ナレッジ

世界の国・地域におけるクライシスの特徴

【連載:第8回】グローバル時代のクライシスマネジメント『ビジネス法務2017年12月号(2017年10月21日発売)』掲載

海外で活躍する企業を取り巻くリスクとしては、大きくコマーシャルリスク(契約書等でヘッジが可能なリスク)とカントリーリスク(コマーシャルリスク以外)に大別することができるが、今号では、主にカントリーリスクを中心に世界の国・地域のリスク・クライシスの特徴について見てみたい。(著者:有限責任監査法人 ディレクター 茂木寿)

1.はじめに

※図表はダウンロード資料よりご確認ください 

 

昨今の日本企業の海外進出の拡大、さらに世界の政治・経済・社会情勢の流動化に伴い、日本企業を取り巻くリスクは急速に多様化している状況である。当然ながら、日本企業がクライシスに遭遇する頻度は非常に高まっていると言える。

海外で活躍する企業を取り巻くリスクとしては、大きくコマーシャルリスク(契約書等でヘッジが可能なリスク)とカントリーリスク(コマーシャルリスク以外*1)に大別することができるが、今号では、主にカントリーリスクを中心に世界の国・地域のリスク・クライシスの特徴について見てみたい。なお、下記はあくまでも世界の国・地域、それぞれの特徴的なリスク・クライシスについて述べたものであり、どの国・地域においても、程度の差はあるものの、すべてのカントリーリスクおよびこれに関わるクライシスが存在していることに留意する必要がある。


*1)当該国の政治問題、経済問題、社会問題、労務問題、自然災害、治安問題(暴動・テロ等を含む)、コンプライアンス問題(現地法令・競争法違反等)、現地でのオペレーションに関わる問題(インフラ問題、火災・産業事故・労働災害、医療・感染症、交通事故、その他)等のリスク。

世界の国・地域におけるクライシスの特徴 (PDF, 926KB)

2.日本

世界銀行が毎年発表している「Doing Business Ranking」の最新版(2017年版)によれば、日本の投資環境・ビジネス環境は世界190カ国中34位となっており、欧米に比べても遜色ない水準を維持している。また、各種カントリーリスクの格付けでも、日本は非常に良い評価となっており、日本では政治、経済、社会問題等のカントリーリスクは高くないのが実情である。

一方、日本では自然災害のリスクが際立っている。日本はユーラシアプレート、北米プレート、フィリピン海プレート、太平洋プレートがぶつかり合う地域に位置していることから、全世界で発生するマグニチュード6.0以上の地震の20.5%が日本で発生し、全世界の活火山の7.0%が日本にあると言われている(内閣府「平成29年版 防災白書」)。

また、日本では地震、噴火といった自然災害の他、日本近海で年間20以上発生する台風による風水害というリスクも高い。さらに、日本の地勢が起伏に富んだ地形となっていることから、洪水、土砂災害等も数多く発生するという特徴もある。そのため、日本においては自然災害による事業継続上のクライシスに遭遇するリスクが高いと言える。

3.アジア地域

アジア地域と言った場合、地理的に非常に広い範囲となることから、ここでは、中国、東南アジア、インドを中心にまとめる。

中国は世界最大の人口を有する大国であるが、その最大の特徴は、政治体制が中国共産党を中心とした社会主義体制となっている一方、経済は資本主義的な政策がとられていることである。そのため、海外企業が中国で活動する場合には、政治的なリスクに注意が必要である。たとえば、日本と中国との政治的な問題(靖国神社参拝問題、尖閣諸島領有権問題、歴史教科書問題、東シナ海ガス田問題等)により、大規模な反日抗議デモに発展し、進出企業が多大な被害を受ける場合もある。

また、中国では各種法制度の制定が発展途上となっていることから、急激に法制度が変化する場合もあることに留意が必要である。さらに、中国は広い国土を有する国であることから、自然災害リスクも高くなっている。たとえば、洪水、地震等は高い脅威となっている。また、それ以外の自然災害リスクも高く、火山噴火以外のほぼすべてのリスクがあるとされている。

