Deloitte Insights

Tech Trends 2023 日本版

日本版発行に寄せて

今年で14年目となる「Tech Trends」だが、本レポートは毎年、リサーチや実体験、有識者・クライアントへのインタビューなどを基に、1年半から2年先に顕著になるであろう重要なトレンドをピックアップし、単なる技術動向や流行ではなく、ビジネスインパクトを踏まえて解説している。

今回のトレンドの大きな特徴は、新しいマーケットを切り拓く新たなテクノロジーのみならず、従来からあるテクノロジーやテクノロジー人材を長期的に活かし、新しいものとうまく融合させることの重要性が見出されていることである。コロナ禍を経て加速した環境変化やテクノロジーの進化を踏まえ、スピードや柔軟性と、安定性・信頼性をテクノロジー活用においてより強く求められている現在、我々のテクノロジーとの向き合い方も見直すべき時期なのではないだろうか。

 

本レポートの構成

「Tech Trends 2023」の内容をご紹介する前に、本レポートの構成を簡単にご説明しておきたい。本レポートは、グローバルトレンドを概説した本編に対し、日本のコンサルタントの見解を別冊「日本版Perspective」として発行している。今年から、本編は内容の濃さを重視してスリム化し、事例や有識者の見解をTrendLinesとしてデロイトグローバルのサイト上で定期更新する形に刷新している。また、お読みいただく方のビジネスの現在地に応じて読み方に濃淡を付けられるよう、各トレンドの内容をNow(これまで)、New(これから)、Next(未来)の軸で構造化しているので、今お読みいただいている「日本版Perspective」と合わせてぜひ参考にしていただきたい。

日本企業の視点からみた「Tech Trends 2023」

今年の「Tech Trends」では、進化するテクノロジーを活用し、成長につなげていくElevating forces と、地に足を着け、既存の仕組みを適切に管理していくGrounding forcesとしてそれぞれ3つのトレンドを挙げている。前者では、メタバースの活用、信頼に基づくAI 活用の深化と、マルチクラウドを適切に管理し使いこなすことが論点として語られており、後者ではより柔軟性の高いテック人材の獲得、信頼獲得のためのブロックチェーン活用と、メインフレームを活かしたモダナイゼーションについて論じられている。今の日本企業にとって、今回のトレンドはどのような意味を持つのであろうか。

テック人材の獲得は多くの日本企業において関心が高いテーマであろう。人が欲しいのにいない、いても報酬水準が高くて採用できない、あるいは、採用してもテクノロジーの進化が早く、スキルがすぐに陳腐化してしまう、という状況に多くのテクノロジーリーダーが頭を悩ませている。欧米を中心としたグローバル企業も同様の課題を抱えているのだが、ジョブを基準として人材を管理してきたそれらの企業は、ジョブをスキルベースで定義しなおすことにより、より柔軟な人材管理を目指そうとしている。そうした中では、専門性の高いテクニカルなスキルを社内に抱えることは必ずしも最重要ではなく、例えば、新たなスキルを学び続ける素養や、テクノロジーの見極めとそれをビジネスに適用する発想力など、ソフトスキルと呼ばれるスキルの重要性が増す。国内でも多くの企業で検討が進むジョブ型雇用だが、ジョブ型を長年続けてきたグローバル企業でさえ従来のアプローチでは環境変化に追随できない状況に直面しているということであり、日本企業にも発想の転換を促していると考えられる。

信頼に基づくAI活用のアプローチは、何らかの形でAIを活用しているものの、スケールできない、価値が創出できていないという多くの日本企業にとっては、1つの重要なヒントになるのではないだろうか。生成系AIのように、人間のように振る舞うAIには不安や警戒心を抱きやすいが、機械が基本的な計算能力を超え、状況認識や意思決定を行うことへ向けて技術が発展し始めたことは間違いないようである。低生産性と人手不足のダブルパンチを受ける日本企業にとっては、むしろ世界に先駆けてこの流れに乗るべきかもしれない。その時に、本トレンドで示す、「機械を信頼することの意味」は、遠い先のグローバルテーマではなく、足元の課題となるであろう。

モダナイゼーションの観点では、国内において脱ホスト、脱レガシーが大きなCIOアジェンダとなっている一方で、グローバルマーケットではむしろメインフレーム市場が堅調に伸びている点は興味深い。このトレンドが示すことは、レガシーかDXかという単純な二元論とも、産業政策が求める危機論とも違う、大げさに言えば「自社にとって最適なITは?」という経営層における思考の重要性である。そういった考え方にしたがえば、レガシーとデジタルが歩み寄った最適なITアーキテクチャー設計に到達する可能性がありうる。日本企業にとっては今まさにそのことの重要性を理解する段階に差し掛かっているのではなかろうか。

また、コロナ禍において加速したクラウドシフトにより、社内で利用するクラウドサービスが乱立し、管理しきれなくなっている日本企業も多いのではないだろうか。マルチクラウド環境は、セキュリティーや費用最適化の観点で問題を抱えることになるが、グローバルのトレンドと同様、日本国内でも引き続き拡大が続くクラウド活用において、将来のITガバナンスとアーキテクチャーの安定化に向けて再考を要する重大なタイミングとなっている。

