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製造業の経営窮境要因のパターンと事業再生の方向性

クライシスマネジメントメールマガジン 第30号

シリーズ:製造業の経営窮境要因と事業再生に向けた打ち手 第1回

2020年初頭からのコロナ禍は製造業も直撃した。最終製品を製造するメーカーが世界中で生産調整を実施した結果、コロナ禍以前から経営状況が芳しくなかった一部のBtoBを主とする製造業は一気に経営危機、もしくはその予備軍に陥っており、我々にも数多くの相談が寄せられている。このような窮境状況の企業に対して、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社では事業再生に向けた支援を行っている。今回はこのような製造業の再生への処方箋を、シリーズを通じて紹介する。

1. 製造業の置かれている市場/経営環境(業界構造不況)

BtoB(法人向けの部品販売)を主とする製造業は、従前より産業構造の変化への対応が求められてきた。最終製品を扱う取引先の市場競争力の変化への対応のみならず、自社の扱う部品製品の技術優位性の変化への対応などだ。

例えば、自動車部品であれば、2000年代におけるメガサプライヤー台頭によるTier1メーカーのTier2化、2012年以降における日系OEM(Original Equipment Manufacturing)のプラットフォーム戦略採用による系列内の序列変化、2016年のパリモーターショーにおけるCASE*の提唱前後における異業種の参入等がその主たる事象である。

*CASE:「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリングとサービス)」「Electric(電動化)」の略

 

他の産業でも、例えば精密機器であれば、デジタルカメラのスマートフォンによる市場の侵食や複写機の印刷から情報サービスへのデジタル化における主要プレイヤーの入れ替わりと、主要部品の変化などの産業構造の変化を引き起こしている。

このような産業構造の変化のきっかけとなるキードライバーは各産業で異なるが、製造業の中でも、現在利益を出し続けていたり、リードしている企業は、そのキードライバーを捉え、自社の事業構造の変化を試み、現在のポジションを確立している。 

ただし、このような動きは一部の製造業で見られるにとどまっており、大多数の製造業においては従前通り主要な取引先に寄りそった部品開発や取引先の製造拠点に合わせた海外工場設備投資を継続している。

結果として、主要な取引先からの度重なるコストダウンのプレッシャーや、自社製品のコモディティー化によるコスト競争の激化、多極化した海外工場の複雑なサプライチェーン管理による収益性の悪化等により、昨今のコロナ禍以前から構造的な不況が慢性化しており、経営状況が厳しい会社が散見される。

 

2. コロナ禍の製造業への影響

2020年初頭頃から始まったコロナ禍により、主要取引先の工場稼働停止や小売網の営業自粛など各産業の製造業は大きな影響を受けており、製造業の中にも経営危機・経営破綻に陥った企業が出てきている。

これらの企業に共通しているのは、コロナ禍によって突然に経営危機に陥ったのではなく、以前から業界構造に起因して業績が悪化していたところに、コロナ禍が生じて「ダメ押し」になってしまったということである。今後、コロナ禍の影響が長期化することによる世界的なリセッションにより主要取引先の工場稼働が回復せず、その結果、製造業の資金および財務基盤が著しく毀損することにより、窮境に陥る製造業がさらに増加することが予想される。

 

3. 製造業の窮境要因/パターン

前段で述べた業界構造不況により窮境状況に陥る会社の要因は主に6つに類別される。

業界構造不況により窮状状態に陥るパターン
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第1に、新たな技術を有する競合出現により既存の取引ポジションを奪取され、その後も新技術の部品開発に対応できずに付加価値の低い部品メーカーのポジションに甘んじているケースが考えられる。このようなケースでは、主に低採算のパーツ受注が残ってしまいがちであることに加え、コモディティー化による価格競争の激化により過去の利益水準を維持できなくなる例が散見される。

