Posted: 12 Nov. 2020 5 min. read

LGBTという言葉がなくなる日を目指して

シリーズ : Diversity, Equity & Inclusion

LGBTは「目に見えないダイバーシティ」である

2020年11月11日、デロイトトーマツグループは、企業におけるLGBTへの取組みを評価するPRIDE指標(※1)にて最高位の「ゴールド」を、2018年から3年連続で獲得した。

私が当グループに入社したのは今から10年以上前。当事者である私ですらLGBTという言葉を知らない状況だった。LGBTが「目に見えないダイバーシティ」であり、調査によっては「11人に1人がLGBT当事者である」という統計結果があることなど、当時の私には知る由もなかった。

<女性は女性らしく、男性と恋愛や結婚をし、子どもを産み育て、家庭を守ることが大きな役割。男性は男性らしく、女性と恋愛や結婚をし、家族を養うためにお金を稼ぐことが大きな役割>という価値観が当然なものとして、確かに存在していた。そして、その価値観に乗れない人間は異質な存在であり、トランスジェンダー(※2)である私は、その異質な存在そのものだった。

トランスジェンダーから「本来の自分」へのトランジション

10年以上前のあの頃、トランスジェンダーという“異質な存在”であることを「オープンにして働く」という選択肢はなかった。オールジェンダートイレも、健康診断の際に配慮してくれる病院も、通称名の使用も、人事部門にそれらの配慮・サポートを相談するという発想もなかった。そのため、カラダの性で周囲に認識され、本当の自分の性(=ココロの性)と異なる性で生きていくことは、私にとって「本当の自分を殺してひたすら耐えて生きていくこと」であったが、「仕方がない」ことだった。

しかし、「仕方がない」と働いた10年の間に溜まっていった「自分を偽ること」への苦しみがあふれ出た瞬間、私は悩みに悩んでカミングアウトをし、トランジション(※3)を経て本当の自分として社会に存在することを決めた。それが今から3年前のこと。

本当の自分として社会に存在できるようになって、初めて、偽りの自分で社会に存在することがいかに負荷になっていたかに気づいた。偽りの自分にさらに嘘を重ね、その嘘を成立させるために常に神経を使い、就業時間中も仕事に100%集中することができていなかった。偽る必要なく本当の自分で存在することで「偽らなくていい」という精神的な安心を得るとともに、嘘に神経を使う必要がなくなり、仕事に集中することができてパフォーマンスが改善した。そして、何より本当の自分でいられる、この空間をとても楽しいと思えるようになった。

この感覚が、私がLGBT推進を取り組む原動力になっている。私がカミングアウトをした3年前は当グループもLGBT対応をこれから始めるという段階だったが、決死の覚悟で行った(当グループ内では)前例のないトランジションについても会社のサポートがあった。また、その後もグループ一丸となって「誰もが自分であることに誇りをもって自分らしく働ける職場環境作り」を目指して、LGBT推進活動に取り組んできた。誰もが自分を偽ることなく、本当の自分で、プロフェッショナルとして当グループで、社会で活躍してほしいという想いのもとに。

職場環境と同時に、私が何よりも実現したかったことは、1人でも多くの苦しんでいる当事者に「自分であることに誇りをもって、自分らしく働くことができる環境がある」ということを知ってもらうことだった。

そのためにも、実際に自分らしく活躍している当グループのLGBT当事者や彼らをサポートするメンバー、それぞれの想いを1人でも多くの当事者に届けたいと考え、メンバーの声を載せたブロウシュアを作り上げた。嬉しいことに、それを受け取って想いに共感してくれた何人ものLGBT当事者が実際にその後入社し活躍している。

SOGI/セクシャリティの多様性が「あたりまえ」になる未来へ向かって

この3年間で、当グループは確実に変化した。オールジェンダートイレの設置や福利厚生面で配偶者に同性パートナーを含める規程改定などのハード面と、LGBT相談窓口の設置や適切に相談対応が行えるよう管理職を中心とした相談対応者研修の実施などのソフト面を整え、あらゆる角度からより現場の声や課題を反映させた施策を立案・実行している。また、「1人じゃない」ということを知ってもらうために形成したアライネットワーク(※4)には、現在150名近いメンバーが登録し、様々な活動を行っている。

セクシャリティを誰に打ち明け、どのように生きるかは個人の意思によるものであり、人それぞれの選択がある。だから、カミングアウトをすることが正しいわけでもなく、カミングアウトはしなければいけないものでもない。しかし大切なのは、LGBT当事者が「本当の自分」で生きたいと思ったときに、差別や偏見といった壁で苦しむことがなく、プロフェッショナルとしての能力を100%発揮できる環境  が整備されることではないだろうか。

地域や世代の垣根を超えたLGBTへの理解啓発や、社外のステークホルダーと連携した「社会全体の変革」まで、向き合わなければならない課題や取り組むべき施策はまだまだ山積している。しかし、私たちが目指す「すべてのメンバーが、ありのままの自分で輝ける場所」を目指して、一人ひとりの声に耳を傾けながら課題に向き合い、取り組んでいきたい。そして、この10年で「あの頃、LGBTという言葉を知っている人は、日本にはほとんどいなかった」と、“過去形”で語ることができるようになったように、いつか「LGBTという言葉がかつて存在したらしい」と語ることができる将来が来ることを願っている。

脚注

(※1)「企業等の枠組みを超えてLGBTが働きやすい職場づくりを日本で実現する」という目的を掲げる任意団体「work with Pride」が、職場におけるセクシュアル・マイノリティへの取組みを評価するものとして2016年に制定した指標。

(※2)トランスジェンダー:生まれたときの身体的特徴に基づいて割り当てられた性(カラダの性)と自認する性(ココロの性)に違和を感じる人

(※3)トランジション:カラダの性や社会において認識されている性を、ココロの性に「移行」させること。本来の自分の性を取り戻すこと

(※4)アライ(Ally):LGBTについて理解をし、LGBTの人たちの活動を支持し、支援している人たちのこと

 

本記事はデロイト トーマツ グループDiversity & Inclusionチーム所属メンバーによる寄稿。デロイト トーマツ グループにおけるLGBT施策についてはこちらよりご覧ください。

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執筆者

Diversity, Equity & Inclusion チーム

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デロイト トーマツ グループ

「Diversity, Equity, & Inclusion(DEI)」を自社と顧客の成長を牽引し、社会変革へつなげていくための重要経営戦略の一つとして位置付けているデロイト トーマツ グループにおいて、様々な「違い」を強みとするための施策を、経営層と一体となり幅広く立案・実行しているプロフェッショナルチーム。インクルーシブな職場環境の醸成はもちろん、社会全体のインクルージョン推進強化に向けて様々な取り組みや発信を実行。 関連するリンク デロイト トーマツ グループのDiversity, Equity & Inclusion