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製品事故への備えとSNS炎上への備え

【連載:第6回】グローバル時代のクライシスマネジメント『ビジネス法務2017年10月号(2017年8月21日発売)』掲載

製品事故といっても、製品は実に多種多様であり、製品の使用者、つまり製品事故の被害者も特定少数、特定多数、不特定多数、不特定少数、国内のみ、国内外など多岐にわたる。それぞれの製品ごとの特徴などに合わせて細かくチューニングする必要があるが、今回は製品事故に共通して必要と考えているクライシスマネジメントについて記載する。(著者:デロイト トーマツ 執行役員/パートナー 三木要、シニアマネジャー 亀井将博)

1.製品事故における初動対応と平時の備え

※図表はダウンロード資料よりご確認ください 


I. 製品事故について

昨今、メーカーの安全品質管理の向上の必要性は日に日に増しており、その安全性は今もって日進月歩である。これはひとえにメーカーの努力であり、安全な製品を届けるという使命感によるものであるが、背景には、特に日本では品質に対する厳しい消費者、行政(消費者庁など)、さまざまな第三者機関の目や、マスメディアなどの視点にさらされているという点があることも否定できない。

それは、何か事故があればすぐに世間に伝播し、製品に対する評価だけではなく、メーカーの技術力そのものに対する評価に直結し、メーカーそのものの存続にかかわる。

特にSNSの発達した現在では、メーカーが事象を把握するよりもかなり前に消費者の間に伝播している事例も多々見られる。一方で、メーカーの不断の努力にもかかわらず、製品は使用するものである以上、製品事故がゼロになりにくいことも厳然たる事実である。

かつて製品リコールは一大事と捉えられがちであり、そのため悪質なケースでは隠蔽もあったが、現在は、メーカーの迅速な対応が多くなってきている。また、透明性のある説明があれば実態以上に責められるようなレピュテーションリスクも少なく、かつてよりもメーカーは素早く、かつ良い意味で多くのリコール届出をすることで、消費者や使用者への早期の注意喚起に貢献するという本来の制度趣旨が浸透しつつある。

したがって、製品使用者の観点から、メーカーは純然と製品事故ゼロを目指していただきたいが、クライシスマネジメントの観点からは、メーカーには事故が起きた場合の初動対応、そのための平時の備えをいかにしているかということが、他のクライシス(データ改ざんなどの不祥事)と異なり如実に成果として現れることに注意が必要である。


II. 多種多様な製品事故

製品事故といっても、製品は工業品、日用品、部品、完成品、食料品、医療品、輸送機械、工作物、公共物など実に多種多様であり、製品の使用者、つまり製品事故の被害者も特定少数、特定多数、不特定多数、不特定少数、国内のみ、国内外など多岐にわたる。

それぞれの製品ごとの特徴などに合わせて細かくチューニングする必要があるが、今回は製品事故に共通して必要と考えているクライシスマネジメントについて記載する。


III. 被害拡大を最小限にするための兆候の早期発見と初動対応

製品は世間一般をはじめとして流通しているものであり、社会に対する影響度も流通量に応じて大きくなりがちであることが製品事故の特徴である。そのため、事故の兆候の発見、事故発生時の初動対応が使用者にとってもメーカー自身にとっても極めて重要となる。

特に、一般消費財や食品など、広範囲かつ使用者までのトレースが難しい製品については、リコールをしても回収の難易度が高いため、早期発見と迅速な初動対応が必須となる。

製品事故の発生が判明した場合の、クライシスマネジメントでの初動の重要性は本連載第3回で述べたが、いわゆるデータ改ざんのような不祥事に比べて生命・身体や大きな財産価値の毀損にかかわる事象が多いため、使用者のためにも迅速な初動対応が求められ、それがメーカー自身のためにもなる。

クライシスマネジメントの基本は「事実の認定」だが、特に製品事故の場合は、平時の製品製作時における品質維持向上と同じく「三現主義(現場、現物、現実)」が極めて重要である。そのためには情報の収集と分析が最重要かつ必須であり、多面的な情報入手ルートが必要である。

以下、主な初動時の情報収集と分析に必要な方策(情報ルート)について5つ記載する。


(1)コールセンター

コールセンターの設置は、特に不特定多数の使用者がある場合、製品事故の発生と同時の開設が必須となる。これは通常の問合せ窓口としてのコールセンター以外に当該製品事故に関する問合せ窓口として別途設置すべきであり、ここで当該製品の事故状況や広がりなどのトレーサビリティに資するだけでなく、原因究明にあたってのヒントになる情報を得ることができ、ひいては原因の対策を講じることができるということにもなる。


