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最新動向/市場予測
企業リスクに影響を与える昨今の事象について
2025年1月10日
政治、経済、社会情勢などの企業活動に影響を与える事象に関して、北米、中南米、欧州、中東、アフリカ、アジア・オセアニアの各地域ごとに、最新状況を踏まえ考察します。
エグゼクティブサマリー
- 米国のトランプ次期大統領がグリーンランド及びパナマ運河の領有を主張し、そのためには武力行使も辞さないと発言していることに欧州をはじめとする世界各国が批判を強めている。
- カナダのトルドー首相の辞意表明、オーストリアでの極右政党主導による政権樹立など、近年世界的な左派政党の退潮と右派的ポピュリズムの拡大が顕著である。
- シリアでのアサド政権崩壊、ガザ情勢の混迷等、今後の中東地域全体の地政学リスクの急激な変貌が憂慮される。
1. グローバル全体の動き
【社会】
WHOが「エムポックス(サル痘)」について緊急事態宣言
- WHOは2024年8月14日、アフリカ中部で広がる感染症「エムポックス(サル痘)」について約1年3か月ぶりに「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。天然痘に似たエムポックスは元々アフリカの風土病であったが、2022年以降に欧米などで感染が拡大し、2022年7月に緊急事態を宣言、2023年5月に解除していた。今回の緊急事態宣言は新系統のウィルスが見つかり急拡大しているためである。コンゴ民主共和国(旧ザイール)では今年すでに15,600人以上の感染と537人の死亡が報告され、新系統はケニアやルワンダなど周辺国でも確認されている。厚生労働省によれば日本国内でも2022年7月に1例目の患者が報告されて以来発生が続いており、これまでに248例が確認されている。エムポックスはリスやネズミなどの「げっ歯」類やサルなどがウィルスを保有しており、かまれると人に感染する。人から人への感染は肌の接触や性行為などでうつり、発疹のほか発熱や頭痛、リンパ節の腫れなどの症状が出る。多くは発症後2~4週間で自然回復するが感染力は強いとされており、今後の世界的な感染拡大が憂慮される。
- タイ疾病管理当局は2024年8月22日、国内で従来より致死率の高いエムポックス(サル痘)ウィルスが確認されたと発表した。今年アフリカ大陸外での感染確認は2例目でアジアでは初となる。
- インド政府は2024年9月23日、エムポックスに感染していた南部ケララの男性について、ウィルスの種類が致死率の高い変異株「クレード1b」だったと明らかにした。南アジアで確認されたのは初。
- 2024年10月30日英国政府は、英国内で初めて致死率の高い変異株「クレード1b」の感染が確認されたと発表した。
- 中国国家疾病統制予防センターは2025年1月9日、「エムポックスの新しい変種下位系統である1b型集団感染事例が確認された。感染源はコンゴ民主共和国に滞在した履歴がある外国人」とホームページで発表した。
米国で鳥インフルエンザによる初の死者
- 米国ルイジアナ州保健局は2025年1月7日、鳥インフルエンザに感染し重症化した患者が死亡したと発表した。米国で鳥インフルエンザにより人が死亡したケースは今回が初めて。
2. 北米
【政治】
トランプ次期大統領の強硬発言
- トランプ次期大統領は2025年1月7日、デンマークの自治領グリーンランド及びパナマ運河の管理権について「国家の安全保障上、必要だ」と述べ、米国が所有・保有すべきだという考えを改めて示した。また、同氏はこの件について、武力の使用も辞さないと発言し、グリーンランド購入にデンマークが抵抗すれば、関税を課す可能性もあると示唆した。こうした中、ドイツのシュルツ首相は1月8日記者会見を開き、欧州各国の首脳らと意見を交わしたと明らかにした上で「最近のアメリカの発言について我々は理解しきれていない」と述べ、批判した。トランプ次期大統領の発言の真意は不明だが、次期政権が外交的に強硬な姿勢をとる兆候と見られる。
カナダ トルドー首相辞意表明
- カナダのトルドー首相は2025年1月6日、首相を辞任する意向を表明した。インフレ対策などを巡り支持率が低迷し、野党の不信任案提出が取りざたされている中で決断を迫られた形である。与党自由党はトルドー氏の後継選びを本格化させる模様であるが、昨年の主要先進国での選挙においては、左派寄りの政権は軒並み敗戦又は衰退の傾向となっている。トルドー政権は移民の受け入れに寛容で、これがカナダの最近の失業率上昇の原因と見られており、支持率低下の一因となっている。この流れは欧州での極右勢力拡大状況と酷似しており、近年の主要先進国におけるポピュリズム傾向の浸透をうかがうものといえる。
