Posted: 20 Sep. 2019 4 min. read

気候変動との闘いで「全体最適」は勝利を手にできるか?

世界の首脳や閣僚が一堂に会する第74回国連総会が9月17日、ニューヨークの国連本部で開幕した。期間中の23日には国連気候行動サミット(UN Climate Action Summit 2019、以下サミット)が開催される。

ここではサミットのインプットの目的で8月に国連からリリースされた40ページで構成されるレポート” Climate action and support trends”を参照しつつ、サミット以降に予想される世界の変化について考察してみたい。

このレポートでは、「気温上昇を2℃未満に抑制し、更に1.5℃未満を目指す」パリ協定の目標には、国連に各国・地域が提出した183のNDC(各国が決めた貢献)がすべて達成されても、到底届かないことが伝えられた。

その背景として、3章の「温室効果ガス排出」で「炭素予算(CO2 budget)」について触れている。産業革命以前と比較した地球の気温上昇を2℃あるいは1.5℃未満に抑えるために排出できる温室効果ガス(以下、GHG)の上限量を示す「炭素予算」に対して、2012年から2016年までの5年間で既に1/6~1/3を排出してしまっており、その後も排出量の増加が推測されるため、2030年前後での早急なピークアウトに向けた追加対策が必要としている。

また4章の「気候リスク、脆弱性とその影響」では気候リスクに晒される農業・林業・漁業・エネルギーなどの9セクターを挙げたうえで、沿岸部や河川デルタといった地域や、子供や高齢者といった人々への健康や経済面での脆弱性に触れている。5章の「気候行動」では各国の取り組みに一定の評価を与えつつも、GHG排出を削減する「緩和」も、気候変動による物理的な影響を回避する「適応」も不十分であることを示している。

日本は2030年にGHG排出量を26%削減(2013年度基準)する目標をNDCとして掲げ、「今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素化を実現する」としている。一方で英国のように、2050年までにGHG排出を実質ゼロにする目標を法制化した国もある。一部のNGOと企業が協力し、政府にNDCの更新を求める動きも見られる。今回のサミットでの議論を経て、遅かれ早かれ日本のNDCも強化に向かうことが予想される。そうなれば、エネルギー計画や経済団体、各業界団体が設定する緩和や適応に関する目標も見直されることになろう。

折しも、内閣改造で小泉進次郎氏が環境相に就任し、石炭火力発電を減らしていく言及が報道されている。また、サウジの石油施設への攻撃に伴う原油価格の高騰と合わせて、再生可能エネルギーなどに代表される分散型エネルギーの必要性も想起される。企業においては、複数の気候変動シナリオを想定した場合にも事業戦略が盤石であるかを問うシナリオ分析を含むTCFDへの対応が求められている。気候変動シナリオを外部要因と捉えるか、世界を変えることのできるグローバル企業としての意思を示すか?将来世代を含む全体最適への具体的な解が問われている。

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