Posted: 12 Feb. 2020

Football Money Leagueに見る欧州サッカービジネスの行方と我が国への示唆

欧州サッカークラブの年間収益を可視化し、それを基に順位付けを行う「Deloitte Football Money League」(以下、FML)の2020年版が1月14日に発表された。今回、スペインのFCバルセロナが9億5,930万ドル(約1,050億円)の収益を獲得し、史上初めて9億ドルの壁を突破し首位に輝いた。同シーズンのJリーグ最高収益を獲得した神戸が96.6億円であることに鑑みると、FCバルセロナの収益の巨大さが良くわかる。

今回のFMLでは、FCバルセロナの飛躍の要因を「自社がコントロールできる収益の拡大に注力した」と分析している。FCバルセロナは、グッズ販売等マーチャンダイジングとライセンシング業務を内製化する等自らがコントロール可能な事業の収益性を高めることに力を入れ、クラブの持つ優れたブランドをより収益増加に結び付けられる仕組みを整えた。一方、欧州サッカークラブ全体では放映権料が収益全体の44%を占めており、最大の収益源となっていることがわかった。放映権料は基本的にリーグが交渉を行い、決まった金額を各クラブへと配分する形であるため、クラブ自らが経営努力によってコントロールすることが難しい収益源であり、過度の依存はリスクも伴う。

一般的に、クラブの収益は放映権料、チケット収入、スポンサーシップ・グッズ収入の3つに大きく別かれ、放映権料依存から脱却するには残り二つに注力する必要はあるが、FML上位の人気クラブは既にスタジアムが常時満員というケースが多く、チケット収入の増加余地は限られているのが現状だ。そんな中、FCバルセロナ以外にもスポンサーシップ・グッズ収入を増加するため戦略的な動きを見せているのは、2019年12月に日本代表・南野拓実選手が加入した英国のリバプールである。スポンサーシップ・グッズ収入増加をグローバル規模で試みており、数年前よりサッカー熱の高いタイ等においてオフィシャルストアを設置する他、国外のファンとのコミュニケーションを活性化すべく、各国版のウェブサイトやSNSアカウントを作成した上で、本国で発信されている情報を全て翻訳して掲載している。さらに、ローカルの広報担当を設置し、現地向けにカスタマイズされた情報も発信している。このようなローカライズの努力が結実したのか、実際にタイ、カナダ、日本等世界中からスポンサーを獲得している。

現在、サッカービジネスの新たな成長のフロンティアとしての期待が高まっているのは女子サッカーである。その象徴となっているのは、2019年のFIFA女子ワールドカップ・フランス大会で連覇を達成したアメリカ代表で、最優秀選手にも選ばれたラピノー選手だ。サッカー選手の男女格差について問題提起を行ったり、自らが同性愛者であることを公言して寛容さの大切さを説いたりするなど、競技力だけでなくその社会的影響力の大きさでも世界の注目を集めている。女子サッカーの社会的注目度が高まるのに合わせ、事業機会も拡大している。UEFAは女子チャンピオンズリーグを2021-22シーズンより開始する構想を発表し、女子サッカー飛躍のための環境が着々と整備されてきている。FML2020の上位20クラブにおいては17クラブが女子チームを既に保有しており、男子チームでのノウハウを活用しながら、全く別に放映権料、チケット収入、スポンサーシップ・グッズ収入を得る機会を得ていくだろう。

翻って、女子日本代表「なでしこジャパン」は今後従来以上に厳しい戦いを強いられる可能性がある。競技成績とは移ろいやすいもので、その背景には選手の競技力の盛衰があることはもちろんだが、選手が実力を伸ばし、発揮し、活躍するための環境設計も大きな要素として考えられる。クラブや競技団体のビジネスの力はその源泉であり、FMLを未来の競技成績を指し示す指標の一つとしても見ることができるのではないだろうか。

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