3. 欧州
【政治】
フランスで内閣不信任案可決・総辞職
- 2024年12月4日、議会下院にあたる国民議会が内閣不信任案を可決した。バルニエ首相は同年9月に就任したばかりであったが、社会保障に関する法案を無投票で可決するという強硬な手続きをとったことなどに対し、野党が反発したからである。マクロン大統領は12月13日、バルニエ首相の後継に中道政党議長のバイル氏を指名し新政権が発足した。
オーストリアで極右政権発足の可能性
- 2024年9月の国民議会(下院)の総選挙で、自由党は難民の受け入れ抑制策や不法移民の国外追放などを標榜し第一党となったが、過半数には届かなかった。当初ファンデアベレン大統領は、自由党が親ロシアで反イスラム傾向が強い極右政党であることから、自由党主導の政権発足を阻止するため、国民党党首に組閣を要請した。しかし国民党と中道左派の社会民主党などとの連立協議が決裂したため、同大統領は2025年1月6日、自由党のキクル党首に組閣を要請した。近年欧州全体が右傾化し、フランスやドイツでも極右政党が軒並み支持を伸ばしているなかでの、初めての極右政権発足であり、これに追随する国が出る可能性もある。また反イスラム的な考えの拡大はイスラム過激派のテロを誘発する要因の一つでもある。
4. 中東
【政治】
イスラエル・ガザ地区における戦闘
- 2023年10月以降のイスラエルとハマスの戦闘は、ガザ地区での激しい空爆と地上戦が続いており、同地区の人道問題等、国際社会の高い関心を集めている。数多くの国が停戦交渉を仲介しているが、なかなか進まない状況である。
- 事態の収束が見えないことから、イスラエル国内でも世論の変化が見られる。2024年4月6日にテルアビブなどで、ネタニヤフ首相の退陣と総選挙の早期実施を求める抗議デモがおこった。同様のデモはイスラエル国内各地で実施され、参加者も数万人規模となっている。また、政府と軍の間にはハマスに関する認識の違いがあり、多くの問題を抱えている。
- 2024年9月1日、イスラエルでは、ガザでの停戦と人質解放の合意を求め、全土で70万人規模のデモが行われた。このデモの直接的なきっかけは、8月31日にイスラエル軍がガザ地区で人質となっていた6人の遺体を発見・収容したことに対するネタニヤフ政権への国民の怒りが噴出したことである。汚職を巡る問題を抱えるネタニヤフ首相には、ガザ情勢が終息すると、このまま政権を維持できないとの危惧がある。そのため強硬策以外の選択肢はない状況にあり、このことがガザ情勢の混迷を深めていると言える。
- 国際社会における停戦に向けた仲介が活発化しており、バイデン米大統領は2024年5月31日、イスラエルが、ガザ地区にいるイスラエル人の人質解放と引き換えに戦闘休止を提案したことを明らかにした。この提案は3段階で構成されている。第1段階は6週間の戦闘休止でこの期間はイスラエル軍がガザから撤退し、イスラエル人人質が数百人のパレスチナ囚人と交換される。第2段階ではハマスとイスラエルが敵対行為の恒久的停止の条件について交渉し、第3段階でガザ地区の大規模な復興計画を策定するものである。この提案はイスラエル側からの提案とされているが、イスラエル閣内の強硬派から反対の意向も示されている。
- このような状況下、一部米国メディアは、「イスラエル首相府が代表団を交渉会議へ派遣することを承認した」と報じた。また、ハマス側も妥協案を提示するという報道もあり、交渉が合意に達する可能性はある。
- イスラエルのガラント国防相は2024年7月17日、米国のオースティン国防長官と電話で会談し、「これまでの軍事作戦の結果、人質解放に向けハマスと合意するための条件は整っている」と述べたが、ネタニヤフ首相はハマスへの強硬な姿勢を崩しておらず、閣内で意見が対立している状況にある。
- 停戦に向けた協議が2024年8月15日にカタール・ドーハで再開された。
- 2024年9月4日、米国高官が、「米国、カタール、エジプトを仲介役として、停戦交渉は大筋合意に達しているが、2つの主要な対立点について打開策を探っている」と語った。一つ目はガザとエジプトの境界地帯「フィラデルフィ回廊」にイスラエル軍が駐留継続を求めていることであり、もう一つはハマスとイスラエルの人質交換に含まれる特定の個人の問題である。特に「フィラデルフィ回廊」についてはネタニヤフ首相が駐留継続を強硬に主張しており、交渉が妥結するか否かは不透明な状況である。
