エンタープライズデータのあるべき統治とは

Deloitte Insights

エンタープライズデータのあるべき統治とは

データを愛するならば、自由にさせよう

あらゆる組織がデータを重要な資産であると認識する中で、データを「フリー」にしたいという需要が高まっている。つまり、情報をアクセスしやすく、理解しやすく、各事業部や部署、国をまたいですぐに利用できる状態にすることである。これを実現するためには、機械学習や自然言語処理、データ間の関係の理解や、ストレージおよび権限の管理を大幅に自動化するという現代的なアプローチを、データ構造およびデータガバナンスの仕組みに取り入れる必要がある。

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>> Enterprise data sovereignty <<

Tech Trends 2018 | Deloitte Insights

日本のコンサルタントの見解

転換期を迎えたビッグデータ

我が国において「ビッグデータ」が、ようやく長い取組みを経て効果を刈り取っていくべきものと位置づけられてきたようだ。ガートナージャパン社は、新たなテクノロジーが過度にもてはやされ、熱狂が冷めて期待が下がった後、再び市場における存在を確立して期待を上げていく典型的な経過を「ハイプ・サイクル」として定義している。同社の「日本におけるテクノロジーのハイプ・サイクル:2017年」では、ついにビッグデータが期待度の下落しきった谷底に位置付けられた1。それでも依然として、AIやアナリティクスは日本でもトップの投資領域の一つであり、AIを検討したい、IoTをやりたい、といった声をクライアントから聞くことは多い。これからは発揮されるべき価値とそれに向けた必要な取組みが着実に啓蒙され、日本企業に広がっていくことを期待したい。

本編では、「エンタープライズデータの統治(Enterprise Data Sovereignty)」として、旧来のデータガバナンスに対する新たなアプローチを、システムのアーキテクチャ、組織体制、規制対応の各面から論じてきた。データに対する取組みは往々にして長く地道なものである。データと向き合う中で、本当にここまで細かくやらなければならないのか、なぜこのような現状になっているのか、悩みを持つ方も多いことと思うが、本編を読むと日本企業独特の課題ではないことに気づかれるであろう。むしろ欧米企業の方が、コグニティブなど先進技術を活用し、データという資源から利益を獲得するため、現在こうした課題へ真剣に立ち向かっている。今、日本国内で戦う限りにおいては現状のままで問題なくとも、アメリカや中国などとグローバル規模で競っていくためには、意識的にキャッチアップしなければならない。そして、最新のテクノロジーは往々にして欧米から2~3年遅れて日本で普及することが常であるが、あと3年経てば日本でもデータ課題の解決が待ったなしとなるだろう。

変革の推進主体にまつわる困難

最近の国内調査結果によると、ビッグデータ活用における課題として多くの企業が挙げていたのは、データ分析・活用のための体制組織の整備であった。変革に組織の壁を越えての取組みが必要となるからであろう。昨今、デジタル化に向けて、その取組み主体はビジネスでもITでもなく、ハイブリッドとする企業が増えてきた2

しかし今なお、人材の問題が困難なまま横たわっている。個別領域のスペシャリストを発掘できても、デジタルを用いて価値を生み出すために、要件への落とし込みを行い、データを理解し、複合的なプロジェクトを推進するといったことに対応できる人材は引っ張りだこだからだ。デロイトアナリティクスでシニアアドバイザーを務めるThomas Davenportは、今後のコグニティブ技術の活用において「Purple people」というハイブリッド人材の重要性を説いている3。ビジネスとテクノロジー両面のスキルを併せ持つ人材のことだ。しかし、こうした人材の確保を満足に行えている例はそう多くない。育てる、外部協力会社から招き入れる、あるいは社内で広くバーチャルチームを組んで凌がざるを得ないこともあるだろう。人を育てつなぎ留める、あるいは組織の壁を越えてコラボレーションを続ける人が輩出され続けていく、こうした姿は、一朝一夕には成し得ない、経営体力の問われるテーマであろう。本編でも触れられたチーフデータオフィサーという職責は、そうした全社的取組みを継続させるためのスポンサーとして存在するのだとしたら、決して大袈裟なコンセプトではない。

