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Canadian tax alert

2016年度 連邦予算案 ハイライト

1. 基本方針

 新しい政府は、3月22日に発表した2016年度予算案において、経済成長、雇用創出、中間層の増強を 表明した。今後10年にわたって、インフラや雇用創出のために1,200億カナダドルを投資することが提案されている。投資先には、公共交通機関、クリーンテクノロジー、先住民やイヌイットなどに対する投資が含まれている。

2. 財政見通し

  • モルノー財務大臣は2015年度の財政赤字は54億ドルと見込んでおり、それに対し2016年度は294億ドルの財政赤字が予想されている。
  • 2016年度の連邦債務対GDP比は、およそ32.5%になると予想されている。2020年度にはこの比率を30.9%まで引き下げる計画である。
  • GDPは2016年に1.4%成長し、将来的には2.2%まで成長することが見込まれている。
  • オイル価格の下落の影響を受け、2016年の物価上昇率は1.6%、その後も継続して2%まで上昇する見込みである。
  • 失業率は現在7.1%であり、2020年までに6.3%まで引き下げることを目標としている。

3. 法人税

i)  無形資産に関する新しい減価償却制度(クラス14.1)

 一定の無形資産に適用される適格資本資産(Eligible Capital Property:ECP)制度を廃止し、新しく設定されるクラス14.1に対する減価償却制度(Capital Cost Allowance :CCA)に置き換えることが提案されている。ECP制度は、適格資本支出とされる無形資産を取得した場合に、取得原価の75%が累積的適格資産(Cumulative Eligible Capital:CEC)プールに留保され、年間7%の償却を実施できる制度である。新しいCCA制度のもとでは、新規取得した資産は取得価格の100%に対し年間5%の償却が実施できる。また、既存資産については、2017年1月1日時点のCECプールの金額が、新しいCCAクラスに引き継がれ、償却が実施されることになる。新しいCCA制度においては、制度変更後の10年間、2016年12月31日以前に取得した資産は年間7%で償却される。

ii)  外貨建債務

 これまで、外貨建債務の為替差損益は、当該債務の履行又は消滅した際に、実現するものとされてきた。しかし、為替差益に課税されることを回避するために、debt-parking 取引と呼ばれる手法を使い、独立した第三者でない者に債権者から債権を買い取ってもらうことで、債権者に対しては実質的に元本の返済を行い、債務者は債務の決済を行わないことで為替差益を実現させずに課税を回避するケースがあった。

 予算案では、外貨建債務が、上記のような取引を通じてparked obligationに当てはまることになった場合は、債務に関する為替差益を実現させることが提案されている。しかし、特定の純粋な商業取引から生じるものや財務的に困窮した債務者に対する外貨建債務に関しては、特別なルールが準備されている。このルールは、2016年3月22日以降に条件に当てはまる外貨建債務に適用される。

iii)  デリバティブの評価

 一定のデリバティブを棚卸資産として扱い続けることは認めるものの、その評価方法として、簿価と公正価値の低い方で評価する方法を除外することが提案されている。これは2016年3月22日以降に締結されたデリバティブ契約から適用される。

iv)  税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting:BEPS)

 2015年10月にOECDが公表した税源浸食と利益移転(BEPS)についての最終レポートに関連する内容が提案されている。特に重要な提案事項は以下の通りである。

a)  国別報告書(County-by-county report:CBC report)

 2016年1月1日以降開始事業年度より、移転価格文書として、国別報告書による報告制度を導入することが提案されている。適用対象となるのは、連結売上が7億5千万ユーロ以上の多国籍企業で、かつ、最上位の親会社がカナダ居住者である企業である。カナダに所在する子会社を親会社が代理(surrogate)として指定したときは、カナダ子会社も国別報告書を提出する場合がある(互いの税務当局が自動的に国別報告書を情報交換する状況にない場合など)。国別報告書は、年度末から1年以内に提出が求められる。各国間における最初の国別報告書による情報交換は、2018年6月までに行われる見込みである。