東南アジアのリスク・クライシスを考えるうえで、最も留意が必要なのが、法制度の問題である。東南アジアはASEANを中心に11カ国あるが、すべての国が独自の言語を持ち、法制度もそれぞれ違うということに留意する必要がある。日本企業の中には、シンガポール、タイ等に東南アジアの統括拠点を置く場合もあるが、言語、法制度がすべて違うため、統括拠点がこれらの多様性に対応できない場合も少なくないのが実情である。

さらに東南アジアの場合、シンガポール以外のほとんどの国においては、社会インフラが未整備である国も多い。たとえば、世界経済フォーラムが毎年発表する「Global Competitiveness Report」の最新版(2016-2017版)では、世界138カ国中、フィリピンが112位となる等、インフラ整備の遅れが見られる。

また、政府機関における腐敗の度合いが高いこともリスクの多様化を助長している。たとえば、非政府組織であるトランスペアレンシー・インターナショナルが毎年発表する「腐敗認識指数ランキング」の最新版(2016年版:ランキングが低い程腐敗の度合いが高い)によれば、世界176カ国中、ミャンマーが136位、カンボジアが156位となっている。

東南アジアは地勢が複雑であることから、自然災害リスクが非常に高くなっている。たとえば、国連が毎年発表している「World Risk Report」の最新版(2016年版)によれば、自然災害リスクのランキングでは、フィリピンが171カ国中3位、ブルネイが7位、カンボジアが9位、ベトナムが18位、インドネシアが36位となっており、自然災害リスクが相対的に高いことがわかる(ちなみに日本は17位となっている)。そのため、事業継続上のクライシスに遭遇する可能性が非常に高いと言える。これ以外では、東南アジアの場合、テロ脅威が高い国が多い事にも留意が必要である。

インドは南アジアの中では、独立以来、クーデター等で政権交代がなかった唯一の国であり、「世界最大の民主国家」とも言われている。民主的な手続が重んじられているため、政策決定に時間を要するという問題もある。たとえば、インフラ整備の遅れは、このような点に起因している。

インドにおける最大のビジネスリスクの1つが労務リスクである。インドの労働法令の最大の特徴は労働者保護の面での規制的側面が強いことがあげられる。また、労働法令は州レベルでも一定の範囲内で制定・修正が可能であり、州ごとに労働条件が変わる場合があることにも留意が必要である(憲法で連邦・各州政府の権限が明記されており、労働法令は国・州の共管とされており、州により労働規制の実態は異なる場合がある)。

また、インドにおける労務管理で留意が必要なのがカースト制度である。インド憲法15条においては、宗教・人種・カースト・性別・出生地等による差別を禁止しているが、同憲法では特定のカースト・部族等(Scheduled Castes(SC)・Scheduled Tribes(ST)・Other Backward Class(OBC))の社会的弱者への積極的差別是正措置についても明記しており、現状においてもカースト制度はインド社会全般に根付いていると言われている。

さらに、労働組合の活動も活発であり、企業内・職場内に複数の労組が併存する場合も多く、小規模労組が乱立する場合もあることから、ストライキ等の労働争議が頻発・過激化する背景となっている。

インドにおいては、連邦制の国家であることにも留意が必要である。たとえば、連邦の権限としては、国防・外交・通信・通貨・関税を主管するが、州政府は法と秩序・公衆衛生・教育・農林漁業等を主管するとしている。また、経済計画・社会保障・労働・貿易・産業は共管事項となっており、企業活動において、州政府の権限が大きいことが、汚職・腐敗が発生しやすい土壌である。また、インドは民主主義が浸透している反面、行政機関での許認可等に長時間を要する場合が多いことも、汚職・腐敗を助長する要因とされている。この他、インドではテロ脅威が高いことにも留意が必要である。

4.北米・南米地域

北米大陸(米国・カナダ)は西側で地震が多発し、東側ではハリケーンの影響があるが、全体的には自然災害のリスクは低い。また、それ以外のカントリーリスクも低い状況となっているが、今年に入り、トランプ政権が誕生したため、米国においては政治的に不安定化している状況も見られる。