第2に、主要取引先が複数社購買とした部品化でのコスト競争が激しくなり、数量確保のために過剰スペック・過度な低価格で受注するケースが考えられる。このようなケースでは、量産段階で企画原価を達成できず、該当部品の量産により継続的に赤字となっている例が散見される。

第3に、現行の主要取引先だけでは十分な低コスト生産が達成できないことから、海外の需要も含めた販売を見越した販売・生産計画を想定し、設備投資を先行させるケースが考えられる。このようなケースでは、先行する設備投資にもかかわらず、想定していた拡販先の量産案件がうまくいかず、その結果として生産設備が低稼働となり、大幅に採算が悪化する。

第4に、海外の商圏確保のための海外部品メーカーの買収を行うも、当該企業を十分管理できていないケースが考えられる。このようなケースでは、想定していた売上拡大への寄与が果たせないばかりか、当該企業が赤字に転落してしまうこともある。その後、立て直しを断念して撤退を模索する際にも、撤退の意思決定になかなか踏み切れず、清算という選択肢しかとり得ない状況まで意思決定が遅れてしまったり、周到な準備なく、投げ売り状態で売却してしまったりする例が散見される。

第5に、日系製造業全般で起きていることだが、売上・納期必達のプレッシャーに負けて仕様を下回る品質の製品を出荷してしまう、所謂品質不正が発生するケースである。不正が発覚した際には、初動対応およびその後の対策に莫大なコスト負担が発生し、一気に経営危機に陥るケースがある。

最後に、従来の成長手段であった発展途上国・新興工業地域への進出や主要取引先の動きと同期を取った海外進出に起因する問題を挙げる。多くの製造業で2000年頃より加速的な海外展開がなされており、兵站が伸び切っているにもかかわらず、経営基盤が脆弱なまま放置されているケースが考えられる。このようなケースでは、関係子会社でトラブルが発生した際にも、本社側の統制がなく、オペレーションも回らないことで効果的な対応が取れず、その場をしのぐための対策(例:国を跨ぐ工場間での部品融通)により収益を悪化させていることがある。

大規模な製造業は自己資本が厚いことが多いため、このコロナ禍で倒産が多く発生している他の業種(例:アパレル、ホテル、飲食等)と比較すると、現時点では倒産・廃業事案は限られているが、自己資本比率の低い中小規模の製造業では経営危機が間近に迫っている可能性もある。また、上で挙げた6つの窮境要因が複数合致する場合においては、加速的に経営危機に向かう危険性があるため、大規模な製造業であっても自社の状況を振り返ってみていただきたい。
 

4. 事業再生に向けた方向性

前述した業界構造の変化が不可逆的なものである以上、以前の業界構造を前提とした施策は再生の選択肢にはならない。業界構造不況を生き残るには、まず手元資金の創出・確保に向けて主要取引先や金融機関等の関係当事者の支援を得ることが重要である。そのうえで、再生プラン(将来戦略)全体を鳥瞰して、全領域の変革(場合によっては合従連衡も含む)を同時並行で検討し、優先順位を付けたうえで迅速果断な対応をとるようなダイナミックな改革が必要となる。以下に我々の考える3stepによる再生プランを提示する。

3stepによる再生プラン
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事業再生の局面においては、短期的な資金創出が最優先事項であるが、同時に将来の成長に向けた打ち手もスピード感を持って検討・実施することが重要である。なぜなら、時間の経過とともに余力がなくなることから、打ち手の選択肢が狭まり、事業変革等の再生シナリオも描けなくなってしまうためである。このような時間に追われる状況下では変化の度合いに応じた施策を整理し矢継ぎ早に実行に移す改革が必要となる。

次回以降では、事業再生に向けて必要となる具体的な打ち手について、実際にデロイト トーマツが支援している事例に基づいて取り上げる。

第2回は、変革の時間を捻出するための短期資金創出の手法について紹介する。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

山西 顕裕
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー パートナー
グローバルリストラクチャリングアドバイザリー

石川 和典
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 シニアバイスプレジデント
グローバルリストラクチャリングアドバイザリー