最新動向/市場予測

企業リスクに影響を与える昨今の事象について

2025年3月7日

政治、経済、社会情勢などの企業活動に影響を与える事象に関して、北米、中南米、欧州、中東、アフリカ、アジア・オセアニアの各地域ごとに、最新状況を踏まえ考察します。

エグゼクティブサマリー

  • 2月28日、米国とウクライナの両大統領による会談は決裂したが、その後関係国間の協議が進む気配も出てきている。
  • トランプ米政権がカナダ・メキシコ・中国への追加関税を発動、修正を繰り返しているため、世界の金融市場が混乱している状況にある。
  • 欧州諸国の選挙では極右政党が躍進しているが、連立政権には参加できていない。この背景には、ウクライナ停戦協議におけるトランプ米政権のロシア寄りの姿勢に対する反発が、親ロシアである欧州極右勢力への逆風となっていることが挙げられる。

 

1. 北米

【政治】

トランプ大統領によるウクライナでの戦争終結を巡る動き
  • 2025年2月18日、米国とロシア両国の代表団の会合がサウジアラビアでもたれたが、この会合にウクライナの参加はなく、米国とロシアの高官のみで行われた。ゼレンスキー大統領は、これが自国抜きで進められたことに対し強く非難し続けている。また同時期にトランプ大統領は、ウクライナの地下資源を米国に供出するという提案を行ったが、ウクライナはこれを拒否した。するとトランプ大統領は、ゼレンスキー大統領が選挙を経ない独裁者だと非難した。
  • ウクライナのゼレンスキー大統領とトランプ米大統領の会談が2025年2月28日、ホワイトハウスで行われた。ウクライナの地下資源に関する協定で合意がなされるものと見られていたが、大統領執務室での会談は記者の前で両大統領が激しく非難しあう異例の展開となり、合意はなされず決裂した。両大統領のこれまでに鬱積した不満が一気に噴き出した状況と言える。3月3日、トランプ大統領はすべてのウクライナ支援を停止した。これに対しウクライナのゼレンスキー大統領は、米国との関係改善への姿勢を示し、3月6日、来週両国がサウジアラビアで協議を行うと発表した。今後については皆目わからない。

【経済】

関税問題
  • トランプ大統領は2024年11月30日、BRICSの加盟国に対し、決済通貨は米ドルのみとするよう求めた。同氏は「我々が傍観している間にBRICS諸国が脱米ドルに向かおうとする考えは終わりだ。我々はこれらの国々に対し、新たなBRICS通貨を創設した場合100%の関税を課し、米国市場への販売を断念することになる」と述べた。
  • トランプ大統領が、就任当日(2025年1月20日)に関税引き上げの大統領令に署名するのではないかと見られていたが、それはなかった。しかし翌日の記者会見で、中国製の輸入品に対する10%の追加関税を早ければ2月1日から課すことを検討していると発表した。またこの会見で「中国は悪い国だが、欧州連合も私たちに対してかなりひどい。だから関税をかける。それしかやり返す方法はない。公正さを手に入れる唯一の方法だ」と述べ、EUにも課税すると宣言した。
  • トランプ政権は2025年2月1日に、2月4日からカナダ・メキシコ産の全製品に25%の関税を課すという大統領令を発令したが、2月3日にはこれを1か月間停止すると表明した。また中国に対しても、中国産の全製品に10%の追加関税を課すと表明し、こちらは米国東部時間2月4日午前0時に発行した。これを受け、中国政府は同日、報復措置を発表している。
  • トランプ大統領は2025年2月18日、米国に輸入される自動車に課する関税について「税率は25%前後になるだろう」と発言した。実際にすべての国に25%の関税措置を導入した場合、米国に自動車を多く輸出する日本にも深刻な影響が懸念される。
  • 2025年3月3日、トランプ大統領は、中国への追加関税を10%から20%に引き上げる大統領令に署名した。また同日、3月4日発動予定のカナダ・メキシコからの輸入品に対して25%の関税をかけるという大統領令について、「もう決まった」と発言した。3月5日、同大統領はカナダとメキシコに対する25%の追加関税について、北米の自動車産業向けに1ヶ月の猶予期間を設けると発表した。3月6日には、カナダとメキシコに対する25%の追加関税の適用免除を4月2日までの暫定措置として自動車以外にも大幅に拡大した。これを受け、カナダ・メキシコは報復措置の発動を4月2日まで延期する見通しである。これらのトランプ政権の発表により、金融市場は世界的に乱高下する事態となっている。

