Deloitte Insights
デジタルツイン
物理世界をデジタル空間に橋渡しする
デジタルツインは製造効率を高め、サプライチェーンを最適化できるほか、予兆保守作業の変革や交通渋滞の改善など、ほかにも多くのことを支援できる。機能が高度化し、より洗練されるとともに、プロセスの最適化、データに基づくリアルタイムの意思決定、さらに新製品・サービスやビジネスモデルの設計といった用途でデジタルツインはさらに普及することが期待される。
日本のコンサルタントの見解
デジタルツインの本質
2018年から「デジタルリアリティ」、「インテリジェントインターフェース」と続いたトレンドは、本年「デジタルツイン」としてより実務レベルでの価値創出の実現にフォーカスした内容となっている。2019年6月に経済産業省から発信された「デジタル時代の新たなIT政策大綱」では、企業がデジタル技術をビジネスに適用し、新たなビジネスモデルを創出し、成果を出すという期待が込められている。
特に、物理世界とデジタル世界の融合については、日本の現場の強みをデジタル技術で生かす絶好の機会であり、そのためのテクノロジーが2020年に大きく動き出すタイミングとして認知されている。
5Gを含む、デバイス、センサーとの接続性やそれらデータの収集・蓄積技術、活用にむけたモデリング、シミュレーション技術は、海外での事例をうけて日本でも製造業をはじめ、流通業、医薬業界で活用が進むと予想している。
すでにアーリーアダプターにおいては、技術研究や概念実証(Proof of Concept)をはじめ、一部、試行・本番化利用を進めているが、今後は、プラットフォームを活用した効率的かつ効果的なPoV(Proofof Value)を実践し、多方面でソリューション適用の幅と業界のサプライチェーンに展開されると考えている。
デジタルツインの本質は、テクノロジーで時空を超え、ナレッジやノウハウをグローバルの「もの・サービス」または「人」に適用、展開できることにある。また、そのモデルは、再現性の高いシミュレーションモデルや精度の高いフィードバックシステムにより洗練し続けるモデルに高度化できることにある。
この点、日本における、今後差し迫った構造課題(少子高齢化、グローバル化プレッシャー、日本企業の相対的価値下落など)を解決するポテンシャルがあるともいえる。
特に場所と時間の制約を解消し、知識やナレッジをバーチャルなふるまいの場で再現し、日本企業の強みである現場力を生かした新たなビジネスモデルを再発見する環境が整ったことになる。
デジタルツインにおける国内の動向
Industry 4.0に始まったIoTの適用は、製造業における工場が主流であったが、興味のトレンドはインフラ企業(エネルギー企業や道路事業、都市開発など)へとシフトしつつある。
インフラ企業ではその業務特性上、広範囲のエリアを対象に計画や工事、設備保全(巡視・点検・修理)を行う必要があるが、少子高齢化の進展による労働人口の減少が大きな課題となっている。
例えば、日本の電力業界においては2020年4月に送配電事業の法的分離が実施されることで、送電・配電を扱う部分が分社化される。送配電事業は各地に張り巡らされた送配電線や鉄塔・電柱を管理する必要があるが、人口減少による人員不足に追い打ちをかけるように電力の託送料金の値下げ圧力が大きくなっている。
デジタルツインを活用し、センサーからの送配電情報や鉄塔の状態、天気などの外部環境情報を取得・シミュレーションすることで、予知保全を行い、現場出向の削減や品質の向上を実現することが期待されている。
また、都市開発においてもスマートシティの実現にむけてデジタルツインは注目されている。
都市空間をデジタル化し、さまざまな情報をセンサーから取得・シミュレーションを行う。例えばゴミに関する情報を取得し、ゴミの回収や掃除、ゴミ箱設置などの計画を行うことができる。あるいは天候や雨量、水の流れを取得することで、災害時のシミュレーションを行うこともできる。人の流れもセンサーで取得することで、交通や導線の計画、緊急時の避難指示などのシミュレーションも可能となるだろう。
デジタルツインを支える技術の発展
