Posted: 21 Apr. 2020

教育業界におけるデジタルトレンド

スマート教育環境の実現に向けた考察

学校教育×デジタルの潮流

「人に対して必要な資質・能力を育成する」という教育の一つの役割は恒久不変であると考えられる。その一方、急速な技術革新やグローバル化が進む中で私たちの生活は劇的に変化し、個人の価値観、生活スタイル、それらの結果であるあらゆる選択が高度で多様になり、将来を見通すことが難しくなってきている。このような社会において、必要な資質・能力自体も複雑多様なものとなり、教育機関も学生の成長段階に即した個別・最適な教育モデルの提供が望まれている。

デジタル活用はその一助となり得る。だが、学校教育における現状のそれは、校務支援システムをはじめとする教員等の業務をサポート、効率化するデジタル化や、デジタル教科書の導入・普及、タブレットによる理解度確認や反復学習の実施、遠隔授業など教務の充実を図るICT環境整備が中心となっている。これらは「業務効率」、「教務支援」の色合いが強く、「個人特性による学習の最適化」が進んでいるとは言い難い状況であり、また教育現場の特性上、生成されるデータを自由に利活用し、利便性・効率を追求するような事例は見当たらない。これは学校教育における公平性の担保やカリキュラム・教材等の相互依存度が極めて強いことによるものと考えられる。例えば、学習進度が速い1年生が3年生のクラスで授業を受けることはそうない。また理解の速さが異なる生徒も多く存在するが、現在の学校現場では個人の理解度に応じた抜本的な教育の個別化は難しい状況にある。

一方で、ITS(Intelligent Tutoring System/ 知的教育システム)などの活用も進みつつあり、各人の進度に合わせた教育が今後益々展開される可能性がある。特に大学においては、LMS(Learning Management System)の導入により、学習活動を記録する環境が整いつつあり、そこに蓄積されるデータを分析することで、学習者の理解度や特性を把握することが可能になる。

 

補助教育の勃興と多様化

多様な教育へのニーズの拡大は、従来型の学校内教育を補う存在としての「補助教育」の事業を成長させている。それがカバーする領域は幅広く、例えば以下を含む。

  • オンライン英会話やプログラミング教育
  • MOOCs(Massive open online course)での学びを提供するもの
    Coursera、Udemyなど
  • LMS(Learning Management System)
    manabaやDoceboなど
  • 学校教育へのエンゲージメント向上を支援するもの
    Top Hatやnearpodなど
  • 「次世代の学校」
    Quad Learningやaltschoolなど

いわゆる“EdTech”企業が教育を取り巻くサプライチェーンの一部もしくは複数をテクノロジーにより実装している。都市のスマート化に連動し、学びの現場においてより柔軟な変化が想定されるのはこの分野であろう。これらがより浸透することにより、学校に通いつつも好きな時間に好きな科目を学ぶことが容易となり、正規課程にこだわりさえしなければ学習効果・効率を学習者自身でも高めることが期待できる。

今後、学外での学びを所与とした学内でのカリキュラム編成により、機能的に開かれた学校となることも想定される。また、現時点では学内データの蓄積と学外の補助教育等で得られたデータの連携が活発に行われているとはいえないものの、データ連携による学びの可能性も広がると考えられる。生徒グループの学習履歴ビッグデータを分析することで学習上のつまづきポイントを予測するような試みもあるが、それに対して個性重視の教育の観点から反対の声があがる等、データの利活用に向けては教育領域固有の制約もある。

 

学校とまちの協働可能性

大学等の高等教育機関では顕著な例であるが、キャンパスは、学生寮などの住居、保健室などのヘルスケア、キャンパス・シャトルといった交通など、小さなまちとしての機能を持つことが多い。

また昨今の大学等の置かれた環境は厳しく、18歳人口の減少、グローバル競争、政府・行政からの補助金等の減少など変革が求められている。より包括的な機能を提供することで学生や教職員のみならず市民をも引き付け、関与させる活動体であることが望ましい。その中で、まちの機能と学校の機能の重複を避け、効率的・効果的な学校運営に努める事例も海外大学を中心に出てきている。

キャンパスそのものをまちとして運営するとき、そのスマート化に伴い、学校もテクノロジーによる価値の最大化を享受できるようになることが期待される。例えば、オーストラリアの大学では、学生や市民の図書等の貸出データを管理し貸出トレンドに合わせて大学のエクステンションコースの案内などを行う取り組みがある。このような事例は日本においても増えることが予想され、まちの外部機関との機能的連携によりシナジーを生み出す取り組みは拡がるだろう。

 

スマートな教育環境の実現に向けて

学習者やそのステークホルダーなど教育に関わる者のニーズは変化し続ける中、それに応えられるだけの技術は発展を遂げている。一方、既存の学校中心の学習スタイルを根本的に変革するようなテクノロジーの活用は、効率性の観点だけで進むものではない。学校やEdTechのような新たな枠組みでの教育、また都市の機能とのコラボレーションを通じ、限られたリソースの中でスマートな教育環境の実現への取り組みが求められる。

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執筆者

吉田 圭造/Keizo Yoshida

吉田 圭造/Keizo Yoshida

有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー