統合を検討している大学間の相互理解が欠かせない。そのため、大学間を越えて、教職員や学生のワークショップや討論会を開催し、意見や結果を大学内部に発信し続け、関係者の理解を得られるようにすることで、ビジョンや教育方針の一致を探ることが有効である。そのため、検討過程や結果をWEBサイトや学内広報誌を通じて、随時発信し続ける必要がある。もちろん、情報を一方的に発信して終わりにしてしまうのではなく、寄せられた質疑に対し、常時回答を行っていく真摯な対応を行うことが欠かせない。また、メディアにおいて、大学が置かれている環境や大学統合の意義を取り上げてもらい、社会的合意形成していくことも必要だろう。

(3) 研究・教育リソースのシナジー効果はどれほどあるか

大学は、新規の研究成果を生み出し、そうした成果を教育に還元することで学生を集め、大学を成り立たせてきた歴史がある。そのため、大学統合により大学が持っている研究・教育リソースのシナジー効果を得られるかどうかは極めて重要な検討論点である。研究費獲得や産学連携の際に、統合する大学教員の研究分野が、分野を越えて相互に補完できる関係になっているか検討することが、シナジー効果を生み出せるかどうかのポイントの一つである。このためには、大学が実施している研究・教育分野のカテゴリー分けを精緻に行い、さらに、それぞれの分野の中で近接分野の研究分野をマッピングし、リソースの全容を把握する必要がある。そして、各分野における研究の強弱および、各分野間のつながりを把握し、大学統合に際し、シナジー効果を生み出せるか検討する必要がある。これを実施するには、研究・教育従事者へのヒアリングを実施し、各分野の状況を把握した後に、先見性や各分野の専門知識を持った専門家による検討が不可欠である。例えば、環境や医療といった大学として取り組むべき社会課題を解決するために必要なリソースと、現在のリソースや統合後のリソースを比較することで、シナジー効果について検討することが可能だろう。

(4) 寄附金の使用方針を統一できるか

寄付による大学基金は、外部環境に影響を受けずに、長期的視点で大学が投資を行うことができる財源であり、寄付受入れを如何にして増加させるかは、近年の大学運営の大きな課題となっている。統合により大学基金の総額が大きくなるため、より広範囲にわたって研究費、施設費、奨学金等に配分することが可能となる。しかし、これまで異なる方針で実施してきた大学基金は、大学統合により運用・使用方針を統一させる必要が出てくる。場合によっては、寄付団体や個人に対して、説明責任が発生する。大学基金の方針について合意が取れていないと、統合後の基金の使用に支障が発生してしまうことは容易に想像できる。

大学基金の方針の統合は、大学の将来ビジョンとも密接に関連してくる。そのため、合意がとれたビジョンに基づき、具体的に、どのように方針を立てるかを検討していく必要がある。また、金銭的利害関係が発生してくるため、関係者のみで実施するのではなく、外部機関を利用し、統一を図っていくことで、大きな問題を発生させることなく合意形成を図り易くなる(民間企業やスポーツ団体などの新設・統合、新規スポンサーを受けた場合などに基金の使途に際し、外部のフィナンシャルアドバイザーを入れることはよくある例だ)。また、米国でDesignated Fundと呼ばれる理事会や大学経営者の裁量で自由に使用可能な大学基金については、統合した後は監視の目が届きにくいため、より一層合意形成が必要となることに注意しなくてはならない。

(5) 同窓会組織と合意はとれているか

学生の就職活動サポートや大学基金の充実を支えてくれる同窓会組織の意向を大学は無視することはできない。卒業生の就職実績は、大学収入を大きく増加させることができる受験料収入を左右する。また、大学基金の充実には、同窓会組織との連携が不可欠であり、連携が上手くとれていなければ、大学基金の拡充は難しいものになってしまう。そのため、大学統合が検討された際には、相互の同窓会組織に説明に伺い、理解を求めるような活動を実施しなくてはならない。

同窓会組織との円滑な関係を構築するには、コミュニケーションを継続して取っておく必要がある。そのため、定期的な意見交換の機会の開催や、合同イベントを開催するなどが有効であるが、大学の過去・現在・未来について、真剣に語り合えるような場を設定できるようにしておく必要がある。また、同窓会組織にも多くの種類があり、大学全体の同窓会組織と連絡を行うか、各学部・専攻の同窓会組織と連絡を行うかによって情報伝達が大きく変わってくる。そのため、コミュニケーション内容に合わせて、対象とする同窓会組織を変更していくような柔軟さが必要となる。

 

統合後の観点・まとめ

国内大学の競争力を強化するため、大学統合という選択肢とそれを実行に移すために考慮すべきポイントを考察した。もちろん、これ以外のポイントでも実務上必須となるものが多くある。例えば、経営観点で統合後の人事制度の統合・新設・移行、各種規程類の調整、各種システムの統合・リプレイスなどは間違いなく重要な要対応事項だろう。こうした検討ポイントを考慮すると、決して難易度の低い選択肢でないことは明らかであり、かつ統合後の対応も必要となることは間違いない。 一方で、強みの強化、弱みの克服を経て、国際的に持続可能で競争力のある大学となるために、有効な手法の一つとして考えられるだろう。

国内大学も環境の変化に対応していくため、大学内部での業務改善等に注目が集まりがちであるが、本コラムで記載したように、戦略的に統合するという選択肢も検討価値はあるかと思われる。

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