Posted: 01 Sep. 2021 3 min. read

日本らしいデジタル変革とは ~ポイントは「在るものを活かして、無きものを創る」

1.日本らしいデジタル変革とは ~ポイントは「在るものを活かして、無きものを創る」
2.DXを巻き起こす「価値創造サイクル」成功の秘訣とは
3.デジタル人財育成のために今、日本が取り組むべきこと

 

「失われた20年」と言われて久しいが、日本のGDPはアメリカ、中国との開きが一層拡大しており、国民1人当たりのGDPにおいても2020年は23位と1990年代半ばと比べ大きく順位を落とした。

また、デジタルの領域については、IMD世界デジタル競争力ランキング2020において日本の順位は63か国中27位と中位に留まり、特にデジタル教育に対する公的な支出、スキルの育成については非常に低い。日本はデジタル立国を志しているが、実際のところキャッチアップ出来ないほど差が開いた“数周回遅れの現実”を私たちは直視しないといけない。

デジタル化が進まない原因は「内向きのタコつぼ社会」

デジタル化の必要性が叫ばれてきた一方で、本質的な変革が実現していないが、その真因は技術の問題ではなく、過去の成功に縛られた日本の社会システム、言わば「内向きのタコつぼ社会」にあると考えている。

 

「内向きのタコつぼ社会」というと、クローズドな自前主義、縦割り、セクショナリズムという言葉が想起され、日本をよりネガティブな側面で表現するような1つの言葉になっているが、実は過去の日本の成長を支えてきた仕組みでもある。過去を振り返ってみると日本全体のパイが拡大していく局面では各企業や組織がそれぞれの環境における最適な方法で良いものをつくり、成長していくことができた。しかし、人口減少していく時代においては、全体のパイが減少し、かつ社会のゲームが変化しており、かえって今までの仕組みがあるがゆえに既存ルールを偏重してしまい、変革のスピードが遅くなってしまう。つまり、日本の成長を支えてきた社会システムそのものが、将来の成長の足かせになってきているのだ。

 

内向きのタコつぼ社会はそれぞれの組織の中に閉じていることが特徴であるが、一方で、デジタルは真逆の作用があり、データ化して見える化することで、それぞれの組織のデータ同士が外向きにつながっていくことが特徴だ。データが集まれば集まるほどつながる先が増え、そこから生まれる潜在的な価値が増幅していく力を持っている。しかし、デジタル化について「これまで成長を支えた内向きのタコつぼ型の日本社会を壊してしまうもの」と単に考えてしまう人がおり、この抵抗感があるがゆえに、なかなかデジタル化が進まない。

 

一方、昨今「日本はイノベーションが苦手だ」という議論がよく行われているが、私はそうは考えていない。日本は、新しいものを創り出すことは決して苦手ではなく、日本発ですばらしいものを生み出してきたが、それを広げていくということに対して大きな課題がある。なぜならば、既存の仕組みや組織があまりにも強いがゆえに、新しいものを創った時に衝突してしまったり、既存のものと共存させることが難しくなったりするからだ。それがゆえに、新しいものをつくっても一気に広がらない、という課題を抱えている。

日本社会に向けた提言「在るものを活かして、無きものを創る」

内向きのタコつぼ型社会という現実を踏まえつつ、その真逆の “破壊力” を有するデジタルといかに向き合い、新たな価値を生む変革につなげられるかが今まさに問われている。

 

そこで、私は「在るものを活かして、無きものを創る」というコンセプトで、日本社会らしいデジタル変革を進めていくべきだと考えている。日本には多くのすばらしいものがあるため、それをデジタルでつないでデータ化することで、新たな世界観をつくっていく。このような方法で、今ある良さを生かしながらも新しいものを創り、新しいものを創る力を強めることによって、今あるもの自体を変容させていくことができると考えている。

 

3ステップの価値創造サイクルを回す

具体的に実現するには、3ステップの価値創造サイクルを回していくことが必要だ。

※クリックかタップで拡大画像をご覧いただけます

 

第一ステップでは、データを取る。日本にはリアルな空間では優れているものが多数あるが、デジタル化されておらず、データとして取れていないものが多い。そこで、まずデータとして取ること、見えるような形にしていくことから始めるべきだ。日本の優れているものの具体例としては、産業の競争力、様々な文化資産、成熟した社会のインフラ、安心・安全等に対する非常に高いマインドセット等がある。更に人財という観点では、個人のスキルが高く、また、品質に対して非常に高いマインドを持っている消費者が多い。消費者の目が肥えており、非常に質が高いものがたくさんあるため、日本のリアルな強みをいかに可視化していくかが重要だ。

 

第二に、データとして可視化されたものを、バーチャルな世界、サイバーの世界でつなげていく。その仮想空間の中でシミュレーションし、より良いものや、あるべき社会の姿を創っていく。

 

第三に、それをリアルの世界に反映して価値を生み出していく。リアルな世界で実現するには様々な変えるべきものがあるため、リアルで試す前に第二のステップにおいて一度バーチャルな空間で新しいものを仮想してみることが重要だ。最近、製造業では工場の「デジタルツイン」というコンセプトが広く知られているが、それを社会に実装していくというイメージだ。

 

このような価値創造サイクルを実際にまわしている事例を次回紹介する。

関連リンク

>日経クロステック:DX後進国の日本が巻き返す鍵は官民連携と「価値創造サイクル」にあり

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シリーズ

1.日本らしいデジタル変革とは ~ポイントは「在るものを活かして、無きものを創る」
2.DXを巻き起こす「価値創造サイクル」成功の秘訣とは
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松江 英夫/Hideo Matsue

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デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)