Posted: 06 Jan. 2022 3 min. read

<新春特別寄稿>「宇宙船地球号」の未来をAIが守るために、人は何をすべきか

シリーズ ”宇宙船地球号”の未来について考える

ローマクラブの警告とその解決の助けとなる技術としてのAI

1972年に国際的なシンクタンク「ローマクラブ」は地球上の成長が100年以内に限界に達することを警告した。近年、人為的な気候変動への要因、特に石油や石炭等、化石燃料の大量消費に伴う大気中の二酸化炭素濃度の上昇による地球温暖化への懸念が高まり、この警告をまた改めて受け止める時がきている。

「宇宙船地球号」とその乗組員である人類と生物の未来を守るために、私たちは今、社会のあり方を変える瀬戸際にいる。気候変動の問題に取り組み、あらゆる知恵と技術を持って解決策を見出す必要がある。AIはそのうちの有力な技術の一つであることは間違いない。

現代のAIは電力を多く消費するため、温暖化の遠因にもなっているという指摘もある。それゆえに、AIは気候変動の解決に代表されるような、社会的にインパクトのある、意義のある目的にこそ活用をしていくことが大切である。以下にて、いくつかの適用ケースを考えたい。



AIによる天気・天候の「予測」の精度向上

まずは現代におけるAI技術の中心的な適用領域となっている「予測」がある。

天気や天候の予測は、AI技術によってその精度が高まっており、また長期の気候の予測も期待されている。従来の数理モデル、物理モデルでのシミュレーションが機械学習モデルを組み込むことでより精緻化され、1週間の天気予報から、2週間から3ヶ月間のスパンでの季節予測、10年に及ぶ長期予測、さらには20年以上の気候変動を予測していく試みも行われている。これら技術の進展により、地球そのものの「デジタルツイン」と呼べる規模でのシミュレーションの実現も視野に入っている。高度な予測は気候変動問題への理解を深め、対処に向けた議論や対策の実施を促進していくことができる。

天候の予測精度の向上に伴い、気象パターンの変化をとらえた異常気象や自然災害の予測精度向上も進んでいる。衛星データを収集し、リモートセンシングを行うことによって、大規模火災や干ばつ、その他の悪天候や害虫の大量発生等の予兆を掴む。突然の豪雨や台風を予知することで、洪水や地滑り等の事前アラートも可能になり、災害による被害を抑えていくことにつながる。

 

AIによる気候変動対応の「最適化」

予測に加えて「最適化」もAIが得意とする適用領域の一つである。最適化とは、リソースの最適配置や効率的活用を意味し、気候変動からの防御において有効である。例えば、自然災害が発生した際に、どこの道路を封鎖することで避難も行いながら被害を最小化することができるか、またどこに最初の救援チームを送るか、どの病院を厳戒態勢にするべきか、どのエリアの住民が救援物資を必要とするか、等に対してAIを用いて対応策をリアルタイムで出して実行していくことができる。

もちろん、災害が起きてからの事後的な対応だけでなく、都市や産業におけるエネルギーの利用を効率化し、廃棄物を削減して環境への負荷を減らしていく事前のアクションにおいてもAIによる最適化が役立つ。都市における交通や産業における物流・配送の最適化はAIの活用を推し進めるべき領域だ。EV、コネクテッドカーや自動運転車は、AIで高度化された車両交通追跡システムによって迅速でクリーンな移動を可能とし、ライドシェアリングのような新しいモビリティの有効活用も相まって高いレベルでの効率性を達成することができる。産業においては、そこにデータを活用したサプライチェーンマネジメントの自動化やそれによる過剰生産や在庫の低減、また各種設備や車両の機械学習による予知保全が加わる。都市や産業のレベルでAIをフル活用した最適化を実現していくことによるエネルギー消費の削減は、温暖化への影響を軽減していくためにも極めて重要である。

 

AIによる「新しい製造・生産」

AIがエネルギー消費を減らしていく「新しい製造・生産」に貢献する方向性もある。材料や素材分野での新物質開発にも機械学習やAIは適用される。いわゆるMI(マテリアルズ・インフォマティクス)と呼ばれる領域で、大量の特許文書や論文等の文献データベースと、原子配列や電子配置等の物性特性を高精度に計算した材料データベースをもとに、より迅速かつ正確に新物質探索や開発を行う。例えば、二酸化炭素の排出量の多いセメントや鉄鋼等に変わりうる、より少ない原材料で構造的な部材の開発も可能になるかもしれない。エネルギー消費を抑えた素材や物質、製品の開発を進めることで持続可能な社会への進化を後押しする。

 

人がAIを活用し、未来を救う

このように、AIは気候変動に立ち向かっていくための強力な武器である。であるが、同時にAIは決して万能ではなく、あくまでも手段であり、その活用には制約があることも忘れてはならない。

前提として、人間が与えたテーマや枠組みの中でAIは最善の解決を導き出すことができる。逆にそれら目的や問題の設定がないところでAIが自動的に物事を解決してくれるわけではない。新素材を探索するAIも、どのような製品を作るかというビジョンがあってこそ有効な物質を探索できる。つまりは、人間が目指すべき目標へと向かっていくために、それぞれの領域で何をテーマとしてAIを活用していくか、どのような課題を解決するためにAIを用いていくのかを考えることこそが大切であり、それゆえに私達自身の問題に対する理解と議論こそが重要になってくる。

気候変動は、私たちの生活や社会経済に加え、未来をも脅かしている。早急に協調した効果的な行動をとらなければ、私たちはこれまで以上に異常な気象現象、食糧不足、地政学的な危機に直面することになるだろう。ローマクラブの警告を改めて目の前の危機として認識する必要がある。そして、私達が正しい方向に進むために何を目指していくべきか。率先した議論を通してそれらを見出し、AIを最大限活用しながら目標に向けて問題を解決していくことは、宇宙船地球号の乗員たちがこれからも共存共栄していく大きな助けとなるだろう。

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著者プロフィール

森 正弥/Masaya Mori

森 正弥/Masaya Mori

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

Deloitte AI Institute 所長 アジア太平洋地域 先端技術領域リーダー グローバル エマージング・テクノロジー・カウンシル メンバー 外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。 ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国の研究開発を指揮していた経験からDX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。CDO直下の1200人規模のDX組織構築・推進の実績を有する。 東北大学 特任教授。東京大学 協創プラットフォーム開発 顧問。日本ディープラーニング協会 顧問。過去に、情報処理学会アドバイザリーボード、経済産業省技術開発プロジェクト評価委員、CIO育成委員会委員等を歴任。 著書に『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『両極化時代のデジタル経営』(共著:ダイヤモンド社)、『パワー・オブ・トラスト 未来を拓く企業の条件』(共著:ダイヤモンド社)がある。 記事:Deloitte AI Institute 「開かれた社会へ:ダイバーシティとインクルージョンの手段としてのAI」 関連ページ Deloitte AI Institute >> オンラインフォームよりお問い合わせ