日本においてチーフデータオフィサーが設置された企業はまだわずかだ。背景として、チーフデータオフィサーが例えばデータクレンジングを所掌する職責であることは理解されつつも、それが経営へどのような価値をもたらすのか、まだ具体的に語られていないことが要因だと考えられる。また、アナリティクスを実施する人材や組織は各部門に分散していることが多く、ITと橋渡ししながらバリューチェーンを見渡し、どこにその機能を置くのが適切かといった議論も必要であろう。当面は、アナリティクスから収益拡大やリスク低減といったメリットを享受するビジネスのリーダーがこうした取組みを支援することが必要だ。アナリティクスに関与する側も、このようなビジネス側のキーパーソンを巻き込み続けられるように、自らのミッション、追求すべきバリュー、そして成果の測定方法を定義し、継続的かつ積極的なコミュニケーションを働きかけることが求められる。そもそも物事が組織や職責ありきで進むことはまれであり、こうした成功例を地道に積み重ねていく忍耐力を鍛えていかなければならない。その意味で、アナリティクスチームのリーダーおよびメンバには、コミュニケーションなどソフトスキルを鍛えておくことが欠かせない。マネジメントの方も、現場からのコミュニケーションを待つのではなく、プロアクティブにアナリティクスによる価値創造の機会を語り合う姿勢が必要である。

プロジェクトや変革の進め方もドラスティックに変える必要がある。データ対応も含めるとアナリティクスへの投資というものは一般的に大きく、その反面で巨額を費やして構築したシステムがあっという間に使われなくなり失望を買うことも珍しくない。小規模な取組みでROIを検証しながら本格展開し、またツールやプロセスの整備を順次行うアプローチが増えている。このようなアプローチでは、RFP通りに構築するようITベンダに任せきりにするのでは不十分で、ビジネスサイドから十分な関与を確保し、機敏に意思決定を行って課題に対処していくことが必要だ。日本におけるシステム構築は、請負契約をベースとした慣行で、変更時にベンダに負担を求める傾向も見受けられる。もし失敗や説明責任を恐れるあまり要件を膨れ上がらせる組織風土や構造的問題があるならば、この機に改革すべきではないだろうか。

具体的な「問い」無くしては始まらない

デロイト トーマツ コンサルティングは、日本で「Tech Trends」を発行するようになってから毎年、IoTであれAIであれ、新たなテクノロジーへの期待とは何なのかという問いを具体化すること、そして「small start, quick win」から取組みを重ねることが王道であることを、繰り返し発信してきた。テクノロジーの力だけでビジネス課題を解決できることはない。また、どんなに品質を向上し洗練させられたとしても、100%正しいデータというものは存在しない。検証すべき仮説、解消すべき課題をタイムリーにとらえ、機敏に対応することが避けられないのだ。

読者の皆様においては、これまでの1年ないし3年間で、テクノロジーで解決したいこと、実現したいアジェンダが十分に具体化されてきたであろうか。本レポートが、よい振り返りの機会となるならば幸いである。

 

参考文献

1. ガートナージャパン「日本におけるテクノロジーのハイプ・サイクル:2017年」プレスリリース
https://www.gartner.co.jp/press/html/pr20171003-01.html
2. JUAS「企業IT動向調査報告書2015」第2章 ビッグデータ
  JUAS「企業IT動向調査報告書2017」
3. Tom Davenport「Purple people: The heart of cognitive systems engineering」
https://www2.deloitte.com/insights/us/en/focus/cognitive-technologies/artificial-intelligence-purple-people.html

エンタープライズデータのあるべき姿とは(全文) Tech Trends 2018 〔PDF,2.01MB〕

執筆者

三木聡一郎 マネジャー

外資系ソフトウエアメーカー、日系コンサルティング会社を経て現職。金融・製造・サービス業を中心に、システム構想策定や業務立ち上げ、クロスボーダー・大規模トランスフォーメーションプロジェクトに従事。

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