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適格非居住雇用主承認証明書 非居住雇用主への負担緩和に向けた新制度の導入

概略

 財務省並びにカナダ税務当局(CRA)は、国際ビジネス団体からの意見を受け、カナダと租税条約を締結している国に居住する非居住雇用主に対して、適格非居住雇用主承認証明書(Form RC473, Non-Resident Employer Certification -以下「承認書」)の制度詳細を発表するとともに、租税条約により課税免除となる非居住従業員の給与に対する源泉徴収、申告義務の制度の見直しを行った。

 この制度は当初、2015年連邦政府予算案の中で提案され、その後2015年7月31日に法案修正となり、今回の発表に至っている。新制度では、条件を満たす適格非居住雇用主は、承認書を申請し認可を受けると、条件を満たす適格非居住従業員の給与に対する源泉徴収義務が免除され、さらに申告義務についても免除される場合がある。これらの改正を盛り込んだ今期の予算案は、現時点では施行されていないが、CRAは、2016年1月1日より有効な承認書の申請手続きを開始することを明らかにしている。これまで、すべての雇用主は、カナダで就労した非居住従業員に支払う報酬に関し、カナダ就労分の源泉徴収税の納付がカナダ所得税法において義務付けられていた。当該納税義務は、カナダとの租税条約によりカナダで納税を免除されている国の居住者である従業員の給与にも課せられていた。

 その源泉徴収義務は税法第102条(Regulation 102 withholding)と呼ばれ、カナダ国外からの出張者等に対する個人所得源泉課税制度であり、カナダ非居住者(例:日本の親会社)が、カナダでの就労に対する報酬を出張者等に支払う際に、その報酬に掛かるカナダの個人所得税を源泉徴収し、CRAに納付する義務が課せられる。また、当該規定によるキャッシュ・フローの影響を回避するための施策として、CRAは、適格非居住従業員に対してそれらの源泉徴収義務を免除するウェイバーの申請を状況に応じて認めていた。しかしながら、ウェイバー申請手続きは、各従業員ごとの申請が必要であり、就労開始前の提出が求められていたため、事務処理上の負担が大きく非効率であった。今回導入される承認書制度は、このウェイバー申請手続きにおける雇用主の事務処理負担を回避することを目的としている。ただし、ウェイバー制度は今後も継続され、承認書制度の規定を満たさない雇用主・従業員は、現行の制度を引き続き利用できる。

適格非居住雇用主承認証明書

以下の者は適格非居住雇用主として承認書の申請を行うことができる:

  • カナダと租税条約を締結している国の居住者である雇用主(例:日本の親会社)
  • パートナーシップの場合は、年間所得の90%以上が、カナダと租税条約を締結している国の各パートナーに配分されている場合
  • 米国の有限責任会社(LLC)

 後述の申請方法により適格非居住雇用主として承認されると、適格非居住従業員に対する税法第102条の源泉徴収義務が免除される。

適格非居住従業員の要件:
  • 当該従業員が、給与支払い時にカナダと租税条約を結んでいる国の居住者である
  • 給与所得が、租税条約によりカナダで課税されない
  • 当該従業員のカナダでの就労日数が暦年で45日未満、または、カナダでの滞在日数が支払日を含むいずれかの12ヶ月の期間において90日未満である

また、適格非居住従業員のカナダ就労分に対する収入が暦年で1万カナダドル未満の場合、T4スリップ(源泉徴収票)の申告が免除される。T4スリップの申告が不要であれば、申告時に必要となる従業員のカナダ納税者番号の取得も不要となり、雇用主にとっては大きな負担軽減となる。

