生成AIの時代、変わる組織の在り方 ブックマークが追加されました
デロイトが15年にわたり発行するTech Trendsの時間軸で眺めても、今まさに我々は新しいテクノロジーの潮流にいる。かつては取引の記録や経営管理のツールだったテクノロジーが、現在は企業価値の源泉にもなり得るほどのインパクトを持つ。この数年起きたIoTの普及、データドリブン経営へのシフト、AI・機械学習の浸透、ローコード・ノーコードツールの充実といった流れに続き、衝撃的な登場をした生成AIはそれを加速化させている。
生成AIがさまざまなデバイス、アプリなどに組み込まれてきている。自然言語での対話が可能で、多くの場合は無償でアクセスができ、利活用へのハードルがこれまでのテクノロジーの中では群を抜いて低い。ローコードプラットフォームや自動化ツールなどによって少しずつ進んでいたテクノロジーの「民主化」の流れを決定的なものにしており、誰もがテクノロジーを自ら駆使して問題解決に取り組める時代になりつつあるともいえる。
生成AIは専門家に依存せず、比較的簡単に使える一方で、それを使いこなし価値を最大限引き出すには使い手の力量が問われる。学習データの整備やアルゴリズムといったソリューション自体の質も重要だが、プロンプトを入力して期待通り、あるいはそれ以上のアウトプットを引き出すのはユーザーの腕次第である。使い手のスキルや創造力が高ければ価値創出の可能性が拡がり、使いこなせる人が増えれば価値の規模を大きくできる。一方で、セキュリティやプライバシーなど、使い手に委ねられるリスクの範囲も拡大し、一般ユーザーにも今まで以上のリテラシーとアウェアネスといった責任が求められるようになることを忘れてはならない。
そのような時代において、組織の在り方も変わっていく必要があるだろう。
従来は、業務要件の分析やシステムの開発、安全性の担保など、ビジネスとITの役割分担は一方向的で偏りも多く見られた。しかし、生成AIを始めとする先進テクノロジーの利活用においては、双方がさまざまな視点をもって創造力を発揮しなければならない。協働なくしてテクノロジーの可能性は最大化できない、さらに急速な環境変化に追随できるスピードも発揮できないだろう。組織の形としては、部門横断・機能横断で多様な人材がチームを組んでコラボすることや、素早い環境変化に合わせチームの形を変えられる柔軟性も求められてくる。
生成AIは使用者も含め、テクノロジーの利活用に関わるすべての人が、その価値・リスクに関する知識を持ち、適切に使いこなすスキルを持ち合わせることが期待される。さらに、業務の掛け算、技術の掛け算によって価値が発揮されるソリューションも多く、発想力やプロデュース力を持つ人材が求められる。AIなどの専門人材はより深い知識が求められる一方で、特定の領域での専門性に固執せず、ビジネスや技術の変化を捉え、学び続けられることが重要になる。
そして、これらを促進するためのカルチャーとリーダーシップが不可欠となる。オープンで学習を重視したカルチャーを醸成し、現場が自ら試行錯誤しながら意思決定を促していくためのエンパワーメントが経営層の重要な役割となる。経営層自身がテクノロジーに幅広くアンテナを張り、そのインパクトを見定めながら、創造力に富んだ北極星を示し続けることが重要になるだろう。もはや、テクノロジーはIT部門のものではなく、企業全体で取り組むべき経営マターとなっている。
様々なテクノロジーが民主化され、知識・発想力・プロデュース力が求められる時代の企業に向けたさまざまなヒントを今年のTech Trendsでは紹介している。各テクノロジーの動向だけではなく、それらのテクノロジーがビジネスにどのようなインパクトを及ぼし、先行する企業がどのようにそれに対応しているのか、そして今後に向けて企業はどのように構えていけばいいのか。また、人材不足や技術負債といった多くの企業に共通する課題に対する考え方も考察している。明日の企業運営を考える一助として、全てのビジネスパーソンにご一読いただけると幸いである。
ITコンサルティングファーム、コミュニケーションコンサルティングファームを経て現職。20年以上にわたり、幅広い業界に対して、企業のIT・DX戦略、IT組織変革・人材戦略、ITガバナンスや、システム構想から実行支援といったさまざまなテクノロジー課題の解決支援に従事。グローバルレベルでのIT・業務変革に関する案件実績も豊富。また、テクノロジー領域におけるインサイトの発信や、CIO Programの企画・推進リードを担当 関連サービス ・テクノロジーストラテジー・トランスフォーメーション >> オンラインフォームよりお問い合わせ