Posted: 02 Mar. 2022

【前編】国際男性デーに考える「DEIで成果を最大化する、これからのチームマネジメント」

ゲスト:株式会社uni‘que CEO 若宮 和男 氏 2021年11月19日開催

開催レポート(前編)

国際男性デー(*1)当日である2021年11月19日に、男性視点でDEI(Diversity, Equity & Inclusion)推進を考える社内イベントを開催。株式会社uni‘que  CEO 若宮 和男 氏をゲストとしてお招きし、栗原 健輔(有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー)・東 美津子(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー)と共に、「多様な人材が活躍できる環境づくりに向けて、私たちがどう行動していく必要があるのか?」というトピックについて、男性からの視点を中心に議論を深めました。

※所属・肩書・氏名などはイベント開催当時のものです。また、レポート後編はこちらからお読みいただけます。

(*1)国際男性デー:毎年11月19日に開催されている、国際的なイベントデー。男性の心身の健康と幸福、ジェンダーの平等を促す目的で1999年にトリニダード・トバゴで始まったものであり、近年では日本でもイベントが開催されるなど注目が集まっている

 

若宮 和男 氏 プロフィール

 

 

パネルディスカッション

※画像上から、東 美津子、若宮 和男氏、栗原 健輔

(以下、ディスカッション概要 ※一部抜粋)

 

栗原:本日のテーマは【DEI(Diversity, Equity & Inclusion)】ですが、一般的には「DEIは女性のためにやっている」というイメージがまだ残っていると感じます。本日のイベントでは、DEIを自分事とした上で「どのようなアクションがDEI推進に繋がるのか」ということについて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

若宮さんは女性主体の事業をつくるスタートアップ・株式会社uni'queを創業されましたが、この事業をスタートしたきっかけは何でしょうか。

若宮:女性の起業家創出に本腰をいれたのは、2年ほど前に起業家100人が出演するテレビ番組に参加した際に目にした光景がきっかけのひとつです。撮影の合間に2回程トイレ休憩があったのですが、男子トイレにだけ行列ができていました。通常、女性トイレは並んでいる一方で男性トイレは並んでいないことが多いものですが、その時は女性トイレには誰も並んでおらず、「これは何か、明らかに異常な偏りがある」と感じたことが、現在の女性起業家創出事業の『Your』に繋がっています。

まずは女性の起業家を増やそうと考えていますが、今後は、障がいがある方や外国籍の方など、今の日本ではマイノリティとされていて起業しづらい方の起業も増やして、属性・特性も多様になればいいと考えていますし、そのためにも、時間・場所に縛られない働き方を試行錯誤していきたいと思っています。

栗原:やはり日本は、女性が起業しづらい文化や雰囲気があるのでしょうか。

若宮:徐々に変わってきているとは思いますが、「女性は起業に向いていない」と考えている人が未だにいて、そうした「決めつけ」で女性は不利な環境にあります。また、男性が育児などを一切やらずに女性に押し付けてしまい、女性が望むような働き方ができなかったり、働くこと自体を諦める状況に追い込んでいることがあります。起業における資金調達や人材を得るといった場面でも、男性はすぐに調達できる環境にいける一方で、女性は男性よりも資金調達や人材獲得が難しい部分があり、「起業」という冒険に出る前に武器や仲間を見つける段階で女性はまず事前に「ひと冒険」をしなければならない。そこを解決するため、『Your』(*2)では資金とメンバーを用意して一緒に事業立ち上げをやっています。

(*2)Your:株式会社uni’queによる女性の起業家輩出に特化したインキュベーション事業 

マジョリティの男性が変わることで、組織のスタンダードが変わっていく

東:私には6歳の娘がいるのですが、育休明けにDEI推進活動をスタートしました。育児制度や様々な人が働きやすい環境を整えることは自分のためにもなると感じ、5年ほどコンサルティングと兼務で活動しています。栗原さんは男性ネットワーク(*3)の活動をされていますが、どのようなきっかけで始められたのでしょうか。