米国においては昨今、政治、経済の問題の他に社会問題も顕在化している。白人警官による黒人の殺害に端を発した大規模な抗議デモ、白人至上主義団体とこれに反対する団体が衝突した事件等は記憶に新しい。また、米国社会では所得格差の拡大が顕著であり、これに抗議する市民によるニューヨークのウォール街の占拠事件(2011年9月~)も発生している。これらの傾向は今後米国社会に深刻な影響を与え、リスクを多様化する要因となっている。さらに、2013年4月のボストンマラソン爆破テロ事件、2016年6月のフロリダ州でのナイトクラブ襲撃テロ事件等、テロ脅威も非常に高くなっていることにも留意が必要である。

メキシコでは、1982年8月に累積債務問題が表面化し、政府は債務のモラトリアム(支払猶予)を宣言した等、経済的な問題もある。一方で、1994年1月に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効し、空前の投資ブームとなり、現在では日本企業の進出が加速している。しかしながら、トランプ政権の誕生に伴い、その先行きは不透明な状況である。

メキシコでは1910年にメキシコ革命が発生し、1917年2月にはメキシコ革命憲法が制定された。この憲法の下、農地改革、鉄道・石油産業の国有化等が実施された。その後、1929年から2000年までは、 制度的革命党(PRI)の実施的な独裁政権が続いた。一方、このPRIの長期政権はメキシコ社会における汚職構造を浸透させたとも言われている。

メキシコにおいて、企業にとっての大きなリスクは労務リスクである。連邦労働法は1931年の制定以来、これまでに40回以上改正されているが、その大原則は労働者保護である。たとえば、法律の解釈に疑義が生じた場合には労働者に有利な解釈が適用されている点等はメキシコ特有であるとされている。また、解雇に関しては、連邦労働法47条に懲戒解雇の際に必要な相手方への通知等の煩雑な手続が定められているため、事実上、懲戒解雇は困難とされている。

この他、メキシコでは西側を中心に地震リスクが高く、東側はハリケーン等のリスクが高いことから、自然災害リスクは相対的に高い状況である。

ブラジルは国土が広い割に自然災害リスクが非常に低いという特徴がある。一方で、いろいろなリスクを内包している。たとえば、海外企業がブラジルで活動する場合、よくあげられるリスクが治安に関するリスク、納税に関わるリスク、労務リスク、通関に関するリスクである。

ブラジルは世界有数の犯罪発生率であるため、自ずと治安対策の措置が企業には求められる。特に都市部においては、ファベーラと呼ばれるスラム街が点在していることから、治安悪化を助長している。また、納税については、連邦税、州税等、100を超える税金があるとされ、料率も頻繁に変わることから、企業側の負担は非常に大きい。また、多くの企業が当局との間で、係争となっていることも少なくない。

労務リスクとしては、メキシコ同様に労働者保護が明確となっていることから、企業側の負担が大きいうえ、年間200万件を超える労働裁判が起きているとされている。ブラジルで労働裁判が多い理由としては、労働訴訟の訴訟要件が極めて緩和されている点、訴訟コストが廉価である点、さらに、労働訴訟に特化した弁護士は成功報酬制で訴訟を受任するため、容易に弁護士に依頼することが可能である点等があげられる。一方で、労働裁判は長期化することも多く、その点も企業にとっては大きなリスクとなっている。

通関、特に輸入品が港等で留め置かれるケースが少なくない。場合によっては、追加の費用を支払わなくてはならない場合も多いとされている。上記のような治安、納税、労務、通関への対応に要する費用は「ブラジルコスト」と総称されている。

ちなみに、ブラジルとメキシコに共通するリスクとしては、治安問題の他、所得格差の問題がある。この問題は深刻であり、このことが社会的に不安定化する要素を持っていると言える。

5.欧州地域

西欧から東欧にかけての広い範囲においては、比較的安定的な大陸に位置していることから、南部の一部を除いて、地震のリスクが低い。また、それ以外の自然災害リスクも小さいという特徴がある。