最後に、引き続き注目すべき技術要素として、ブロックチェーンとメタバースが挙げられている。ブロックチェーンは信頼をベースとし、社会課題などの横断的解決に取り組む手段としてのユースケースが拡がっており、国内でも推進体制が整いつつあることから、活用機会の拡がりが期待される。そしてメタバースは国内でも金融機関を中心とした業界横断プラットフォームの構築が進むなど、環境ができつつある一方で、コンプライアンスなど慎重な検討が必要な要素も多くあり、目的を見定めながら試行する動きが続くであろう。

 

テクノロジーとのサステナブルな付き合い方

冒頭でも述べた通り、今年のトレンドを俯瞰して感じるのは、既存の資産と新しいテクノロジーを融合させ、長期での成長に生かすことの重要性である。例えば、レガシーシステムは必ずしもリプレイスが最適解とは限らないということや、AIをヒトの代替としてではなく継続的に協業していくためにいかに信頼を構築していくかという考え方、あるいは、新たな取り組みの都度専門家を採用するのではなく、取り組みに合わせてアップデートを続けられる人材を育成するというアプローチが本編では考察されている。当然、ビジネスの成長に向けて新たな技術の取り込みを試行することは重要だが、地にしっかりと足を着けているからこそ高く飛べるのだ。サステナビリティを、長期的な視点で機能を維持すること、あるいはそのための基盤を構築することと理解するならば、まさにテクノロジーを巡るサステナビリティを考えることが重要との認識が、企業の間で高まりつつあるとも解釈できるのではないだろうか。

昨年の「Tech Trends」では、第7章「未来のフィールドノート」において、今後十数年かけて主流になるであろう3つのテクノロジーとして、量子技術、エクスポネンシャルインテリジェンス(人間の感性にまで進化を遂げたAI)と、アンビエントエクスペリエンス(人の無意識をもデジタルに変換し、現実とデジタルの境界線が曖昧となった体験)を紹介した。これを下支えする、AI、センサー、XRやクラウドといった技術は驚くほどのスピードで進化しており、特に、ChatGPTをはじめとする生成系AIの勃興によってギアがシフトし、個々の技術の組み合わせの世界から、全体が統合され、整合した新たなステージが始まった印象を持っている。さまざまな技術要素を組み合わせ、すり合わせていく行動は、日本企業が得意とするところであり、日本発で世界に注目されるさまざまな事例が登場することに期待したい。

昨年見通していた十数年後の未来は、思っているよりも近くにある可能性が高い。だからこそ、進化のステップの度に更新を焦るのではなく、進化に合わせてコアとなる資産を適応させていくアプローチが求められるのではないだろうか。ある意味では、我々は現在、テクノロジーに追い立てられるのではなく共に発展していくという本来あるべき形にシフトする分岐点にいるのかもしれない。

 

さいごに

デロイトの「Tech Trends」は、すべての企業がまんべんなく取り組むべきテーマを示すものではないが、各業界の動向や各社の現在地などに応じて、それぞれに考えてほしいポイントが含まれている。特に、「日本のコンサルタントの見解」では、日本企業の視点でトレンドをとらえなおしているので、本編と合わせて参考にしていただきたい。上述したサステナブルなテクノロジーという観点では、自社のテクノロジー資産で価値を引き出しきれていないものや、新たな取り組みでも長期的な目線での検討が不足しているもの、あるいは既存の仕組みの中で変化への対応力を高める方法はないか、点検してみるところから始めていただくこともよいのではないだろうか。本レポートをインプットとして、ぜひ経営陣も巻き込んだ議論を展開いただきたい。

 

執筆者

川嶋 三香子
ディレクター
Technology Strategy & Transformation

木下 貴史
ディレクター
Technology Strategy & Transformation

Tech Trends 2023各章の概要/PDF

画面を超えて:エンタープライズ向け没入型インターネット

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AI社会への扉を開く:AIを仲間として信頼すること

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メタクラウド:マルチクラウドがもたらす混沌の掌握

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柔軟性、最高の能力:テクノロジー人材の再創造

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我々は我々自身を信じる:分散型アーキテクチャーとエコシステム

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先進技術との連携と拡張:メインフレームモダナイゼーションの新たな歩み

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エグゼクティブサマリー

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プロローグ:未来への略史

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エピローグ:視野の拡大 - infoTechからxTechへ

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Tech Trends 2023

日本版発行責任者

山本 有志 執行役員 パートナー
Japan Leader
Tech Strategy and Transformation

多様な業界に対して、IT戦略立案、IT組織改革、グローバルITガバナンス強化、IT投資コストマネジメント高度化などのテクノロジー ストラテジーに関するコンサルティングに従事。企業の戦略実現を左右する大規模ITプロジェクトのマネジメント経験も多く、戦略から開発・運用までITライフサイクル全般の知見を活かし、CxOに対してアドバイザリーサービスを提供。

千田 章貴 執行役員 パートナー
Asia Pacific Leader
Tech Strategy and Transformation

主に国内及び外資系金融機関に対して、各種改革やデジタルトランスフォーメーションプロジェクトに多数従事。ビジネス戦略立案からシステム化構想及び導入、定着、アウトソーシングを含む広範囲なコンサルティング領域を経験。アジアマーケットを中心とした海外戦略やグローバルオペレーションシステムの最適化等を含むグローバルプロジェクトに強みを持つ。

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