b)  租税条約の乱用に対する措置

 カナダが現在締結している租税条約について、BEPSの租税条約乱用に関する最低基準(Treaty abuse minimum standard)に従って、租税条約乱用を防ぐ条項を盛り込む予定である。そのための方策として(1)principal purpose testと(2)limitation on benefits ruleの2つのアプローチがあり、各国との租税条約にいずれかのアプローチを織り込むことでBEPSの要請に対応する予定である。租税条約の改正は、二国間交渉、または2016年に予定されている多国間において一部の租税条約の文言を一括して修正する租税条約の締結、もしくはその両方によって達成される見込みである。

c)  移転価格ガイドライン

 OECDが最近改定を行った「多国籍企業及び税務当局のための移転価格ガイドライン」について、政府はCRAの税務調査及び査定業務に反映するという方針を表明している。また、BEPSプロジェクトが継続して検討予定のものとして、(1)付加価値の低い取引に対する手続簡素化のための金額基準の設定と(2)最小限の機能しか持たない会社に関するリスクフリー及びリスク調整申告の定義の明確化があるが、この2項目については、検討が終了した時点で、CRAは対応を決定する予定としている。

d)  税務判決に関する情報交換

 BEPSの要請に従い、税務上の判決に関して、他国の司法当局と自発的な情報交換を実施することが提案されている。CRAは現行の枠組みを通じて、2016年から他国の税務判決に関して情報交換を行う一方で、納税者の情報保護に関する条項も合わせて検討を実施する予定である。

v) Back-to-Back ローン規制

 非居住者との取引の源泉課税に関する現行のBack-to-backローン規制を拡大することが提案されている。主要な変更点は以下の通りである。

a)  賃貸料やロイヤリティに対する規制の拡大

 カナダ居住者が、カナダ非居住者に賃貸料やロイヤリティを支払う際は、25%の源泉税の徴収が義務付けられている。それぞれの国との租税条約で当該源泉税率の軽減が取り決められているが、租税条約を結ぶ国により軽減税率が異なる。これまでは、カナダ居住者と非居住者が賃貸料やロイヤリティのやり取りを行う場合に、租税条約で源泉税率が低くなっている国の仲介者を介して取引することで、源泉税の負担を軽減できるケースがあった。そこで、2017年1月1日以降に支払われる賃貸料やロイヤリティに関して、こうした仲介者を介した取引がある場合には、Back-to-backローン規制の概念を拡張して規制することが提案されている。

b) 取引の性質を置き換えた契約に対する適用

 カナダ納税者と仲介者間の取引と、仲介者と最終受取人間の取引が、法律的には別の取引だったとしても、契約書の文言を置き換えただけで経済的には同一の取引であるような契約について、Back-to-backローン規制が適用されるよう提案が行われている。例えば、現行のルールでは、カナダ納税者が仲介者に利子を支払い、仲介者が最終受取人に同じ金額を(利子ではなく)ロイヤリティという形で支払う場合は、例え2つの取引がBack-to-backローン規制の目的から結合して考えるべきとされる場合であっても、当該規制は適用されなかった。この提案は2017年1月1日以降に発生する支払から適用される予定である。

c) 株主貸付規制に対する適用

 株主に対する貸付に対しても、Back-to-backローン規制を適用することが提案されている。株主貸付規制は、一般的にカナダ居住法人が株主に対して貸付を行っている場合に適用され、残高が1年以上動かないなど所定の条件を満たす場合に、当該貸付はカナダ居住法人の利益が株主に対して拠出されたものとみなされてみなし配当の扱いとなり、源泉税の対象とされる規制である。今回の改正では、カナダ居住法人が仲介者を通じて、非居住株主に貸付けを行っている場合に、所定の条件をみたせば、株主貸付規制が適用されることが提案されている。この改正は、2016年3月22日から施行されることが提案されており、その日において存在する契約から生じるみなし債務について適用される予定である。

d)  複数の仲介者がいるケース

 複数の仲介者が存在する場合についてのBack-to-backローン規制の適用が明確化されている。複数の仲介者が連なっている場合、カナダ居住者が最終的な受取人に支払う場合に適用される税率に基づき増分の源泉税が課税される。また、現在提案されている株主貸付規制に対する適用においても、複数の仲介者がいる場合に、同様のルールを適用することが提案されている。

