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財政計画(財政規律)との連携・整合性
学校法人における中長期計画の策定(第3回)
学校法人の中長期計画の意義、計画の内容、計画を達成するポイント等について解説する本シリーズの第3回は、戦略の策定・実行を進めていく上で、戦略実行コストと財政計画(財政規律)との連携・整合性について解説する。
短期と長期のバランスマネジメント
戦略の策定・実行を進めていく上で、戦略実行コストと財政計画(財政規律)との連携・整合性が必要となるため、第3回ではこの点について解説する。前述した、中長期計画の必要性の中で、「戦略的・計画的なお金の使い方で将来に差が出る」と記載した。その心として、今財政が厳しいからといって必要な投資をしないと将来に歴然とした差が出る可能性がある。このため中長期戦略と財政規律の一体的な取組みが必要となる。ともすると「理想の追求」と「財政規律」は、相矛盾する可能性があるが、双方のバランスをとりながら、いかに両立させていくかがポイントとなる。下記に、両立させていく際の考え方を2つ紹介する。1つは、短期と長期のバランスマネジメント、もう1つは、財政シミュレーションと重要管理指標(KPI:Key Performance Indicator)の設定である。
1.戦略コスト
ポイントは、2つある。第1に、戦略コスト(戦略的な事業やプロジェクトを実行するコスト)については、短期的な視点で安易に支出を削らず、将来のことを考え必要な投資を実行することである。なぜなら、中長期計画終了年度におけるビジョン・目標の達成は、今現在、戦略的なコストをどれだけ投入し有効に使用したかにかかっているからである。第2に、財政規律の観点から、いかに戦略コストの財源を確保するかが2つ目のポイントとなる。このためには、予算編成における改善(特に経常費予算のコスト削減)、予算執行・管理を厳格に行い自力で財源を生み出す努力が重要である。また寄附金や競争的資金等の外部資金を積極的に獲得することも同じように重要である。
2.財政シミュレーションとKPIの設定
また各項目の指標の例を示すと次のようになる。中長期の戦略目標の設定と実行にあたっては、財政シミュレーションと適切なKPIを設定することが重要である。中長期計画策定には、財政シミュレーションが必要だが、あくまで戦略目標策定・戦略コストの予算化のための手段であって、シミュレーション自体が目的化しないよう留意すべきである。そこで、まずは大元の目的である、戦略目標の策定・実行による目標達成のストーリーを確認することにする。
<戦略目標達成のストーリーの例>
・少人数対話型授業により学生への教育密着度を上げる。(教員一人あたり学生数を少なくする)
・上記により、学生の成績アップを図る。
・これにより就職率のアップや就職企業の評価を向上させる。
・就職企業の評価向上と就職率アップにより学校のブランドが高まり、志願者数のアップや寄付金等の外部資金の獲得がしやすくなる。
・上記により収入額がアップすることにより(教員の人件費の増加分を吸収して)、財務内容が改善し、再び教育研究の充実・強化のために資金(コスト)を投入できる。
これらの好循環サイクルを図示すると次のようになる。
また各項目の指標の例を示すと次のようになる。
さらに先の戦略目標達成ストーリーに基づき、戦略目標とKPI、戦略コストの設定例をあげると次のようになる。
少人数対話型授業により、教員数の増加が必要となる。結果として、人件費は増加するが、入学者数増加という結果がえられるまで時間がかかる。その間は、外部資金獲得額の向上を図る等の帰属収入の増加目標が必要になる。ここに、財政シミュレーションとそれをふまえたKPIの目標管理が必要となる。
1年目は、少人数対話型授業のための教員人件費の増加、外部資金獲得のための管理経費の増加を見込んでいる。寄付金等の外部資金による帰属収入の増加は目指すものの、教育研究経費の戦略予算経費は必要十分な額の確保が必要であるため、財政規律の観点から、教育研究経費の経常予算経費や管理経費については厳格な予算管理が必要となる。具体的には、教育研究経費、管理経費は、大科目としての総額を一定水準以内に納めながら、戦略事業費(教育研究経費の戦略予算経費や管理経費の中の広報費など)の確保等のメリハリを効かせた期間配分と予算管理が必要となる。
このように、中長期計画は、「経営資源の配分計画」ともいえる。
中長期計画のまとめとして、その要約を1枚にまとめると下記の図になる。
経営計画は作ることが目的ではなく、その計画を実行して、ビジョンや経営目標を達成するためにある。ここにメッセージを伝えたい。
シンプルな計画で全教職員に浸透!
実行してこそ意味がある!
検証してこそ改善できる!
要はPDCAを回し続けることが肝要である。