デジタルツインを実現するためのコアな技術は、ほとんどの場合、IoTセンサーと実データをリアルタイムに反映するシミュレーションモデルである。デジタルツインにおけるシミュレーションモデルは既存のシミュレーションモデルを発展させ、研究室から実環境に引き出したようなものである。現実の動作とリンクさせることで個々の製品の稼働状況を把握し、不具合の予測や非効率性の診断が可能となる。
センシングデバイスは日々進化しており、光センサー・加速度センサー・ジャイロセンサーに始まり、GPSやカメラ、マイクなどもIoTセンサーとして活用が始まっている。
スマートスピーカーもIoTセンサーとして活用される事例も増えている。
深度センサーや空間アレイマイク、方位センサーを搭載した高度なAIセンサーも登場している。通常のカメラやセンサーでは検知できない3次元の物体情報を取得することが可能となり、デジタルリアリティを活用した3次元のデジタルツインにも応用が期待される。
今後はIoTが発展するにつれて、IoT機器がセンサーとして活用されることになるだろう。例えばスマートホームやコネクティッドカーについても、サービスを提供する一方でセンサーとしても情報を提供し、それらがデジタルツインとして活用されることになるだろう。
IoTセンサーが増加し、広範囲に配置されると、今度はセンサーの管理も困難になってくる。数万~数百万台のセンサーを管理することになると、その管理システムもIoT専用のものが必要となってくる。
センサーの管理は物理的なものであるため、位置情報やモジュールバージョン管理、電源、使用年数などを含めたライフサイクルの管理が必要となる。データセンタやクラウドに配置された数百台のサーバでさえ管理が煩雑となりがちであるが、それらが広範囲に多種多様なセンサーが数百万台となると想像するだけで、大変であることが容易に想像できる。遠くない未来に独自のUXを搭載したIoTセンサー専用のマネジメントソリューションが必要とされるだろう。
デジタルツインの今後の展望
2020年3月より、5Gの商用サービスが順次開始される。また、ローカル5Gの許認可をうけたサービスベンダーも増えてくることが予想されており、企業は新事業検討においてデジタルツインの可能性や実現のためのプラットフォームを一気に利用し始めることが予想される。特に製造業では、工場の自動化のみならず、設備の稼働率を上げると同時に、デジタルツインのモデルを対象とした稼働後の遠隔監視や劣化予知など、定常稼働から異常状態をいち早く把握し、保全タイミングの予測が可能となるだろう。合わせて、各設備のセンサー情報から今まで想定できなかった相関の強いパラメータ(問題因子)の把握や洞察が可能となり、シミュレーションモデルとして完成度の向上も可能となる。また、5Gなどの高速かつ低遅延の技術を活用し、即時に多数の機器・設備においてリモートオペレーションも管理の高度化、効率化を実現できる。さらに、医療現場においては、人体の各機能をバーチャルな臓器や器官に再現したうえで、手術の事前リハーサルや、挙動のシミュレーションを体現でき、医療の精度アップと安全性の確保も可能となるだろう。徐々に、実績を上げていく中で、重要な視点として、デジタル空間における秘匿性やセンシティブデータの扱いが重要となる。そのための法整備や規制に対する準備も並行して行う必要がある。
Society5.0にうたわれている社会基盤として活用する上で、自社の対応方針やプラットフォームを前提としたアーキテクチャーの方針も各社が考慮すべきである。特にデータセキュリティ、および物理空間以上のデジタル空間のセキュリティ攻撃への対処とそれを運用する体制の整備は欠かせない。
最後に、これらを支える人材については、最もクリティカルで時間のかかる課題であり、データを活用できる人材の育成と支援プログラムを社会全体で整備する必要がある。
執筆者
原田 直樹 シニアマネジャー
外資系ITベンダーを経て現職。製造、流通・サービス業を中心に、IT戦略策定、ITガバナンス、EA策定、サービスマネジメントなどのコンサルティングに従事。IoT戦略&アーキテクチャーコンサルティング領域も担当。
その他の記事
Tech Trends 2024 日本版
Tech Trends 2019
Beyond the digital frontier 日本版