 この改正は2017年1月1日以降に行われる支払い、及び2017年1月1日時点の株主への貸付に対して適用される予定である。

4. 個人所得税

i) 分割所得税額控除

 選挙キャンペーンでも公約として掲げていた通り、2016年度から18歳未満の子供を最低1人持つ夫婦の所得税に対する分割控除の撤廃が提案されている。これまで、夫婦間やCommon-law partnerの間で、所得の高い者から所得の低い者へ、50,000カナダドルまで所得を移転することができ、最大2,000カナダドルの節税が認められていた。

ii)  チャイルド・フィットネス&アート税額控除

 チャイルド・フィットネス税額控除、チャイルド・アート税額控除の段階的廃止が提案されている。2016年のチャイルド・フィットネスとアート費用に対する最大控除額は半額となる見込みである。

iii)  教育費・教科書代に対する税額控除

 教育費・教科書代に対する税額控除は、認定された教育プログラムに対する教育費、テキスト代が適用対象である。また、特定の教育機関に対して支払った授業料や受験料などに対しても授業料税額控除が適用される。しかし、今後は、授業料税額控除のみが適用対象となり、その他の税額控除は2017年に廃止されることが提案されている。ただし、2016年に未使用の税控除額残高は翌年に持越しすることができ、引き続き2017年も使用可能とされている。

iv)  個人所得税率に関する改正

 昨年12月に公表した通り、2016年から33%の税率が適用される最高所得区分(200,000カナダドル超)を新たに導入するとともに、2番目に低い所得区分(45,282カナダドル超~90,563カナダドル内)に適用される税率を22%から20.5%に引き下げた。

v)  新しいカナダ・チャイルド・ベネフィット

 以前から公表の通り、既存のカナダ・チャイルド・タックス・ベネフィット(CCTB)及びユニバーサル・チャイルド・ケア・ベネフィット(UCCB)は、新しいカナダ・チャイルド・ベネフィット(CCB)に置き換えられることが提案された。新しい制度は、2016年7月より施行される予定であり、6歳未満の子供1人につき最大6,400カナダドルの手当、6歳以上17歳以下の子供1人につき最大5,400カナダドルの手当が支払われる。この手当は一家庭の総所得額に応じ段階的に減額される。

 身体または精神に障碍を持つ子供に対しては、子供1人につき2,730カナダドルの追加手当が引き続き支給される。手当は受給対象であると認定された家族に月次で支払われ、課税対象とはされない。また、商品サービス税(GST)の還付、保証所得補填、教育預金助成金、教育保証債券、障碍者預金助成金が減額されることはない。

 州・準州の児童保護機関に対して政府から支払われている子供特別援助金は、2016年7月1日よりCCBと同じ水準まで増加させる予定である。

5. 付加価値税(GST/HST)

i)  医療機器

 2016年3月23日以降に販売される医療機器について、GST/HSTが非課税となる範囲を拡大する提案がなされている(インスリンペン型注射器及び針、間欠性尿道カテーテルなど)。

ii)  住宅施工業者

 特定の新築または大幅な改装をした住宅について、各州における2010年以降のHST導入もしくはHST税率引き上げの際に、HSTの州税に関する部分またはHST税率の上昇分に対し、税制移行措置としてHSTの軽減規定が定められた。例えば、当移行措置が表明された日以前に住宅の売買契約を交わし、実際の引き渡しがHST導入日、または、HST税率が上昇する日以降になった場合には、当該規定によりHST課税が軽減された。

