ナレッジ

事業再編・事業構造改革(その1)

クライシスマネジメントメールマガジン 第36号

シリーズ:製造業の経営窮境要因と事業再生に向けた打ち手 第4回

2020年初頭からのコロナ禍は製造業も直撃した。最終製品を製造するメーカーが世界中で生産調整を実施した結果、コロナ禍以前から経営状況が芳しくなかった一部のBtoBを主とする製造業は一気に経営危機、もしくはその予備軍に陥っており、我々にも数多くの相談が寄せられている。このような窮境状況の企業に対して、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社では事業再生に向けた支援を行っている。今回はこのような製造業の再生への処方箋を、シリーズを通じて紹介する。

1. 事業構造改革の必要性

第3回で述べたように、財務・経営管理基盤を強化することにより、経営に関するリスクを事前に察知し適切な意思決定を行うための基盤を構築することができる。そして、調達・生産コスト削減、不採算・ノンコア事業売却により、収益改善にも一定の効果をあげることが期待できる。しかし、窮境の度合いが深刻な場合、これまでの事業の在り方の延長線では将来の生き残り策を描くことができず、より抜本的な打ち手が必要となるケースもある。そして、特にグローバルでの戦線が拡大している製造業者にとっては、海外拠点戦略のあり方が事業構造改革の中心論点になることが多い。

本稿では、海外拠点再編を中心とした事業構造改革の考え方を一般的なフレームワークとして提示する。そして、それらを実行するための海外拠点統廃合(生産移管含む)の進め方について記載をしたい。

3Stepの図
クリックすると拡大版をご覧になれます

2. 事業構造改革の考え方(ライフステージとビジネス特性に基づく事業構造改革仮説)

製造業者は、市場の成長による後押しや、顧客の拠点拡大に対応する形で、グローバルに拠点数を増加させ、戦線を拡大させてきたケースが多い。

しかし、今後は、世界的な競争環境が激化していく中で、市場や顧客の成長シナリオが必ずしも約束されないことから、製造業者は、自ら中長期的な観点で市場環境を洞察し全社の進むべき方向性を考えるとともに、今後の起こり得る市場の動向を踏まえた効率的な生産体制(能力)の設計が求められる。

ここでは、議論を単純化したフレームワークとして、事業のライフステージ×ビジネス特性の2軸で事業の性格を定義する。

まず、事業ライフステージとは、事業もしくは製品の市場に上市してからの衰退までの盛衰の状態であり、新規性が高く成長局面にあるものを「黎明・拡大期」、ピークを越え成熟、衰退局面にあるものを「成熟・衰退期」と分類する軸である。次に、ビジネス特性とは、事業を、サプライチェーンや顧客要望対応の観点から、ローカル(地域)単位での競争力が優劣の決め手になる事業(ローカルビジネス)、グローバルでの調達・コスト競争力や供給力が競争力の優劣の決め手になる事業(グローバルビジネス)の2つに分類する軸である。

そして、2軸で整理される4象限ごとに事業構造改革の考え方を以下に記載する。

クリックすると拡大版をご覧になれます

(1) 黎明・拡大期×グローバル「特定領域集中 or ファブレス」

DX等、技術・製品そのものが黎明・拡大期であり、グローバルビジネスの特性をもつ場合、往々にして、黎明・拡大期であるが故に市場の立ち上がりが不確実である一方、グローバルデファクトをとるために投資規模が勝負の市場になりやすい。よって、窮境企業にとっては、非常に難しい戦いが強いられる。

そこで、このようなセグメントの事業については、絞り込んだ領域で巨額の研究開発・設備投資を負担し次世代のマーケットリーダーとして勝ち抜くか、ファブレス(研究開発特化)等による機能集中特化で生き抜くか、さらにそれらが現実的でない場合売却するかのクリティカルな意思決定を行う必要がある。

そして、それらのビジネスモデルを構築するうえで、重要な事業協業先の存在が前提となる場合は、事業・資本提携を具体的に検討することが必要な場合も多い。

(2) 成熟・衰退期×グローバル「グローバル拠点集約(1拠点体制)、生産キャパ縮小」

成熟・衰退期に入ったグローバルビジネスでは、グローバル単位での生産統廃合により生産・調達効率の拡大を検討すべきである。市場拡大戦略や顧客への対応等を目的として多くの地域に生産拠点を有している場合、北米や欧州など先進国での生産拠点を縮小・閉鎖し、よりコスト競争力がある新興国に生産集約していくことが検討テーマになるだろう。

これらの取り組みは、一般的に必要な投資額・効果とも金額的に大きなインパクトになりがちなため、再生計画上も主要な取り組み事項のひとつとなりうる。実務においては、拠点再編の大きな方向性を設定のうえ、対象とする製品、生産集方法、移管のタイミング、効果、リスク・対応策などを棚卸し、そのための必要な投資額との比較で最適なシナリオを選択することが必要である。

また、これらの生産拠点再編に伴い新たな生産拠点を設立する場合は、将来の需要低下も想定し、過剰なキャパシティとならないことを意識すべきである。

(3) 黎明・拡大期×ローカル「特定地域集約」

黎明・拡大期のローカルビジネスの場合、総花的に投資を実施し戦線拡大することを避けるため、注力する特定地域を明確にし、投資集中すべきである。地域の絞り込みにあたっては、市場の魅力度のみならず、地政学的リスク、為替リスク等が自社の経営体力から許容可能な水準であるかの見極めが必要なことはいうまでもない。

(4) 成熟・衰退期×ローカル「地域単位での統廃合」

成熟・衰退期に入ったローカルビジネスでは、地域・エリア単位での機能統合を検討していくことで、ローカルビジネスの効率化が検討課題となる。営業・開発・管理等の機能単位で、どの機能は統合メリットが出るのか、統合するならば、どのエリア単位まで集約をかけるのか、機能ごとのエコノミクスを考慮しながら、結論づけていく必要がある。

このように、事業の状態、および特性ごとにそれぞれ適した施策を検討していく事が事業構造改革の実施における鍵となると我々は考えている。

次回、第5回は、本シリーズ最終回として、海外拠点統廃合の進め方を、具体的な事例を通して紹介する。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする

 

執筆者

小川 幸夫(シニアヴァイスプレジデント)
五十鈴川 憲司(シニアヴァイスプレジデント)

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
グローバルリストラクチャリングアドバイザリー 

 

 

お役に立ちましたか?