労働力の新しい概念:ノーカラーワークフォース

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労働力の新しい概念:ノーカラーワークフォース

ヒトとキカイの境界線が融解し、互いに高め合う未来

今日、オートメーション、コグニティブコンピューティング、AIといったテクノロジーがますます社会の牽引力を強める中で、世の企業は自社の「働き手」の役割を定義し直す必要性に迫られている。仕事の一部は人間に、一部は機械に、そして一部はテクノロジーが人間の能力を最大限に高める「ハイブリッド型」の労働力に割り当てる、といった具合に。人間と機械の両方を管理しなければならなくなると、企業の人事部門はこれまでにはなかった試練に直面することになる。

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Tech Trends 2018 | Deloitte Insights

日本のコンサルタントの見解

機械との共存のはじまり

昨年の「Tech Trends」では、AIや機械学習、ボットといったテクノロジーの活用について紹介したが、今年は人間とそれらの機械が協働する新たな「ハイブリッド型」の労働力を「ノーカラーワークフォース」と呼び、人事的な側面から検討すべき点をいくつか挙げている。日本でもこの数年間に、職場においてそのようなテクノロジーの活用は大きく拡がり、チャットボットによる社内外の問い合わせ対応、RPAによる事務作業代替、AIを活用した需要予測や製造ラインでの不備予見など、さまざまな事例が見られるようになった。昨今の人材不足や「働き方改革」の後押しもあり、こうした取組みは今後加速するものと考えられる。

「AIやロボットに仕事を奪われる」という脅威論が議論される一方で、生産性向上の効果を期待し、機械との共存に前向きな論調も少しずつ増えていることも事実である。機械にできる範囲がある程度特定できてきたことや、人材の置き換えよりも、不足の補充としての期待が背景にあるのだろう。日本的な企業文化の一つである、部門間の調整や意思決定時の根回しといった感情的なコミュニケーションは機械が苦手とするものであり、代替できないはず、という希望的観測も多少はあるのかもしれない。いずれにせよ、現状においては、人間と機械が協働し、パフォーマンスを高め合うノーカラーワークフォースというよりは、人間の作業支援ツールとして機械を活用することの意識に留まっている段階の企業が多いのではないだろうか。

協働に向けたチャレンジ

機械の活用が進み、さらに協働するようなノーカラーワークフォースの実現にはさまざまな変革が必要であり、ボトムアップ型が主流でスピーディな意思決定を苦手とする多くの日本企業にとっては、一足飛びでたどり着ける未来ではないだろう。ここではその道のりにおいて、ハードルとなり得る点をいくつか挙げてみたい。

1. 業務の属人化

 機械を導入する際には、その特徴を理解した上で、どんな業務に適切なのか、どこまでを任せるべきなのかを整理し、スコープを定義することが重要となる。しかし、日本企業においては業務の属人化傾向が強いため、まずは業務の可視化からスタートする必要があり、それだけでも骨が折れる作業となるだろう。また、標準的なプロセスが存在しなければ、機械に任せる業務の手順も組み立て直す必要が出てくる。機械を導入する都度、場当たり的にそのような対応を進めると効率が悪く、また部分最適に陥りかねない。人と機械の協働を促進するという観点では、早い段階から業務の棚卸を行って全体像を掴んだ上で、機械が得意な領域から優先順位をつけ、業務の属人性を可能な限り排除し切り出しがしやすい状態を保っておくべきであろう。

2. KKDに基づく意思決定

 AIのように機械がデータから想定パターンを学び、判断を行うには、学習に必要なデータをどう準備するか、というハード面の検討も重要だが、「ブラックボックス化」しがちな判断プロセスを、人間がどこまで受け入れられるかという点についても考慮が必要である。欧米企業ではデータ活用が進んでいるが、日本の、特に歴史ある企業では、経験、勘と度胸(KKD)に頼った意思決定が多いのではないだろうか。機械の判断結果が人のそれと異なる場合、必ずしも人が正しいとは限らない。当然、その差がなぜ生じているのかを分析する必要はあるが(機械の判断精度が低いのであれば改善が必要)、KKDを優先して機械の判断をすべて否定していると、結局人はより高次の作業に時間を割けず、何も変わらない。機械に任せた判断の重要性に鑑みて、機械の判断を信頼する度胸も必要だろう。また、機械を否定したくなる他の要因としては、商慣習や目標のずれ(機械が目指す目標と、人が評価される指標が一致しない)なども想定されるが、こうしたものは思いの外根深い。機械の導入と合わせてどういった阻害要因があり、どういったチェンジマネジメントが必要なのかは整理しておく必要があるだろう。

3. マネジメント層のコミットメント

 日本のマネジメント層は欧米と比してテクノロジーに対する理解度が低い傾向にあると言われている。機械の全容を理解せず導入が目的化している、必要な変革に気づかず効果が出ないと嘆いている、といったケースはないだろうか。ノーカラーワークフォースという観点では、テクノロジーを使いこなし、それによって自身の業務をどう高めていくことができるか、自ら考えられるような人材をいかに育成するか、そのような文化をいかに醸成するかが鍵となる。機械に業務の一部を任せることで空いた自分の時間を、より高次の業務に充てることは当然のように思えても、実際にはできていないケースが多い。特に日本企業においてはポジションではなく人に業務がついており、業務を他者に任せづらい、またそれを奨励する文化もないといったことも多いのではないだろうか。人材育成、役割分担の見直しや組織風土づくりは、マネジメントがコミットして旗を振るべき取組みの一つだろう。

日本企業において機械の活用が進めば、ノーカラーワークフォースの課題に直面する企業も増えていくだろう。働き手の減少が続くであろう現実と、市場縮小により効率経営を実践する海外企業と戦わなければならない日本企業にとっては、機械の最大限の活用と生産性向上は至上命題ともいえる。導入済みの企業も、検討中という企業も、今から変革の必要性を認識し、着手していくべきではないだろうか。

労働力の新しい概念:ノーカラーワークフォース(全文) Tech Trends 2018 〔PDF, 1.76MB〕

執筆者

山本 有志 シニアマネジャー

多様なインダストリーに対して、業務改革、組織改革、ITコスト削減などのアドバイザリーサービスを提供。経営、業務、ITの知見を活用し、経営層に対してコンサルティングサービスを提供している。

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