Posted: 13 Oct. 2023 3 min. read

ゴミ拾いの可能性 ~プラス効果の仕掛けにより日常化へ

2023年秋、ワールドカップバレー2023において、男子日本代表がパリ2024出場権を獲得し、日本中が湧いた。自力でのオリンピック出場権獲得は2008年の北京以来の快挙だ。

このワールドカップバレー開催直前に、会場の国立代々木競技場の周辺においてゴミ拾いイベント*1が開催された。イベントにはバレーボール元日本代表選手が参加した他、ゴミ袋を“アタック”できる特設ゴミ捨て場を設置し、楽しくごみ拾いできるような仕掛けも取り入れられた。

 



このゴミ拾いイベントで興味深い点が二点ある。

一点目は、ゴミ袋が日本発の「ライスレジン」という素材を使っている点だ。ライスレジンは、食用に適さない古米、米菓メーカーなどで発生する破砕米等を基に生成したバイオマスプラスチックで、石油由来プラスチックと比べてもコストや強度等の品質はほぼ同等という画期的な素材である。

今回ライスレジンをゴミ袋として使用しているが、その特長としては、原料の米が100%国産で調達リスクがないことに加えて、ゴミ焼却時のCO2排出削減というプラス効果が見込めるということが挙げられる。実際に新潟市では、ライスレジン製の市指定ゴミ袋を導入し、石油由来のプラスチック含有量の削減と共に、ゴミ焼却時の二酸化炭素排出量を10%削減することが期待されている*2

 

二点目は、「ゴミ拾い」が、従来のマイナスを減らす正義感や義務感からだけでなく、「プラス効果」を楽しむモチベーションによって取り組める、という可能性を示している点だ。

「ゴミ拾い」というアクションに、自分にとってのメリットが感じられる要素を織り込むことで、参加者に「プラス効果」を実感させ主体性を高めている。今回で言うと、参加者は、「きれいな街でスポーツイベントを開催したい」という達成感や一体感を楽しみながら取り組めるようになっている。

一方で、今後はスポーツイベントという非日常の場だけでなく、いかに、日常的な場面において、自分にとってのメリット(プラス効果)を感じながら取り組めるかは大きな課題である。

そこにおいて参考になる取り組みは既に出始めている。その一つに、スウェーデンで生まれた、ゴミ拾いとジョギングを掛け合わせた「プロギング」というアクティビティがある。ゴミを拾う際のしゃがむ動作が加わることで、通常のジョギング以上の高い運動効果やストレス発散など効果が高く、心身ともにメリットを感じることができ、日本でも広まりつつある。

他にも、ゴミ拾いにゲーミフィケーション(ゲーム性)を掛け合わせて、チームで競い合う取り組みも日本各地で展開されている。自治体や地域コミュニティを巻き込んで、街中や海洋ゴミ拾いをチーム単位で、ゲーム感覚で競い合うイベント*3が開催されていて、子供から大人まで、楽しみながらゴミ拾いの大切さを浸透させる工夫がなされている。

 

これからはゴミ拾いについて、個人にとっての「楽しさ」を感じられる工夫をすることによって、行動を一過性に終わらせずに日常に浸透してゆく展開になることを期待する。

※本稿は、2023年9月15日のフジテレビ系列「FNN Live News α」出演時のコメントを基に再構成しています。

 

D-NNOVATIONスペシャルサイト

社会課題の解決に向けたプロフェッショナルたちの物語や視点を発信しています

プロフェッショナル

松江 英夫/Hideo Matsue

松江 英夫/Hideo Matsue

デロイト トーマツ グループ CETL(Chief Executive Thought Leader)、デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表

デロイト トーマツ合同会社 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 社会構想大学院大学 教授 中央大学ビジネススクール 客員教授 事業構想大学院大学 客員教授 経済同友会 幹事 国際戦略経営研究学会 常任理事 フジテレビ系列 報道番組「Live News α」コメンテーター(金曜日) 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員 経営戦略及び組織変革、経済政策が専門、産官学メディアにおいて多様な経験を有する。 (主な著書) 「「脱・自前」の日本成長戦略」(新潮社・新潮新書 2022年5月) 『両極化時代のデジタル経営—共著:ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社.2020年) 「自己変革の経営戦略」(ダイヤモンド社.2015年) 「ポストM&A成功戦略」(ダイヤモンド社.2008年) 「クロスボーダーM&A成功戦略」(ダイヤモンド社 2012年: 共著) など多数。 (職歴) 1995年4月 トーマツ コンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)入社 2004年4月 同社 業務執行社員(パートナー)就任 2018年6月 デロイト トーマツ グループ CSO 就任 2018年10月 デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)代表 就任(現任) 2022年6月 デロイト トーマツ グループ CETL 就任(現任) 2012年4月 中央大学ビジネススクール客員教授就任(現任) 2015年4月 事業構想大学院大学客員教授就任(現任) 2021年1月 特定非営利活動法人アイ・エス・エル(ISL) ファカルティ就任(現任) 2018年10月 フジテレビ「Live News α」 コメンテーター(現任) (公歴) 2022年10月 経済産業省 「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」 委員就任(現任) 2020年12月 経済産業省 「スマートかつ強靱な地域経済社会の実現に向けた研究会」委員就任 2018年1月 経済産業省 「我が国企業による海外M&A研究会」委員就任 2019年5月 経済同友会幹事(現任) 2022年10月 国際経営戦略学会 常任理事(現任)