(2)サプライチェーンや販売ルート

製品事故の範囲や今後の拡大の見積もり、拡大の阻止をするうえで当該製品のサプライチェーンや販売ルートを追跡することが非常に重要である。対象製品を特定したうえで、トレースすることになるが、ここでのトレースや情報収集が現状の被害の範囲や拡大の想定をするための情報として最も正確であり、確実に取れる情報であることから、場合によってはサプライチェーン(組み立てメーカー等)や販売ルート(代理店等)には事故対応チームに入ってもらい、まさに一心同体で対応することも積極的に検討すべきである。


(3)マスメディア

マスメディアへの対応についても、他のクライシスマネジメントのケースとやや異なる対応が必要となる。いわゆる不祥事案件の場合は、時にはマスメディアと真っ向から主張が対立することになることが多く、情報の少ない初期には認定した事実以外をマスメディアに提供することは事態を混乱させるだけになる場合があるが、製品事故の初動対応としてはマスメディアを巻き込んだ情報収集が必要な場合がある。そのためには、事実認定の途中であっても、その点を十分に説明したうえでマスメディアに情報提供することで、正確な事実認定のための情報収集に協力してもらうことが必要になる場合がある。


(4)行政

消費者庁や監督官庁とは、リコール届出など法令上の義務遂行だけでなく、みずから協力要請をすることも極めて重要である。官庁は民間では持つことが難しい、また官庁のみ扱うことを許されている情報やルートを持っており、使用者のためにも法令上の義務だけでなく、協力を求め、情報共有をすることで、対応のアドバイスや協力を求めることが必要である。


(5)SNS

昨今の特徴として、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は大きな課題であり、製品事故に限らず、正確ではない情報が短時間で拡散するリスクがある。一方、タイムリーな発信は広範な使用者に対する情報提供(注意喚起)に有効であることから、情報発信の点では非常に有効である。この点はマスメディアへの積極的な情報発信と同じである。


IV)迅速な初動対応のための平時の備え

上記の主な初動の迅速性のためにも、以下のような平時の備えが非常に重要である。

・コールセンター:通常の問合せ窓口ではなく、専用対応窓口が必要であるが、急にコールセンター対応要員を集め、対応についてトレーニングし、社内のみで対応することは不可能である。社外のクライシスマネジメントの専門家(集団)と平時から事故発生時を想定し連携しておくことをお勧めする。

・製品事故:当該製品のトレーサビリティ機能の確保はまさに平時にこそ力を入れるべきである。昨今では製品事故の場合だけでなく、平時の事業戦略の分析や物流効率化などに資することができるよう、各部品にICチップなどトレーサビリティ機能を付けることでビッグデータ化し、分析する企業も増えつつある。もちろん、サプライチェーンや販売ルートとの良好な取引関係を維持していることが大前提ではある。

・マスメディア:製品事故の場合、その場になって急に協力関係を築くことは難しい。特に一般消費財ではない製品はマスメディアとしても解説が難しくなるため、平時の広報活動やメディア対応において製品の特徴や使用方法などを丁寧に説明することが、販売促進活動としてだけでなく、クライシスマネジメントにつながることを意識すべきである。

・官庁:規制業種であれば平時もコミュニケーションが取れるが、そうでない業種の場合は平時の備えが難しい。担当を決めることでマスメディアと同様に意識的にコミュニケーションを取ることを留意すべきである。

SNSについては、次章に譲りたい。

 

製品事故への備えとSNS炎上への備え (PDF, 1,353KB)

2.SNS炎上とレピュテーションの毀損

I)SNS炎上対策に必要となるモニタリング

(1)予防統制の限界・対応速度の向上

昨今、SNSでの消費者とのコミュニケーションが増えているが、一度対応を誤ると炎上のリスクをはらんでいる。私物のスマートフォンなどを使用して、本来守秘の対象であるべき顧客情報を発信してしまう。あるいは、一般人のなにげない投稿が1時間も経たぬ間に数十万のSNSユーザに拡散する可能性がある。
よって、企業は発見統制である24/7 SNSモニタリングを強化し、得た情報を基に、すばやく対応ができるように危機管理体制を整備し訓練する必要がある。
 

(2)SNSモニタリングの向上(【図表1】参照)

発見統制である24/7 SNSモニタリングは一般的に以下の4段階で向上させるとよい。基本的に段階が進むほど費用がかかる。

・第一段階:Twitter等マイクロブログでの特定キーワードを含む投稿数の急上昇を検知しアラートを発信する。ITを利用する。

・第二段階:マイクロブログだけでなく、幅広い媒体から特定キーワードを含む投稿を集め、その投稿数が多い場合に内容を閲覧しリスクの度合いを判断する。主にITを利用して人間が補足する。