 当該軽減規定を受けるためには、住宅施工業者は特別な報告義務が課されていたが、本予算案においては、当該軽減規定を受けるための報告義務を45万カナダドル以上の場合のみとした。また、過去の報告に誤りがあった場合には、罰則なしで2016年5月1日~12月31日までの間に修正することができる機会を与えることが提案されている。

iii)  金融機関

 現行のGST/HST制度では、金銭貸付などを行う個人事業主は、利息・手数料等による収入が100万カナダドルを超えると金融機関として取り扱われ、仕入税額控除などについて金融機関の特例が適用される。このため、単に個人事業主の銀行預金からの利息収入が100万カナダドルを超えた場合であっても、GST/HST上は金融機関として取り扱われることがある。今回の予算案では、個人事業主が受け取る特定の預金等からの利息については、100万カナダドルを超えるかどうかの計算には含めないことが提案されている。

iv)  再保険

 GST/HSTは通常、国内で発生した取引や輸入品にしか適用されてないが、金融機関に対する特別規定として、カナダ国外に拠点を有する保険会社を含む金融機関(例えば支店や子会社という形態で)に対し、カナダ国外で発生したカナダ国内の活動に関連する一定の費用について、GST/HSTを自己申告で納税することが求められる。予算案では、カナダ国外から再保険を購入する際に、再保険サービスの2つの構成要素である譲渡コミッションとリスク移転マージンは、上記の自己申告の対象には含めないものとすることを提案している。
 
v)  関係者間取引

 GST/HSTでは、一定要件を満たす緊密な関係会社間における取引において、GST/HSTの支払いと受取りが免除される。これまでは、子会社の完全議決権付き株式の90%以上を保有することが条件とされてきたが、資本構造によってはこの条件を欠く場合でも、緊密な関係会社と考えらえる場合があることが示唆されてきた。このため、緊密な関係会社であることの要件に、現行の要件に加えて、会社またはパートナーシップが全ての決定事項について90%以上の投票権を持たなければならない点を追加することが提案されている。この追加要件は2017年3月23日に適用されるが、消費税法のセクション150と156に基づく免除の選択を2016年3月23日以降に行った場合は、2016年3月23日から適用される。

vi)  ディーゼル燃料及び発電機

 暖房および発電のために使用するディーゼル燃料に対する消費税免除規定の明確化が提案されている。暖房用については、家屋、ビル、それらに類する建造物を暖房するために使用するディーゼル燃料に限って免除は適用されるが、工業プロセスの熱を発生させるためのディーゼル燃料は適用されない。

 発電用については、これまで発電可能な乗り物に使用されるディーゼル燃料も一定条件下で対象としていたが、本予算案では、あらゆる乗り物及び乗り物に設置された運搬用設備に使用されるディーゼル燃料を当該免除規定の対象外とすることが提案されている。これにより、発電の用途に関わらず、あらゆる乗り物(例えば、列車、船、飛行機)で発電に使用される燃料が免税対象外となる。2016年7月以降に販売または輸入される、または、7月以降の使用を意図して6月以前に販売または輸入される燃料に適用される。

vii) 担保

 消費税法では、CRAが査定中もしくは納税者が不服申立て中である場合に、納税者は支払いを求められない。しかし、予算案では、納税者の消費税及び罰金が1千万カナダドルを超える場合には、国内歳入大臣が担保を要求し、提供されない場合には徴収の権限を認める提案がなされている。これは消費税法の改正が女王の裁可(Royal Assent)を経た時点で有効となる。

 本内容は、デロイトカナダによって配信されたCanadian tax alert連邦予算案 租税措置 (Tax Measure)を参考に、日系企業の皆様に関係すると思われる箇所を抜粋し取り纏めた日本語参考訳です。本和訳はあくまで便宜的なものとしてご利用頂き、詳細については原文(英語版)をカナダ政府公式ウェブサイトこちらよりご確認頂くようお願い致します。

 デロイトは、本資料により専門的アドバイスまたはサービスを提供するものではありません。貴社の財務または事業に影響を及ぼす可能性のある一切の決定または行為を行う前に、必ず資格のある専門家のアドバイスを受けることを推奨いたします。

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