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地方公共団体における内部統制の法制度化(その1)

想定される制度概要の紹介

地方自治法の一部改正により、地方公共団体において内部統制が制度化されました。改正内容や、地方制度調査会の答申等に基づき、制度の概要について紹介します。

①地方自治法の改正

平成29年6月2日、第193回通常国会において、地方自治法等の一部を改正する法律案が可決され、6月9日に公布されました。

今回の改正で新設された地方自治法第150条では、都道府県知事と政令指定都市の市長に対して、財務に関する事務等の「管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを確保するための方針を定め、及びこれに基づき必要な体制を整備しなければならない」ことなどが求められており、地方公共団体におけるいわゆる内部統制が制度化(内部統制に関する方針の策定等)されました。

具体的な中身や手法等は、総務省令や今後の議論を待つ必要がありますが、今回は、改正事項のうち、内部統制に関する方針の策定等に関連する部分を紹介するとともに、改正の背景となった第31次地方制度調査会による「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」(平成28年3月16日 地方制度調査会)(以下、「答申」とします。)の概要を紹介します。

②地方自治法の改正内容

今回の改正では、都道府県知事と指定都市の市長に対して、以下の事項を求める規定となっています。

  • 財務に関する事務等の管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを確保するための方針を定め、及びこれに基づき要な体制を整備すること
  • 上記方針を定め、または変更したときは、遅滞なく公表すること
  • 毎会計年度、方針及びこれに基づき整備した体制について評価した報告書を作成すること
  • 上記報告書について、監査委員の審査に付したうえで議会に提出し、公表すること

なお、指定都市以外の市町村に対しては努力義務とされていますが、参議院附帯決議において、政府は、「指定都市以外の市町村においても内部統制に関する方針が早急に策定されるよう引き続き検討を行うこと」とされました。

③地方自治法改正の背景

1) 答申の概要

続いて、今回の改正の背景となった第31次地方制度調査会の答申について紹介します。

第31次地方制度調査会では、「人口減少社会に的確に対応する三大都市圏及び地方圏の地方行政体制のあり方」と、「議会制度や監査制度等の地方公共団体のガバナンスのあり方」について、審議が行われました。

審議を踏まえた答申では、地方公共団体のガバナンスのあり方として、長、監査委員等、議会、住民が、「役割分担の方向性を共有しながら、それぞれが有する強みを活かして事務の適正性を確保することが重要」とされました。この具体的事項の一つとして、地方公共団体においても内部統制体制を整備及び運用することが求められ、特に、地方公共団体の長には内部統制体制を整備及び運用する権限と責任があることを明確化すべき、とされました。

なお、地方公共団体において「内部統制を制度化し、その取組みを進めることにより、

  1. マネジメントの強化
  2. 事務の適正性の確保が促されること
  3. 監査委員の監査の重点化・質の強化・実効性の確保の促進
  4. 議会や住民による監視のための必要な判断材料の提供

等の意義が考えられる」とされています。

2) 答申において示された内部統制のあり方

また、答申では、地方公共団体の内部統制のあり方として、以下の事項が示されています。

i. 内部統制体制の整備及び運用の責任の所在
  • 長と議会の二元代表制の下において、地方公共団体の事務を適正に執行する義務と責任は、基本的に事務の管理執行権を有する長にあることから、内部統制体制を整備及び運用する権限と責任は長にあると考えるべき
ii. 評価及びコントロールの対象とすべきリスク
  • 内部統制の対象とするリスクは、内部統制の取組の段階的な発展を促す観点も考慮して、地方公共団体が最低限評価すべき重要なリスクであり、内部統制の取組の発展のきっかけとなるものをまず設定すべき
  • 財務に関する事務の執行におけるリスクを、最低限評価するリスクとすべき
  • それ以外のリスク(例えば、情報の管理に関するリスク)についても、地方公共団体の判断により内部統制の対象とすることが考えられる
iii. 内部統制体制の整備及び運用のあり方
  • 長が内部統制体制の整備及び運用に関する基本的な方針を作成し、公表することが必要
  • 長は、その運用状況を自ら評価し、その評価内容について監査委員の監査を受ける必要
  • 加えて、長は、その評価内容と監査結果を議会に報告するとともに、それらを公表して住民への説明責任を果たす必要
iv. 内部統制の制度化にあたっての留意点
  • コストと効果が見合わない過度な内部統制体制の整備につながらないようにすべき
v. 内部統制体制の整備及び運用の具体的な手続き等の制度化
  • すべての地方公共団体の長には内部統制体制を整備及び運用する権限と責任があることを制度的に明確化すべき
  • 内部統制体制の整備及び運用のあり方については、規模等の多様性を踏まえて具体的な手続き等を制度化すべき
  • 小規模な市町村については、具体的な手続きや取組内容等について国や都道府県が必要な情報提供や助言等を行っていくべき

④地方自治法の改正を踏まえ、関係者に求められること

各地方公共団体において取り組むべき事項は、関係する総務省令や今後の議論を踏まえて具体的になっていくものと考えられます。法律の施行は平成32年4月1日とされていますが、内部統制体制の整備には一定の時間がかかると考えられ、必ずしも時間的余裕があるわけではありません。

今回の改正は、基本的には答申の内容を踏まえたものになっていることから、各地方公共団体においては、答申のほか、これまでの地方公共団体における内部統制の議論や、民間企業における取組例などを参考に、先行して取り組んでいくことが必要と考えられます。

デロイト トーマツ グループは、当web上において、引き続き、地方公共団体に求められる内部統制の概念や事例等について紹介していく予定です。

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