 

2. 欧州

【政治】

ドイツ総選挙
  • 2025年2月23日に実施された総選挙の結果は、保守系野党のキリスト教民主社会同盟(CDU)が28.6%の得票率で208議席を獲得し、第一党となった。極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」は152議席を獲得し、躍進した。ショルツ首相の与党社会民主党(SPD)は120議席と大幅に議席を減らし、第三党に後退した。この結果、キリスト教民主社会同盟(CDU)のメルツ党首が首相に就任する見込みとなった。こうしたなか、CDUは第三党に後退したSPDと連立に向けた協議を開始した。CDUとSPDは第二党に躍進したAfDの政権入りを阻止することで一致しているが、移民対策などで立場に隔たりがあり、連立交渉は難航が予想されている。
オーストリアで極右政権発足の可能性
  • 2024年9月の国民議会(下院)の総選挙で、自由党は難民の受け入れ抑制策や不法移民の国外追放などを標榜し第一党となったが、過半数には届かなかった。当初ファンデアベレン大統領は、自由党が親ロシアで反イスラム傾向が強い極右政党であることから、自由党主導の政権発足を阻止するため、国民党党首に組閣を要請した。しかし国民党と中道左派の社会民主党などとの連立協議が決裂したため、同大統領は2025年1月6日、自由党のキクル党首に組閣を要請した。近年欧州全体が右傾化し、フランスやドイツでも極右政党が軒並み支持を伸ばしているなかでの、初めての極右政権発足であり、これに追随する国が出る可能性もある。また反イスラム的な考えの拡大はイスラム過激派のテロを誘発する要因の一つでもある。
  • 2025年2月12日、連立協議は決裂した。親ロシアの極右政党自由党(EPO)が主導する連立政権樹立に向けた協議が失敗に終わり、「極右」政権の発足はならなかった。当初、自由党と保守派の国民党(OVP)は移民に対する強硬姿勢など多くの問題で見解が一致していたため、早期の合意が見込まれていたが、自由党の要求を巡り収拾がつかず対立していた。ファンデアベレン大統領は各党と今後の対応を協議する方針を示したが、政権が発足できるかどうか、先行き不透明感が強まっている。
  • 3月3日、中道右派の国民党(OVP)、中道左派社会民主党(SPO)、リベラル政党のNEOSによる連立政権の発足が合意された。首相にはOVPのシュトッカー氏が就任する予定である。
  • 昨今ドイツ・オーストリア等に見られるように、欧州諸国では極右勢力への支持率が拡大している。しかしウクライナ停戦協議において、米国トランプ政権のロシア寄りの姿勢が顕在化したことから、親ロシアである欧州極右勢力への逆風が強まっている。このことがドイツ・オーストリアで極右政党が政権入り出来なかったことの一因ともなっている。
ロシアによるウクライナ侵攻
  • 2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は2年以上を経過しているが、依然として終結の兆しが見えず、膠着状況が続いている。侵攻当初はロシア軍が首都キーウを目指していたが、諸般の事情で侵攻直後から東部、南部での攻防に重点が移っていった。2022年9月30日にロシアは東南部4州の併合を宣言した。その後ロシア軍は、一時掌握した領土を奪還されるなど、劣勢に追い込まれることもあったが、契約軍人などで兵力を増強するとともにイラン等から購入したミサイルや無人機、大量の弾薬も使いながら攻勢を強めて主導権を取り戻し、2024年2月ウクライナ側の拠点、東部アウディーイウカの掌握を発表した。一方ウクライナ軍は2023年6月、東部や南部で反転攻勢を開始したがロシア側が築いた強固な防衛線の前に進軍を拒まれた他、砲弾など欧米の軍事支援が停滞するなどして作戦は思うように進んでいない。ウクライナ軍は2024年8月から、ロシア領内クルスク州等に越境攻撃を行っているが膠着状態となっており、今後の展開は全く分からない状況である。
  • 既述のとおり、現在米国とロシアにより戦闘終結に向けた協議が進められているが、今後の展開はわからない。

