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「教育」で達成するSDGs

~ユネスコスクールのまち 大牟田市の事例~

福岡県大牟田市にあるすべての小・中・特別支援学校は、ESD(Education for Sustainable Development)を通じて平和や国際的な連携を実践する学校としてUNESCOが認めた「ユネスコスクール」である。2012年1月、大牟田市のすべての市立学校が一斉にユネスコスクールに加盟した。市立学校全校が一斉に加盟という事例は日本で初めてであった。デロイト トーマツの教育セクターでは、大牟田市のこうしたSDGs / ESDの取り組みを応援していきたい。

1. ユネスコスクールのまち 大牟田

福岡県大牟田市にあるすべての小学校、中学校、特別支援学校は、ESD(Education for Sustainable Development )を通じて平和や国際的な連携を実践する学校としてUNESCOが認めた「ユネスコスクール」である。2012年1月、大牟田市のすべての市立学校が一斉にユネスコスクールに加盟した。市立学校全校が一斉に加盟という事例は日本で初めてのことであった。「石炭の火が消えても、教育の火は赤々と燃えている、教育が充実したまちでありたい」との市内のあらゆる教育関係者に共通した強い思いから実現した出来事であった。

こうしたユネスコスクール加盟の経緯も含めて、現在に至るまで、大牟田市は日本においてESDに取り組んでいる先進地域である。2018年1月に開催された「ユネスコスクール子どもサミット」では、市内の主要な企業や団体の関係者とともに市長による「ユネスコスクール・ESDのまち おおむた」宣言が行われた。2017年に市制施行100年目を迎え、次の100年に向けても人を中心としたまちづくりに取組み、ESDのリーディングシティとして、市を挙げて取り組むことを全世界に向けて発信したものである。大牟田市では、既述の「ユネスコスクール子どもサミット」をはじめ、「ユネスコスクール全国大会」、ユネスコスクールやESD関連の研究会などが盛んに行われており、その様子の一部は、UNESCO本部のニュースレターなどで紹介されている¹。

  • 大牟田市のユネスコスクールの取組みの特徴として、以下の3点が挙げられる。すべての学校がユネスコスクールに加盟する「ホールスクール・アプローチ」
  • 教育委員会を中心とした市内での取組み
  • 地域の特色を生かした教育内容

このうち、2点目および3点目に関して、詳細を述べる。

2. 教育委員会を中心とした市内での取組み

■「大牟田版SDGs」  

既述のとおり、大牟田市のユネスコスクール市立学校一斉加盟は、まちの教育への熱い思いから実現したものである。市役所には、市長を本部長とする「大牟田市ESD推進本部」を設け、全庁的にESDに取組み、2017年には、教育委員会が中心となって、「大牟田版SDGs(Sustainable Development Goals: SDGs)」(図1参照)を作成した。「大牟田版SDGs」は、SDGsの17の目標から、日本の普遍的な課題および大牟田独自の課題に対して、大牟田市の学校で取り組んできたESDの実践をもとに、育てたい子ども像を示したものであり、こうした取組みは他地域に例を見ない。ユネスコスクールでの実践を着実に積み上げてきたからこそ可能な、特色ある取組みである。

■「大牟田ESDコンソーシアム」

2014年度から、文部科学省による「グローバル人材の育成に向けたESDの推進事業」の採択団体として、大牟田市教育委員会が中心となり、福岡教育大学や福岡県教育委員会、市内のユネスコスクールおよび地元企業やNPO等とコンソーシアムを構成し、域内でのESDに関する連携強化および国内外の交流の促進を図るための諸事業を実施している。構成団体は、様々な形態で、市内のESDの取組みを支援している。構成団体の1つである大牟田柳川信用金庫は、全店舗で市立学校でのユネスコスクールの取組みを展示し、市民に理解を促す活動を行ったり、市内のユネスコスクールのうち29校にユネスコスクールの日制定宣言パネルとESD関連図書を2冊ずつ寄贈するなどの活動を通して、ユネスコスクールの活動を支援している²。ESDの活動は、一般市民にとっては、決してなじみの深いものではない。大牟田柳川信用金庫のようなユネスコスクールの活動支援は、保護者や地元の経済社会がESDやSDGsについての理解を深めるきっかけにもなっている。

■「子ども大牟田検定」、「ユネスコスクール便り」

子どもたちの学びを促すため、まち独自教材の開発にも取り組んでいる。「子ども大牟田検定」は大牟田の子どもたちに、大牟田のよさを知り、郷土への誇りを育むために2011年より実施しており、大牟田の自然や文化、伝統などを学ぶ検定試験となっている。この検定で出題される「大牟田の宝もの」を調べる資料として、「子ども大牟田検定」ガイドブック(平成29年度改訂)を作成している(図2)。内容に関しても、子どもの年代やレベルに応じたものが用意されるなど、子どもたちが楽しく取り組むことができるよう、工夫がなされている。また、教員の知識や指導力の向上を図るため、ユネスコスクール一斉加盟と前後して、「ユネスコスクール便り」が発行されている。この「ユネスコスクール便り」は毎月1回のペースで発行されており、ESD関連のニュースや各学校での実践などが掲載されている(図3)。

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3. 地域の特色を生かした教育内容(吉野小学校、宅峰中学校の事例)

大牟田市立吉野小学校は、2017年12月に行われた「第9回ユネスコスクール全国大会」でESD大賞の最高峰である「文部科学大臣賞」を受賞した。今回の受賞は、2013年から吉野小学校の子どもたちが取り組んでいる「桜プロジェクト」での取組みが評価されたものである。「桜プロジェクト」は、吉野小学校の子どもたちが、「吉野のまちを桜でいっぱいにしよう」という思いのもと、吉野校区総合まちづくり協議会や、吉野校区民生委員の方々などと協力して進めている取組みである。子どもたちは、以前「桜のまち」と呼ばれていた自分たちの住む地域が、どのように変化してきたのか、目で見たり、調べたりするなどして知り、まちを桜でいっぱいにするためにはどうしたらよいか自分たちで考え、地域の方々に協力を仰ぎながら、自分たちで考えたことを実行した。例えば、地域の夏祭りで、みこしを出したり、チラシを作成するなどしてPR活動を行い、そうした活動で得た資金をもとに、地域の方と一緒に、桜の植樹を行った。現在も「桜プロジェクト」での活動の思いは校内および地域で引き継がれている。

地域のシンボルである「桜」を共通テーマにとりあげ、地域の一員として、積極的により良い地域づくりに参画した経験は子どもたちにとって、大変貴重なものである。大牟田市内では、吉野小学校の取組みに限らず、高齢化の進む地域課題に対応した取組み(宅峰中学校の「認知症の絵本教室」など)や、石炭採掘の歴史を踏まえた取組み(明治小学校の「エネルギーのまち大牟田」など)など、地域の特色を生かした教育が各校で行われている。

4. 結びにかえて

本レポートでは、大牟田市におけるESDについて、主に教育委員会を中心としたまち全体の取組みとユネスコスクールの取組みから紹介した。本レポートで紹介した「大牟田版SDGs」に記載された「こんなことができる子どもを育てたい!」のひとつひとつを達成し、ESDのリーディングシティである大牟田市において、教育で達成する持続可能なまちづくりが実現することを期待したい。

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有限責任監査法人トーマツ
ガバメント&パブリックサービシーズ 教育セクター(Education)
シニアマネジャー:吉田 圭造 / スタッフ:吉村 典子
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