・第三段階:SNSに限らないネット情報に目を配り、件数、内容からその危険性を判断しアラートを発信する、あるいは関連投稿をとりまとめレポーティングする。ITを利用するが人間の目がより重要となる。

・第四段階:自社が所有する情報を含め、SNSと統合した大量の情報を、人工知能などを駆使して分析しその徴候から危機を察知する。高度なITと専門知識を有する人間の力が必要となるが、まだ完全な実用段階には至っていない。
 

II)レピュテーションの毀損のコントロール

(1)対応の基本3パターン

炎上に見舞われた場合は、以下の3パターンを念頭に、投稿者が誰か、反響の大きさはどうか、削除は可能か、といった条件からその対応を選定するとよい(【図表2】参照)。

・静観:SNSは基本的に個人が自由な情報交換を行う場であることから、単に自社が中傷されている場合は、あえて企業から能動的なアクションを行う必要はない。もっとも多く採用されるパターンである。

・意見表明:炎上や拡散が始まっており、その反響や影響が甚大であると考えられる場合は積極的な情報開示を検討する。意図せぬ編集を受けることを避けるため、自社のホームページに開示情報を記載し企業アカウントなどで周知するのが一般的である。SNSは拡散力が強くかつ閲覧者も投稿が可能な双方向のコミュニケーションツールである。二次炎上を誘発しないように、不十分な体制で企業アカウントを危機対応時の情報発信に使用することは自重した方がよい。

・削除要請:特に外部に被害者が生じる可能性が想定される場合は削除要請を行う。発端投稿を把握できる場合に有効な手段であり、Webサイトの運営者に要請し、法的に削除手続をするといった方法がある。検索サイトでの掲載順位を相対的に下げる、といった一時しのぎ的な対応は推奨しない。
 

(2)意見表明の段階別整理

意見表明は危機対応時の情報開示と同様に考えるとよい。危機対応時の情報開示は以下の3段階で整理できる。

・被害拡大の防止:最優先すべきは自組織外に拡大する被害の抑止であり、自組織に対する悪評の抑制ではない。

・お詫び・釈明:たとえ自組織に不都合な情報であったとしても、それが社会に役立つものであれば、誠実に正確に開示し非を認めるという姿勢を示す必要がある。

・回復:第三者による検証結果の取得、検証可能で合理的な再発防止策の実装、サービス再開への周囲の理解がすべて得られる場合に、ステークホルダーへの謝意とともに回復を報告する。

これらの段階のそれぞれが組み合わされて同時に訪れる場合もある。

レピュテーションコントロールの目標は、既出の悪評の削減ではない。誠実で正確で適時な情報開示により悪評の新規発生を抑え、時間をかけて信頼を回復することにある。

 

著者プロフィール

三木 要(みき かなめ)

2015年デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社入社。大手電力会社で経営企画から法務まで幅広く対応する中で、数多くのクライシス対応案件をマネジメント。一部上場の素材メーカーで事業企画部長として事業計画の立案・管理やM&Aにも従事。現在、デロイト トーマツ グループにおける資源・エネルギー インダストリーの中心メンバーおよびクライシスマネジメントセクターの専門家。


亀井 将博(かめい まさひろ)

リスクマネジメント体制構築支援、J-SOX関連業務支援、内部監査業務支援、事業継続計画(BCP)策定などを経験。2010年よりソーシャルメディアコンサルタント業務および内部通報制度関連業務に従事。金融、自動車、製造業、製薬業、保険業、食品製造業、サービス業など業種業態規模を問わずWebモニタリングサービス、および企業SNSの運営体制構築を支援。

 

【連載】グローバル時代のクライシスマネジメント

『ビジネス法務』にて計8回の記事連載

連載期間:2017年5月号(2017年3月21日発売)~2017年12月号(2017年10月21日発売予定)

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デロイトが考えるクライシス・インシデント対応における3つのプロセス

デロイト トーマツ グループは、自然発生か人為的発生、あるいは経済、政治、金融、技術的な理由にかかわらず、甚大度と頻度を増しつつあるクライシスに対応するためのこうな準備態勢を支援します。

フォレンジック、リストラクチャリング、金融犯罪、サイバー、レジリエンスサービス等を含むデロイト トーマツ グループの卓越した専門能力とグローバルネットワークを統合する(総称「デロイト」)ことにより、多種多様なクライシスに備え、迅速かつ効果的に対処し、最終的に企業価値を高めるための支援を行います。

 

クライシス・インシデント対応の提供サービス全体像(3つのR)

準備プロセス:Readiness 「予防/事前準備」
対処プロセス:Response 「クライシス・インシデント発生時支援業務」
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