Posted: 06 Jun. 2024 3 min. read

量子分野で海外の先端技術を共同実証で使いこなす重要性

デロイト トーマツの量子プロジェクトチームが果たす役割や、国内量子産業において海外の先端テクノロジーをいち早く使いこなし、その上で固有のノウハウを築いていく必要性について前回の記事で述べた。それは結果として資金調達やユースケース開拓、産業支援に繋がり、さらには日本の競争力へと繋がっていく。今回はその具体的なケースとして海外の先端テクノロジーを化学メーカーと共同実証した事例をご紹介したい。



量子ソフトウェアスタートアップClassiq Technologiesとの共同実証実験を行った理由

Classiq Technologies(以下、Classiq社)はイスラエルの量子ソフトウェアプラットフォーム企業である。同社の強みはハードウェアに依存しないソフトウェア開発や、量子アルゴリズムの圧縮にある。創業は2020年、創業4年で6300万ドルを調達(シリーズB)している。

量子アルゴリズムとは、量子コンピューター上で実行される特定の計算問題を説くための手順や手法を指す。

量子コンピューターも今、皆さんが使っているパソコンなどのコンピューター同様にハードウェア上で走らせるソフトウェア(計算手順=アルゴリズム)の善し悪しが計算性能を大きく左右する。Classiq社はそれを見越し、ソフトウェアのプラットフォーム開発を進めている。いわば量子コンピューターにおけるマイクロソフトやグーグル、アップルのようなプレイヤーになる可能性を秘めている。

このClassiq社の量子アルゴリズム(計算手順)の圧縮は、計算時間の短縮化による高速化と得られる解の高精度化を実現することで、量子コンピューターの実用化時期を大幅に早められる可能性がある。なぜか?

量子ビットは外部環境によって「誤り」が発生しやすいため、アルゴリズムが長いほどノイズの影響を受けやすく、誤りのリスクも高まる。そのため、アルゴリズムを圧縮できれば誤りリスクが削減できる。つまり、誤りの大きい、いわば未熟な量子コンピューターでも実利用ができるようになる可能性がある。

当然のことながら誤りそのものを検出し訂正する方法(量子の「誤り訂正」)も求められている。現在、これらの開発が各国で進められており、ここ数年で誤り訂正機能を持った量子コンピューターの実証事例が次々と出てきている。誤り訂正が実現できるようになると、扱えるアルゴリズムはこれまでより一層長いアルゴリズムになる。この状況下で、アルゴリズムを圧縮できれば計算時間を削減できる。

つまりアルゴリズムの圧縮によって、求める解を短期間かつ高精度で得られるようになるというわけだ。このことで量子コンピューターの実用化は進み、さらに普及していけば行くほど、このニーズは高まっていくだろう。

では、同社によって、アルゴリズムはどのくらい圧縮できるのか?デロイト トーマツと化学メーカーが材料開発のユースケースで量子アルゴリズム圧縮を実施したところ、ケースによっては約90%の量子アルゴリズム圧縮が可能になった。一例ではあるが、こうした海外の先端テクノロジーを共同実証で実際に使ってみることで新しい使い方や将来像を描けるのではないだろうか。

出所:Classiq Technologiesとデロイトによる共同実証実験結果(化学計算に使われる量子アルゴリズムQPEの圧縮効率の実証結果*)*量子アルゴリズムはIBM Kyotoの実機をターゲットに生成し、比較対象としてはqiskitを用いた。QPEは誤り訂正量子コンピューターで量子化学計算を行う際の有力アルゴリズムとして知られる。実証はデロイト トーマツ グループのITスペシャリスト集団であるデロイト トーマツ ノード合同会社(D.Node)の量子チームと共同で実施した。



 

共同実証だけでなく論文発表なども行い、量子産業振興を目指す

このような未来を見据えた取り組みができるのは、私たちデロイト トーマツの量子プロジェクトチームがグローバルで量子分野のテクノロジー研究やエコシステム形成に取り組んでいるからに他ならない。Classiq社との共同実証もその取り組みの一つであり、他にも複数の共同実証をしているほか、論文発表なども行っている。

ここまで技術に踏み込むことで、グローバルな広がりと深みを持った量子事業支援が可能になる。量子技術を使ったPoCから、量子技術トレンド調査・ベンチマーク、量子スタートアップへの投資やマッチング、買収、量子事業戦略の・実行支援、量子用途探索、量子コンピュータサプライチェーン分析と言った、量子コンピューターに関わる事業・戦略の立案から実行までを伴走支援していく。

 

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執筆者

寺部雅能
デロイト トーマツ コンサルティング 量子技術統括

自動車系メーカー、総合商社の量子プロジェクトリーダーを経て現職。量子分野において数々の世界初実証や日本で最多件数となる海外スタートアップ投資支援を行い、広いグローバル人脈を保有。国際会議の基調講演やTV等メディア発信も行い量子業界の振興にも貢献。著書「量子コンピュータが変える未来」。
ほか、ベンチャーキャピタル顧問、経済産業省の量子プロジェクトの技術推進委員長、文部科学省の量子人材育成プロジェクトの講師も務める。

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