適格非居住雇用主承認証明書のフォーム
(FORM RC473, NON-RESIDENT EMPLOYER CERTIFICATION)
  • フォームRC473は、CRAが指定したバンクーバー・タックスサービスオフィス内のPacific International Waivers Centre of Expertiseに提出しなければならない。
  • 申請書類の提出時期は、雇用主が希望する承認書発効日の遅くとも30日前まで (2016年1月1日から現在までの発効開始日については後述)。
  • 申請書類には、非居住雇用主のカナダでのビジネス番号(CRA Business Number (BN))が必要とされるが、申請書と同時にビジネス番号の申請も可能である。
  • BN以外には、特に追加のサポート資料は必要とされていない。CRAによると、各申請の状況により必要と判断した場合に追加資料の提出を求めることがある。
  • 申請書類が受理されると、CRAより、承認書とその有効期限が書類にて通達される。当該承認書を受け取るまでは、雇用主は通常の源泉徴収が求められ、源泉徴収を行わない場合はウェイバーを適切に取得していることを確認する必要がある。なお、承認書は2年間有効である。
  • フォームは5つのセクションからなり、雇用主の基本情報、代理人情報、雇用主のビジネス情報、雇用主の居住国情報とその認証が求められる。雇用主はフォームに記載した事項に変更があった場合、早急にCRAへ書類にて変更点を報告する義務がある。
雇用主の義務

承認書に付随する雇用主の義務:

  • 適格非居住従業員のカナダにおける就労日数、滞在日数、カナダ源泉の収入の記録と管理
  • 当該従業員がカナダと租税条約を結んでいる国の居住者であることの判定
  • 当該従業員の給与がカナダ租税条約において非課税となるかどうかの判断と文書化
  • 当該従業員のカナダでの就労日数が暦年で45日未満、またはカナダ滞在日数が支払日を含むいずれかの12か月の期間において90日未満であるかの判断
  • BNの取得、また、源泉税納付義務がある場合は、給与アカウントの取得
  • 暦年において、カナダ源泉所得が1万カナダドル以上の適格非居住従業員に対してT4スリップの作成と申告
  • 承認書に基づき、該当する年度のカナダ法人税の申告
  • 承認書と税法第102条の源泉徴収義務についてのCRAの税務調査が入った場合、リクエストに基づくカナダでの帳簿・記録の提出

適格非居住雇用主が個人所得税源泉徴収義務から免除されたとしても、カナダ年金基金(Canada Pension Plan (CPP))と失業保険手当(Employment Insurance (EI) premiums)への拠出金は引き続き源泉徴収の対象となり、CPP・EI関連の規則により納付免除とならない限り、雇用主は給与の支給に際してCPP・EIの源泉徴収は行わなければならない。

適確非居住雇用主としての承認を受けたとしても、CRAは、雇用主がカナダ税務を遵守していないと判断した場合は承認を撤回できる。そのようなリスクを未然に防ぐため、雇用主はそれぞれの期間において、従業員のカナダでの就労、非就労別の滞在日数を記録する体制を整えておかなくてはならない。さらに、滞在日数が正確に記録されていることを確かめる適切な内部統制の整備運用も求められる。CRAによる承認撤回は、再申請による承認を困難にする可能性がある。

移行期間

CRAは雇用主が適格非居住雇用主として承認を受けるまでの移行期間を設け、この期間内に承認された証明書の有効期間は2016年1月1日に遡及される。移行期間後に提出された承認申請については、遡及措置はなく、承認書発効日以前の非居住従業員への給与支払いに関しては、個人ごとのウェイバーを入手していない限り、雇用主は引き続き、源泉徴収義務がある。CRAは2016年度において、申請フォーム公表の時期による追加の移行猶予期間が設けられるかどうかについては明示していない。

雇用主における準備事項:

財務省とCRAは、非居住雇用主にこれまで課されてきた事務処理上の負担軽減に対し前向きな政策を打ち出した。この新しい適格雇用主承認制度は、カナダにおける税金が適切な金額で査定・徴収されることを確実にするためのCRAの強制力を保持しながらも、各事業体が、課せられた納税義務をより効果的かつ効率的に管理できる制度となっている。大幅な負担軽減となる新制度の導入にあたり、カナダで事業活動を行う非居住従業員を有する非居住雇用主は、承認手続きに必要とされる義務に対応するため、今から適切な社内方針や手順の構築に取り掛かるべきである。

デロイト カナダ 日系企業サービス・グループ

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