Deloitte Insights
エシカルテクノロジーと企業価値
コアバリューをテクノロジー、ヒト、プロセスへ展開せよ
先進企業は、テクノロジーの創造的破壊による自社へのあらゆる影響について認識し始め、社会的信頼を得る機会、逆に失うリスクの相反する両面についての理解が進んでいる。
日本のコンサルタントの見解
「攻め」のエシックスを考えよう
近年、環境や地産地消、フェアトレードへの配慮を踏まえた企業活動をエシカルという言葉で形容することが増えてきた。エシカルファッション、エシカルデザイン、エシカル投資など、一度は耳にしたであろう。「エシカル」「エシックス」とは何かについて、日本語の「倫理」や「道徳」と捉えると、「してはいけないこと」を論じている印象があり、実際にわが国では何かを規制する文脈で語られていることが多いように思う。本来は、持続可能で多様化した社会など、狭義の経済合理性の追求よりも高く広い視座からモノやサービスを提供する取り組みが「エシカル」の含意しているところであろう。
さてAIなど先端テクノロジーの活用は爆発的な価値を生み、人間の生活や仕事を変えようとしている。その潮流に対する人々の評価には変わることへの恐れや抵抗のトーンが占められている。本編では、そのような状況においてテクノロジーへの取り組みに含めるべき指針や視座を、「エシカルテクノロジー」として紹介した。繰り返しになるが、GAFAに対する独占禁止法適用などの議論は、問題が顕在化してから事後的に規制する「守り」の議論といえる。ここでは、企業が自らエシックスを追求してどのような企業価値を得るのかをスコープとして「攻め」の観点から議論したい。企業価値を追求し、ブランドに対する信用を顧客や従業員から獲得する長期的取り組みという文脈で、このエシックスを追求していくとしている。
AI時代の働き方の姿に向けて
ところで我が国の知識創造活動においては、表出化した形式知が集団で共有・交換されることを通じて、新たな集合知が暗黙知として形成される、その知識は再び形式化されスパイラル的な発展を形成するとされていた1。開発や製造の工程において、現場が狭義の役割にとらわれず優れたサービスを生み出すことに強みが発揮されてきた。一方で、AIを業務に適用する際には、数値やデータに表れていないものや人が逐次に判断を行っていたところを明確な定義やロジックに落とし込む、業務の再構成が必要となる。まだまだ任せられないAIを引き合いに、人が今までの仕事を今までのやり方で守ってしまい、トランスフォーメーションを停滞させるということも見られる。しかし、こうしたテクノロジーを活かした変革に本来必要な取り組みは、AIにできること・AIに助けられることは何か、またAIを使う際に人が気を付けなければならないことは何かを理解し、従業員をその役割へ徐々にシフトさせていくことだ。わが国では、AI活用は概念実証や各部門での個別の取り組みに留まっているがゆえに、数字で目立つ業務負荷削減効果、つまり短期的な成果が強調されており、AIをどのように使いこなし従業員の働き方や顧客へのサービスを変えていくのか、組織としての知識や知恵を育むのはまだまだ、これから取り組むべき課題である。
機械であれAIであれ、単なるそれらの操作方法だけでなく、いつ何のためにどのように使うと良いのかを考え、使い込むことを通じ、より洗練された協働の在り方を見出してくるはずだ。本編でも触れられている通り、例えば次の課題は組織として検討を進めておくべきだ。
- AIに任せられないことは何かを明らかにし、組織のポリシーや標準として共有しておくこと
- 何にAIを用いているのか必要に応じて参照可能としておくこと
- AIへ十分なインプットが与えられるよう、データの量や質を継続的に改善していくこと
- 人が実施すべきことを共有し、AIを使いこなすスキルを組織として涵養すること
- 以上を部門横断で推進していくオーナーシップの在り処を明確にしておくこと
AIによって人間のものでなくなる仕事、人間に取って代われない仕事のリストアップは進んできたものの、積極的にAIとの協働における人間の役割を説く議論はまだ少ない。これまでの歴史で人間が上手く機械を使いこなし生産性を向上させたように、今度はAIをビジネスに組み込んでいく作り込みが、これからの数年において重要なインパクトを持つであろう。
わかりやすい説明が必要
ここまでは主に働き方をめぐって企業が従業員へ示すべきことは何か議論したが、先端テクノロジーの影響は当然社会や顧客にも及ぶ。AIやサイバー空間が社会に及ぼす影響はますます増大する。その影響を詳細に監視することは従来の法や政治には限界があることから、企業が自主的に規制し、自社のビジネスやオペレーションにどのような仕組みを用いているのか積極的に開示する透明性が求められる2。働き方にどのような影響が及ぶのか説明することが従業員に納得をもたらすであろうことと同様に、テクノロジーの活用が選択した消費者にどのようなインパクトをもたらすのか、説明する能力を持つ企業は信頼を得られるであろう。その説明は、採用したテクノロジーを一つ一つ細かく伝えるのではなく、まさに「エシカルテクノロジー」として紹介した潮流のように、企業がどのように顧客をサポートするのか、ポリシーなどわかりやすい形にまとめられている必要がある。
決してテクノロジーのための活用、コストだけのための活用でなく、企業自身の成し遂げたいバリューに沿ってテクノロジーが活用されているか、点検されるようでありたい。そのためには、日々のAIやデータを活用しようとするプロジェクトで出てくる課題を丁寧に拾い上げ、AI時代の組織の行動様式を作り上げていってもらいたい。
参考文献
1. 野中郁次郎『知識創造企業』(1996)
2. 経済産業省「Governance Innovation: Society5.0の時代における法とアーキテクチャーのリ・デザイン」報告書(案)
https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191226001/20191226001.html
執筆者
三木 聡一郎 マネジャー
外資系ソフトウエアメーカー、日系コンサルティング会社を経て現職。金融・製造・サービス業を中心に、システム構想策定や業務立ち上げ、クロスボーダー・大規模トランスフォーメーションプロジェクトに従事。近年は営業・マーケティングを中心にAI・データの利活用戦略やDXに求められる組織・体制づくりの支援を手掛けている。
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