 

3. 中東

【政治】

イスラエル・ガザ地区における戦闘
  • 2023年10月に勃発したイスラエルとハマスの戦闘は、ガザ地区での激しい空爆と地上戦が続いていた。同地区の人道問題等が国際社会の高い関心を集め、数多くの国が停戦交渉を仲介したが、なかなか進まない状況が続いていた。
  • 2024年5月31日、当時のバイデン米大統領は「ガザ地区にいるイスラエル人の人質解放と引き換えにイスラエルが戦闘休止をする」という提案を明らかにした。この提案は3段階で構成されている。第1段階は6週間の戦闘休止でこの期間はイスラエル軍がガザから撤退し、イスラエル人人質が数百人のパレスチナ囚人と交換される。第2段階ではハマスとイスラエルが敵対行為の恒久的停止の条件について交渉し、第3段階でガザ地区の大規模な復興計画を策定するものである。この提案はイスラエル側からの提案とされているが、イスラエル閣内の強硬派から反対の意向も示されていた。
  • ガザ地区での停戦と人質解放に向けた協議は、イスラエルとハマスの主張の隔たりが大きく交渉は停滞しているが、2025年1月6日までに英国やアラブのメディアが一斉に、ハマスが34人の人質解放に同意したと報じた。
  • イスラエル政府は2025年1月18日、ハマスと合意したガザ地区での1月19日から6週間の停戦と人質解放の枠組みについて正式に承認したと発表した。この発表については世界中から歓迎の意向が示されているが、イスラエル国内では右派や極右勢力の間でハマスとの停戦に反対する声が根強く、1年3ヶ月以上にわたる戦闘の終結に向け、合意が着実に履行されるかは注目される。
  • 停戦が発効してから1か月を経て、これまでのところ停戦は維持されている。第一段階ではハマスがイスラエル人の人質のうち、33人を段階的に解放することになっており、これまでに19人が解放された。またハマスは予定通り、20日に人質4人の遺体を返還し、22日に人質6人を解放した。しかし、恒久的な停戦と残る人質の解放を目指す第2段階に向けた協議は本格的に始まっておらず、ハマスは「イスラエルは協議を先延ばしにしている」と非難し、直ちに協議を始めるよう求めている。
  • イスラエルとハマスの停戦合意は、3月1日に第一段階として設定された時期が過ぎたものの、イスラエル軍がガザ地区から完全に撤退し恒久的な停戦を目指す第2段階への移行を巡って主張の隔たりが埋まっていない。イスラエルは、4月までの停戦の維持と人質の半数を直ちに解放するなどとする米国の新たな案を受け入れ、ハマスがこれを受け入れるまでガザ地区への物資の搬入を停止するとしている。ネタニヤフ首相は3月2日、「人質を拘束し続けるならさらなる措置を講じる。米国とトランプ大統領が私たちを支えてくれる」などと米国を後ろ盾にハマスに圧力を強めている。一方ハマスは3月3日、「イスラエルは物事を振り出しに戻そうとしている」と批判し、改めて第2段階への移行を求めている。このような状況の中、米国のトランプ政権は、ハマスと異例の直接交渉を行う一方、圧力も強めており、先行き不透明な状況である。

 

4. アジア・オセアニア

【政治】

中国全人代
  • 中国では重要政策を決める全国人民代表会議(全人代)が2025年3月5日から始まり、今年の経済成長率の目標を去年と同じ水準の「5%前後」とするなど経済運営の方針が示された。米国との貿易摩擦が激しくなる中、内需拡大に力を入れ、積極的な財政出動で減速する景気を下支えする姿勢を鮮明にしている。

 

以上

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