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不正と会計監査~会計不正発覚後の監査対応上の留意点(2/2)

クライシスマネジメントメールマガジン 第15号

シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第22回

本シリーズでは、フォレンジックの勘所を不正の予防・発見、対処、再発防止の全プロセスにわたり、複数回に分けて紹介します。第22回の本稿では、会計不正の発覚が会計監査に与える影響について解説します。

1. 会計監査人との協議におけるポイント

(ア) 初動対応を迅速かつ慎重に行う

会計不正の解明や事実認定には時間がかかるため、発覚時において全容を把握することは困難であることが多い。また、会計不正が過年度から実施されていた場合、不正調査と並行して財務諸表の過年度遡及修正の検討が必要となるなど、企業にとって経験のない事象が継続的に発生する。初動対応を誤ると、思わぬ事態を引き起こし、スケジュールの大幅な遅延を招きかねない。そのような事態を回避するために、会計不正の初動対応で会計監査人と共有、協議すべき事項を列挙する。

(1) 会計不正の発覚経緯

会社内部(内部通報、内部監査等)によるものか、会社外部(税務調査、取引先からの通報等)によるものか。

(2) 現時点で判明している事実

誰が、何をして、どのような会計不正が発生していることが現時点で判明しているのか。

(3) 財務諸表に与える影響額の推定(期間、金額)

会計不正が各期に与える影響額の推定。影響が当期のみか、過年度にかかるものか。
概算であっても初動対応の事実確認において判明した数字で段階損益への影響が分かるように情報整理を行っておく必要がある。(上場企業であれば四半期単位で集計できるよう、当初から情報整理を進めておくことが以後の対応を進める際に有用である。)

(4) 調査体制

社内調査を中心とするか、外部専門家を入れた委員会方式とするか。
特に経営者や役員等のマネジメントの関与が疑われる場合、調査の独立性を担保できる体制であることの説明が必要となる。一般的に、外部専門家(通常は弁護士および公認会計士が中心)を加えると、独立性と専門性が強化される。また、複雑な会計不正の場合、実態解明のために外部専門家を入れた形の調査を実施することが一般的である。

(5) 調査方法

発覚した会計不正に対する追加の調査方法はどのようなものを想定しているか。
対象となる会計不正案件の実態解明の方法と、ほかに同様の不正がないことを確認する類似案件の調査方法の検討を並行して準備しておく必要がある。この類似案件の調査範囲、調査手法の検討は、監査人との調整を含め専門性を要する業務のため外部専門家の助力が必要となるケースが多い。
 

(イ) 法定期限を意識し、逆算して全社で対応する

会計監査との関係で特に留意すべきは各種期限(例:不正調査報告書の提出日、訂正後財務諸表の会計監査人への提出日、決算発表予定日、開示資料の提出期限等)である。例えば、有価証券報告書などの法定開示資料を提出期限までに提出できないと、最悪の場合、上場廃止などの重いペナルティが生じうる。提出期限までに提出できない理由は不正調査の未了、訂正後財務諸表作成の遅延、会計監査の未了等が想定されるが、これらの作業を並行して実施することが求められるため企業の各担当者の負担は相当なものとなる。

そのため、会計不正の監査対応を進めるにあたり、不正調査の実施期間のみならず、過年度決算を訂正し、財務諸表を再作成する期間や会計監査人による会計監査に必要な期間も確保することが実務上重要となる。そのほかに、関与者の処罰・損害賠償等の法定対応やIR・マスコミ等の対外コミュニケーションも発生し、それが監査へも影響を及ぼしうるため、経理部門だけでなく、会計不正の監査対応は全社で横断的に対応するべきプロジェクトである。

なお、決算スケジュールが調査の時間的な制約となることも多いため、調査の過程を通じて会計監査人との情報共有や協議を継続的に実施することを推奨したい。会計監査人との最初の協議実施時に、以後の定期的なミーティング機会を設定する、定期報告のタイミングを合意しておく等が有用である。

(ウ) 監査人との早期協議

企業が会計不正の対応で不正調査と過年度の訂正報告書の作成を進めるのと同様、会計監査人は会計不正に対する監査手続と過年度の訂正報告書を含む財務諸表等の監査を実施することとなる。

ただし、法定期限がある中で不正事実の検討をしつつ監査を実施せざるを得ないため、企業が実施した不正調査結果を監査手続に利用することが一般的である。したがって、不正調査の範囲や手続は監査上も論理的に説明可能なものであるかが重要であり、また、事後的に検証可能な形で整理し記録しておくことが重要である。以下で会計監査上、特に重要となる協議事項をまとめておく。

(1) デジタルフォレンジックの実施方法(対象者、対象データ、対象期間、キーワード)

最近の不正調査では外部専門家の助力を得てデジタルフォレンジックを実施することが多い。その際、ポイントとなるのは調査対象とする対象者やデータ(メール、携帯、モバイル端末、PCデータ等)の範囲である。
また、デジタルフォレンジックではデータが膨大となるため、調査対象となる不正に関連するキーワードから確認すべきデータを特定する。したがって、どのようなキーワードを選択するかの判断が必要となる。

(2) 類似案件調査の範囲、実施方法

初動時点では判明していなかった情報(例:デジタルフォレンジックから見つかったほかの不正が疑われる情報、従業員へのアンケート調査から判明したほかの不正の告発等)が追加で判明し、実態解明のために調査範囲が拡大することがある。
調査範囲が拡大すれば、調査期間に影響するだけでなく、会計監査人の監査手続にも影響するため重要な発見事項は適時に共有し、方針確認しておくことを推奨する。

(3) 事案調査における監査人からの個別要望の確認

実務上、企業が想定していなかった調査手続を会計監査人独自の視点から要望されることがある。調査スケジュールの終盤になって手続追加とならないよう事前に協議し、調査過程でも都度確認することを推奨する。
 

2. おわりに

今回は、会計不正発覚後に会計監査人と協議をするにあたっての具体的な対応ポイントや収集すべき情報について紹介した。初動対応時点での協議やその後の連携が不十分だと、会計監査が法定期限までに終わらないことも想定しうるため、慎重に対応する必要がある。

なお、これらの不正への対応を事前に十分に準備できている会社は稀で、対症療法的な対応に終始している会社が多いと思われるが、早期発見・早期対応が肝要となる点は本稿でも明らかである。そのためにやるべきことは多い。不正発生は不可避という認識の下、そのための体制・制度づくりを平時の段階から整備しておくことが重要である点を最後に申し添えたい。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジック & クライシスマネジメント サービス

シニアヴァイスプレジデント 石崎 圭介
シニアアナリスト 伊藤 雅樹

(2020.6.3)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。