- 2024年10月29日、イスラエルのメディアは、イスラエル政府が仲介国カタールに対し新たな停戦案を提示したと報じた。停戦期間を1ヶ月とし、停戦に合わせてハマスが人質11人から14人を解放するのと引き換えにイスラエルがパレスチナの囚人を解放するという内容である。しかしハマスが求めている恒久停戦が盛り込まれておらず、交渉が進展するか否かは不透明である。
- イスラエルとハマス間の停戦交渉が行き詰まる中、イスラエルが新たな提案をハマス側に示したと2024年12月5日に米国メディアが報じた。これについて、カタール系の新聞は12月18日、ハマス幹部がイスラエルとの停戦合意について「ほとんど問題が解決した」と発言し、数日内に合意に達する可能性があると報じた。
- ガザ地区での停戦と人質解放に向けた協議は、イスラエルとハマスの主張の隔たりが大きく交渉は停滞しているが、1月6日までに英国やアラブのメディアが一斉に、ハマスが34人の人質解放に同意したと報じた。これは、仲介国や米国からの圧力を受けたハマスが譲歩する姿勢を見せたとの見方がある一方、ハマスによる時間稼ぎに過ぎないとの指摘もある。
シリアでアサド政権崩壊
- 2011年から内戦状態となっていたシリアで2024年11月27日に反政府軍が大攻勢を仕掛けると、政府軍は後退を続け、12月7日にはダマスカスが陥落し、アサド大統領は国外に逃れ、約半世紀に及んだアサド親子独裁政権が崩壊した。今後反政府側が中心となって政権が樹立されると思われるが、欧米諸国、周辺国の思惑も複雑であり、そう単純ではない。アサド大統領の父親ファフェーズ・アサドの時代から、シリアはイスラム教シーア派の分派であるアラウィー派による独裁政権が続いたことからイランとの関係が深い。また1950年代から中東地域での影響力拡大を目指す旧ソ連との良好な関係から、シリア国内には複数のロシア軍基地がある。一方国境を接しているイスラエルとは、これまで何度も戦火を交えている。また隣国トルコとはクルド人に対する姿勢が違う。クルド人に対してトルコは敵視政策で臨んでいるが、欧米は友好的である。シリア内戦においてこれらの国々が間接的に関与し、今後のシリア情勢に大きな影響を与えることとなる。また歴史的・地理的に関係が深いレバノンが長期にわたって不安定化することも憂慮される。中東地域全体の地政学リスクの急激な高まりが危惧される。
- アサド政権が崩壊してから1か月が経過し、2025年1月初めに今後の国の在り方を話し合う包括的な国民会議を開く方針であったが、開催が延期されることになり、国の安定に向けての国民の融和はまだまだ難しい状況にある。
5. アフリカ
【政治】
モザンビークで政情不安
- 2024年10月実施の選挙直後から、与党が勝利したことに反対する市民による抗議活動が過激化し、12月中旬までに200人以上が死亡する事態となった。12月末には市民134人が死亡し、刑務所から囚人1,500人以上が脱走するなど混乱を極めている。同国は地下資源に恵まれ、比較的治安が安定していたことから、日本企業にとってアフリカ進出の有望株であった。今後の動向が注目される。
6. アジア・オセアニア
【政治】
韓国情勢
- 2024年12月3日早朝、韓国のユン大統領は、来年の予算案に合意しない野党の対応などを理由に「非常戒厳」を宣布すると発表した。しかし直後に国会が「非常戒厳」の解除を要求する決議案を可決したため、大統領は「非常戒厳」宣布の数時間後に解除の発表をすることとなった。この一連の騒動により、韓国国内ではユン大統領への不信感が急激に拡大しており、翌日には野党6党が、ユン大統領弾劾訴追案を国会に提出した。ユン大統領の「非常戒厳」宣布の背景としては、少数与党による困難な国政運営、支持率の低下や夫人のスキャンダル等が挙げられる。ユン氏の去就は定かではないが、北朝鮮を抑止するための日米韓のこれまでの枠組みが不安定化する可能性は高く、今後の朝鮮半島情勢が憂慮される。また近年良好となりつつあった日韓関係が悪化する可能性も否定できない。
- 韓国国会で2024年12月14日、ユン大統領の弾劾案が可決され、同大統領の職務が停止された。今後180日以内に憲法裁判所が弾劾が妥当か否かを判断することとなる。
- ユン大統領の「非常戒厳」宣言について、合同捜査本部は内乱を首謀した疑いで大統領の拘束令状を取ったが期日まで執行できず、裁判所に礼状を再請求して1月7日午後に認められた。合同捜査本部が再度の令状執行を何時試みるかが焦点となっている。
以上
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