また、西欧から東欧にかけて、主要国(28カ国)は欧州連合(EU)に加盟し、その多くの国が通貨ユーロを導入していることから、EU域内での為替リスクも小さいという利点がある。法令は各国ごととなっているが、全体がEU法の下にあることから、法制度に関するリスクも相対的に低い状況である。

一方で、通貨ユーロを導入し、中央銀行が金融政策を司っているものの、財政政策等は各国に任されていることから、2010年以降のギリシャ経済危機、その後のスペイン、ポルトガル等への危機の連鎖等の問題が、今後も発生する可能性が指摘されている。さらに、2016年6月には英国が国民投票でEU離脱を決定した等の問題もある。

これらの諸国においては、昨今大きな懸念となっているのが、テロ脅威の急激な拡大である。また、多くの国が大衆迎合的な政策をとっていることから、極右政党への支持が拡大しており、外国人排斥等の風潮を助長している。このことがテロ脅威の拡大につながるという悪循環となっている。

ロシアは世界最大の面積を有する国であるが、その割に自然災害リスクは小さい(極東地域では地震リスクが高い)。一方で、ロシアは2014年以降、ウクライナ東部における内戦に関与し、クリミア半島を併合する等により、国際社会から孤立している状況である。そのことが多くのリスクを助長している。

また、ロシアは連邦制をひいているものの、中央政府の権限が強大であり、場合によっては経済問題にも大きく関与、干渉することも少なくない。また、政府の腐敗問題も深刻であり、企業活動は大きな制約を受けることとなる。

6.中東・アフリカ地域

中東からアフリカにかけての地域は元来、民族、宗教等を基にした部族社会であったが、20世紀に入り、その多くが独立した。しかしながら、部族社会を基にした国境線とはならなかったため、政治的、社会的に多くの問題を内包している。

また、政治的にも民主制が浸透することが困難であるため、王国、独裁制となっている国も少なくない。そのため、これに反発する活動も多く、政治的に不安定化していると言える。

中東地域は比較的、王政が中心となっているが、2011年以降の「アラブの春」により、大きく揺れている。特に、王政以外のシリア、イラクでは内戦状態となっており、不安定化している。一方で、湾岸諸国会議(GCC)諸国等は王政をひいているため、比較的安定しているが、今後急激な変化の可能性も指摘されている。この他、中東地域では、テロ脅威が極めて高いということに留意が必要である。

アフリカ地域においては、腐敗問題、治安問題、格差問題、医療・衛生問題等の問題が山積している状況である。しかしながら、アフリカ大陸には54カ国があることから、そのそれぞれに特徴があり、一概にカントリーリスクを概観することは困難である。

たとえば、南アフリカについては、1994年のマンデラ政権誕生後、政治的に安定し、地下資源にも恵まれていることから、安定的な経済発展を続けており、日本からの進出企業も多い。しかしながら、ここ数年は、政治的、経済的にも不安定化している状況となっている。

【連載】グローバル時代のクライシスマネジメント

『ビジネス法務』にて計8回の記事連載

連載期間:2017年5月号(2017年3月21日発売)~2017年12月号(2017年10月21日発売予定)

>>本連載のアーカイブページ

クライシスマネジメントに関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。

>> クライシスマネジメント:トップページ <<

デロイトが考えるクライシス・インシデント対応における3つのプロセス

デロイト トーマツ グループは、自然発生か人為的発生、あるいは経済、政治、金融、技術的な理由にかかわらず、甚大度と頻度を増しつつあるクライシスに対応するためのこうな準備態勢を支援します。

フォレンジック、リストラクチャリング、金融犯罪、サイバー、レジリエンスサービス等を含むデロイト トーマツ グループの卓越した専門能力とグローバルネットワークを統合する(総称「デロイト」)ことにより、多種多様なクライシスに備え、迅速かつ効果的に対処し、最終的に企業価値を高めるための支援を行います。

 

クライシス・インシデント対応の提供サービス全体像(3つのR)

準備プロセス:Readiness 「予防/事前準備」
対処プロセス:Response 「クライシス・インシデント発生時支援業務」
回復プロセス:Recovery 「沈静化後」
お役に立ちましたか?