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気候変動が金融・保険システムに与えるリスク

デロイト トーマツ金融ビジネスセミナー2020(2020年2月20日開催)講演報告

デロイト トーマツ金融ビジネスセミナー2020にて、有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター ディレクター 後藤茂之が、「気候変動が金融・保険システムに与えるリスク」を解説しました。

「気候変動が金融・保険システムに与えるリスク」講演報告

株式会社日本政策投資銀行 松山将之氏をお招きし、有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター ディレクター 後藤茂之が「気候変動が金融・保険システムに与えるリスク」に関して対談を行いました。
先日公表されたWEF(世界経済フォーラム)グローバル・リスク・レポート2020では、これまでの調査の中で初めて、5つのトップリスクがすべて、気候変動、生物多様性などの環境問題が独占しました。気候変動問題が喫緊の課題になっている中で、主に、TCFDの制度開示、リスク評価モデル、ESGへの取組み等をテーマとして取り上げました。

 

対談:

・株式会社日本政策投資銀行
 設備投資研究所 主任研究員 経営企画部サステナビリティ経営室 参事役
 松山 将之 氏(経営管理)
・有限責任監査法人トーマツ
 リスクアドバイザリー事業本部  リスク管理戦略センター  ディレクター 後藤 茂之

デロイト トーマツ金融ビジネスセミナー2020講演報告

 

<TCFD開示との関係と課題>

TCFDの最終報告書が公表された後、賛同数は昨年末時点で1,000を超えており、気候変動問題が喫緊の課題となっていることは明白である。

TCFDの開示が推奨されているが、どのように適用するかは、各国の開示制度に任されており、フレームワークとしての強制はそもそも想定していない。ESGの情報開示の際と同様に、財務情報の連続性と比較対照性についての問題が指摘されるであろう。
しかし、当時とは異なり現在は、企業と投資家の集団エンゲージメントや対話の機会も増えており、そこでは、例えば“マテリアリティ”の質についての議論が当たりまえのように行われている。これは、任意開示における日本型の開示の発展といえるのではないか。従って、TCFDにおいても、将来的に開示の質が向上していくのではないかと考える。
TCFDでは公表されたシナリオを踏まえた戦略的分析が求められているが、業界や各社によって固有に使用しているシナリオがある。シナリオ分析の比較可能性を担保するためには、社内用にシナリオを調整する際に参照した、公表シナリオを明示することが重要である。

 

<リスク評価モデルとビジネスモデルの関係>

企業が一番悩む点は、「シナリオ分析」であるが、金融機関が一番悩むのは、「リスク」と「機会」である。特に、TCFDの掲げる最終的な目標は、気候変動の影響を財務報告書で開示することであり、金融機関は自身の保有しているポートフォリオにおいてリスク管理を行うことが前提となる。
金融機関と一概に言っても銀行や保険、証券など、それぞれの業態でビジネスモデルや規制が異なるため、TCFDの目指す最終ゴールに至るまでの道筋を明確に説明することは難度が高い。
金融機関の各業態の中で、現時点では、シナリオ分析を通じて、不確実性の高い気候変動リスクの特性を把握している状況である。道のりは長いが、COSO( the Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission) が公表したESGのフレームワークが示しているように、今後は気候変動リスクがERMの枠組みの中に完全にインテグレートされることであろう。

 

<ESGへの取り組みと長期的企業価値向上との関係>

銀行のESGの取組みとパフォーマンスの関係についての実証分析を行ったところ、重要性の高いESG項目について積極的に取組んでいる銀行のパフォーマンスは高く、重要性の低い項目に取組んでいる企業とはパフォーマンスの成果に差がある。またWEFでは、リスク中心であった既存のフレームワークに、SDGsの要素を取込み、持続的成長を促す動きが出ている。
ESGのデータベース整備が進むにしたがって、ESGと企業価値向上と有意な関係を示すことは、アカデミアの中でも定着してきた。企業開示に代表される情報の質の問題は、WEFをはじめ、各国でも分析調査が行われ、改善されている。

 

<まとめ>

気候変動リスクに関して、TCFD開示に対する日本独自の進め方、金融機関としての方向性、グローバルな情報開示の方向性について示した。不確実性の高い気候変動リスクへの対応は、タイムリーに様々な分野にまたがって対応が必要な課題である。外部の知見も含めて、多くの関係者を巻き込んで対応する必要がある。
また、ナレッジの集大成であるリスク評価モデルを活用し、各金融機関が異なるビジネスモデルの中で蓄積してきたERMのナレッジをいかに総合的に活用するかといった時代になっている。

 

イベント概要

・タイトル
デロイトトーマツ金融ビジネスセミナー2020

・開催日
2020年2月20日(木)14:00-17:45

・主催
デロイト トーマツ グループ

・会場
デロイト トーマツ グループ内会場よりライブ配信

・対象者
金融機関、金融市場関係者、事業会社における責任者の皆様

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