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超高齢化社会に対応したシニア活用の可能性

日本が超高齢化社会といわれて久しい。高齢化の進展によって問題となることの一つに労働力人口の減少が挙げられるが、人口減少以上に労働力人口の減少が進むことで年金・福祉・財政や経済への影響が懸念される。今後減少する労働力人口を食い止めていく上で、シニアを労働力として積極的に活用していくことを考える必要があるのではないだろうか。

超高齢化社会におけるシニア活用の必要性

日本が超高齢化社会といわれて久しい。その兆しは1970年には現れ始め、高齢化社会の基準である65歳以上の人口が7%を超えた。その後、高齢化は益々進み、現在ではその割合が21%を超えた超高齢化社会に突入している。これは単に構成の変化に留まらず、人口減少という量の変化も今後生み出していき、OECDが2012年に出したEconomic Outlookによると、日本の人口は徐々に減り始め、2030年には今よりも約600万人も人口が減少していると言われている。

高齢化の進展によって問題となることの一つに労働力人口の減少が挙げられる。独立行政法人労働政策研究・研修機構推計(2008年2月「平成19年労働力需給の推計―労働力需給モデルによる将来推計の結果」によると、女性・高齢者・若年者等の労働市場への参加が進むケースでも2030年には6,180 万人(2012年比△451万人)、進まないケースでは5,584万人(2012年比△1,045万人)と人口減少以上に労働力人口の減少が進むことで年金・福祉・財政や経済への影響が懸念される。人口減少はある種自然的で、また長期的な問題であるが、労働力人口の減少は現有する人材を有効活用することで、その速度を弱め多少なりとも食い止めていくことは出来ないであろうか。非労働人口に目を向けてみると2012年時点で実は労働力人口と同程度の非労働力人口がいることがわかる。そのうち15歳以下の子供を除く4500万人のうち約2/3にあたる3,000万人が65歳以上のシニアであり、今後減少する労働力人口を食い止めていく上で、シニアを労働力として積極的に活用していくことを考える必要があるのではないだろうか。

図1:労働力/非労働力人口(2012年度)

日本のシニア人材活用に関する取り組み ~65歳定年制~

2013年4月、改正高年齢者雇用安定法の施行により、雇用主は、2025年度までに希望する従業員全員の雇用を65歳まで確保するよう定年退職制度の廃止・定年年齢の引き上げ・再雇用制度のいずれかを実施することが義務付けられた。既に60歳以上の人材の活用を進める企業も増えてきており、その多くは、再雇用制度を採用し、従来業務の継続・もしくは現役社員のサポートが主とした業務に従事させている。

しかし、日本における高齢者活用は、厚生年金の受給開始年齢の段階的引き上げに対し、60歳以降の年金受給開始までの無収入期間を穴埋めするという年金制度への対応という側面が強く、60歳以前に正社員を離れている人や65歳以上の人材を有効活用し、本来的に労働力人口を高めていくまでには至っていないのが現状である。

EUにおけるシニア人材活用に関する取り組み ~起業支援とボランティア~

欧州委員会の第3次人口動態報告書(2011年4月)によると、EUでは半世紀後の2060年に約30%が65歳以上になり、さらに80歳以上の高齢者の数は、1990年の4倍になるといわれている。また、一部の地域では高齢化がより早く進み、その影響が一層深刻な形で表れる可能性がある。

このことから、欧州では向こう10年間のEUの経済成長戦略を定めた計画「欧州2020」の中で、知識と改革に基づく経済(スマートな成長)、より競争力の高い省資源とグリーン経済(持続可能な成長)、社会的に高い雇用を生む経済と地域に根ざした結合(包括的な成長)の三本柱による発展を謡い、それらを実現する取り組みの一つとして 、「アクティブエイジング2012」の分野に資金援助と投資を促すとしている。2020年までにEUの平均健康年数 (健康寿命)を2年延ばすことを目指すとともに、シニアを「欧州の新しい成長とマーケットの機会を創出する」存在と位置づけ、シニア発信で新しい価値を生み出すことを期待している。具体的には、NPOなどが主体となってシニアのスキルを高め、ネットビジネス等で自ら起業することを支援したり、社会とのつながりを持ちたい・貢献したいシニアに対し、国際的なボランティア団体や公共機関、教育機関、赤十字などの非政府組織をネットワークするプラットホームを構築し、短・中期のボランティアを紹介し、労働力として公的サービスが行き届いていない領域をサポートする取り組みを行っている。

