Posted: 04 Mar. 2021 3 min. read

人とひとの相互の共感と信頼に基づく「Well-Being社会」の構築を目指して

~復興支援から未来を拓く持続的活動へ~

自分事として考え行動することの難しさ

うかつにも「大変でしたね」と一言発した時、「岩手や宮城では、もう大震災は過去のことで復旧復興かもしれない。でも福島は今が被災中なんだ」と切り返された。東日本大震災の発生から一ヶ月余り経過した2011年4月ごろ、まだ新幹線も高速道路も止まっていて、以前から懇意にしていた福島の経営者にやっと会えた時のことである。

その時私は、自分の身の周りの世界にばかり気を取られていることに対して、申し訳なさと恥ずかしさを覚えた。当時、監査法人トーマツの盛岡と仙台の事務所の所長をしていた私は、ただちに福島の事務所開設に動き出した。地元の人々と共にその地に暮らし、その地の匂いを感じてこそ地域の課題を自分事として解決に向かえると思ったからだ。

 

岩手に生まれ育ち、東北の地域企業の発展と地域経済の繁栄を願い、監査・株式上場支援業務を提供していた私にとって、また、岩手・宮城・福島の3県に拠点を持つ唯一の総合プロフェッショナルファームの一員として、被災した3県の復興に力を注ぐのは当然の使命であると考え、デロイト トーマツ グループ全体で復興支援室の立ち上げに取り組んだ。CEOをはじめグループを挙げての活動としてスタートし、徐々に共感の輪が広がって、プロボノ対応してくれた有志は延べ500名を超えた。そして、大震災後10年を迎える今も復興支援活動を継続している。

復興支援の全ての起点は「ひと」

「まち」の復興も、「しごと」の復興も、全ての起点となるのは、「ひと」づくりからである。こうした考え方から、デロイト トーマツの復興支援室では、再生支援などの専門的知見を活かした活動を展開するだけでなく、地域のリーダーたる経営者育成に力を注いできた。まずは、私自身が経済同友会の「東北未来創造イニシアティブ」の発起人及び「人材育成道場」のスーパーバイザーとして動いた。岩手では未来創造塾(4期)、宮城では経営未来塾(5期)という未来志向の塾名で、合計153名の卒塾生を輩出した。福島では産業人材育成塾(現在5期目)を開催中である。

 

経営者育成塾では「メンタリング」という対話による気づきと助言を通じて、自立(自分で考え行動し結果責任を取る)を促す育成手法を採った。経営者の考え抜くプロセスに伴走し、意図をもって追い込み、意図をもって寄り添うのである。半年に及ぶ塾は、わかりやすく言うと、経営者育成の「虎の穴」。塾生の魂をつかみ出し、「想いを育み事業構想を磨きあげ」て、それを塾生本人の中に再注入するのである。

 

塾生にとって何よりもインパクトがあったのは、「リーダーシップの本質」を体得して自己の生きる軸を明確にし、経営者として、何のために、誰のために事業を行うのかについての気づきを得たことであろう。勇気をもって挑戦への一歩を踏み出す気概を養い、身近な人、地域の人、多くの人に支えられていることに気づき感謝することで、塾生一人ひとりの中に「利他の心」が芽生えたのである。

 

常に言い続けたのは、「できるできない」ではなく「やるかやらないか」で未来を拓く!という考え方。卒塾生はどんな苦境にあっても「自分を突き動かす想い」を原動力にして「自分をリード」し、「変革と創造に挑戦」して勝ち残る、強く生きる秘訣を身につけた。この体験は、まさに、現下のコロナ禍において、大きな力となって活かされていることであろう。「自分を信じて」挑戦してほしい。

復興支援から未来を拓く持続的活動へ

どんな災害が起こっても、被災者に対する想いは「他人(ひと)ごと」になってしまえば「風化」していく。強い想いがある人だけが活動するのではなく、地域や年代を超えて多くの人が復興支援活動を「自分ごと」として捉え、多様な角度から貢献できる組織にできないかと思案してきた。

 

私の属するデロイト トーマツ グループは、「ひと」こそが財産の組織である。一人でも多くの社職員が復興支援のような社会的な活動に自ら関わることで、人への「感度」を高め、「認知」し、「関心」を持って、考えや行動を「肯定」し「称賛」する企業文化を備えたい。そのような想いから、将来に向けてありたい社会の姿と行動指針を示し、活動しやすい環境を整えることで、社会に向けた取組みの「自分ごと化」を促し、社職員一人ひとりを起点にグループ全体で本質的な「発想・行動の変革の連鎖」を生み出す仕組みを検討している。トップがコミットし、個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献し合う関係を築こうとしている。

 

こうした取組みを展開することを通じて、グループ内部の「ひと」だけでなく、他の企業や団体とも「共感と信頼」によって「つながり」、地域や世の中に広がっていくこと、そして多くの人が心・身体・家族・仲間(組織)・地域・経済・福祉・社会がより良い状態になる「Well-being”社会」の実現に向かっている姿を想い描いている。「できるできない」ではなく「やるかやらないか」で未来を拓く!と自らに言い聞かせながら。

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