シニア活用のもう一歩先へ

前述のとおり高齢化が進む日本と欧州ではあるが、日本が目先の年金制度対策という視点でシニア活用を必然と考えているのに対し、欧州は、もっと幅広く年齢に拘らず労働力としての活用と健康・福祉対策という両面でシニア活用を捉えている。日本においても、単に60歳~65歳の既存の労働力を延長雇用するだけではなく、非労働力として眠っているシニアを起こし、労働力として活用していくことをもっと本腰を据えて考えていくべきではなかろうか。その一つが欧州の例のように、第二の人生として起業を支援することや、シニアのニーズに合った仕事を公的サービスの補完としてボランティアという形も含めて提供できるプラットホームの構築であろう。あるいは、労働力が不足している分野でシニアの特性を活かせる仕事を新たに創出し、労働市場への参加を促しやすい環境を作ることも含めて検討をしていくべきだ。

例1:待機児童・学童問題の解消と世代間交流~保育ジジ・ババとして~

厚生労働省の発表によると日本の都市部を中心に46,620人(平成23年)の待機児童がおり潜在的な数も含めると85万人とも言われている。また、全国学童保育連絡協議会によると、50万人の潜在的な待機学童がおり、この背後には働きたいけど働けない/十分な時間働けない子育て世代が100万人規模でいると考えられる。また、核家族化により身近に祖父母などがおらず多様な第三者の目が行き届いていないという現状もある。これらの問題に対し、これまで多額の教育投資をしてきたにも関わらず埋もれていたシニアの知識や育児の知恵を、保育ジジ・ババという新たな形態で活用していける可能性があると考える。簡便的な保育資格(準保育士や保育士3級等)を制度的に整備するなどすることで、家庭の知恵を最新のサービスとして昇華し、今ある経験を有効活用することができるであろう。

教職課程修了経験のあるシニアに再教育を行い、子供の宿題補助等学力向上を兼ね備えた学童を行ったり、昔遊びを教えることを通じて世代間の交流を図りシニアと子供双方の活性化を図っていくなど、新たにシニアの活動の場を広げていく可能性を持っているのではないだろうか。

例2:社会参加と認知症予防~同世代カウンセラーとして~

WHOの推計によると、世界では現在約4千万人といわれている認知症の患者数が、2030年には6,600万人、2050年には3倍の1.2億人にまで増加すると言われており、診断に至っていない潜在患者も含めるとその数は2~5倍はいると言われている。この状況は日本も同様で、介護従事者の不足や社会保障費負担の増加、介護のために職を離れる現役世代が問題となっている。この問題に対し、社会貢献意欲の高いシニアに同世代ならではの共感力を活かし、対話を通じた予防的カウンセリングを認知症患者やその潜在予備軍に対し行うサービスを提供することは出来ないであろうか。

例えば、北名古屋市の取り組みのように、民族資料館を使用して高齢者同士(心理学の回想法の考えを用いて)昔話をして対人交流をする場を用意することで、カウンセラー本人に労働の場を提供するだけでなく、認知症の高齢者に対しても情緒の活性化やQOL(生活の質)向上を進め、労働力活用と健康・福祉の両面からの取り組みを考えていくことも一案である。

コラム情報

著者:
デロイト トーマツ コンサルティング
パートナー      萩倉 亘  
シニアコンサルタント 藤井 麻野

2013.10.09

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。 

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