(*3)男性ネットワーク:男性の意識改革を促進し、デロイト トーマツ グループ内の DEI を加速させようと集まった有志メンバーによるプロジェクト

栗原:ふたりの娘がいるのですが、共働きの妻とは、家事や育児を週に2~3日ずつきっちり分担しています。お迎え担当の日は、何があっても17時半にパソコンを閉じてお迎えに行かなきゃいけないんです。ミーティング中でも、電話中でも、すみませんと言って帰らなければならない。お迎えをして、ご飯を作って、子どもをお風呂に入れて寝かせてという毎日の中で、これはすごく大変だなと。私も妻も四苦八苦しながらやっているのですが、ふたりとも非常につらいですし、「これで本当にキャリアアップしていけるのか」ということを夜な夜な妻と話しました。話をする中で、働き方改革やDEI推進などにまだまだ課題がたくさんあるということを痛感したんです。何か変えられたら、と思う中で、ある団体の勉強会に参加した際に、「DEI推進は経営戦略だということは皆わかっていると思う。それなのに、なぜ現代の企業活動ではマイノリティである女性に任せているのですか」という衝撃の一言を言われまして、「そりゃ、そうだよな」と。男性・女性の両輪でやるのが一番いいとはもちろん思っていますが、DEIの推進を加速するには、現時点ではマジョリティである男性がしっかりコミットすることが一番ではないかと考え、こういった活動をしています。

若宮:ジェンダーギャップの件でいろいろな取材や企業からの講演依頼などを受けますが、私にご連絡してくださる方はほぼ100%女性でした。先ほど栗原さんがおっしゃっていたとおり、DEI推進はマネジメントに必須になっているにも関わらず、「男性は今、困っていないから」と、困っている側の女性だけが活動しているケースがほとんどなので、栗原さんの活動は先進的だと思います。

東:私はデロイト トーマツ コンサルティングのDEIの問い合わせ担当なのですが、最近は、育児のワーキングプログラムなどについて、男性からの相談が非常に増えてきていると感じます。また、育休やワーキングプログラムを取得した男性がどんどん自身の経験を発信するようになり、その上長も、もうすぐお子さんが生まれるという男性に「育休を取らないの?」と声をかけるようになってきたんですよ。その結果、組織全体でも育休を取得する男性が増えてきました。すると、今まで「自分だけ早く帰って申し訳ないな」と思っていた女性も、物理的にも気持ち的にも非常に楽になっていくんですよね。男性が変わってくると、組織全体のスタンダードが変わっていくのだな、というのを肌で感じています。

若宮:長時間働いたほうが偉いっていう感覚があると、時短勤務者としてはどうしても引け目を感じてしまうことがあると思うんですよね。でもそれ自体が間違っていて、短い時間でバリューを出すほうがもちろんいいですよね。私は「隠れブラック企業」の話をよくするんです。企業自身が「うちはホワイト企業です。社員が働きやすくて十分に能力を発揮してパフォーマンスを出しています」と発信していても、そのしわ寄せが家庭にいっているのだとしたら、これは社会全体で見たらブラック企業なんです。一般的には、社員を搾取して利益を上げている企業が「ブラック企業」と呼ばれますが、オフィスの中だけがホワイトであればよいのではなく、「社会を担う一部として、見えない部分で搾取構造を生んでいないか」という視点がこれから大事になると考えています。

 

イノベーションを生むためには、【工場のパラダイム】から【アートのパラダイム】への進化が必要不可欠

栗原:本日のメインテーマは、「DEIで成果を最大化する、これからのチームマネジメント」です。どのようなアクションが必要なのか、お話していきたいと思います。

若宮:私はよく、「価値のパラダイムがすでに変わっているんですよ」という話をします。20世紀は【工場のパラダイム】といって、同じものがたくさん作られるとよかった。そこに違うものがあると不良品だったり事故の元となったりするから、なるべく排除しようということでマニュアル化を進め、一様性が高いほうがパフォーマンスが高いという時代でした。でも、これだけ物も情報も飽和している中だと、「同じ価値」の価値は下落してきていて、他と違う価値をどうやって生んでいくかということを企業でも考えている時代になりました。例えば芸術家はそれまでなかった自分らしい作品をつくったときに評価されますが、誰かが作ったものと同じものを作ったら、物まねとかパクリとか言われて、むしろダメなことですよね。これを【アートのパラダイム】と呼んでいます。

ただ、組織は相変わらず工場のパラダイムです。就職活動になれば、みんなベージュのトレンチコートに黒のリクルートスーツを着て黒の靴やパンプスを履き、整えられた髪型をしています。没個性的な“就活”面接を経たメンバーで新しい価値を生んでいこうとしている。チグハグですよね。また、「男性型の資本主義」というのは、モノポリーゲームのように独占して、自分たちの利益を最大化するために消費を拡大して短期的に業績を上げていくんだ、という短距離走になりがちなのですが、そのしわ寄せを環境や未来に押し付けていたりします。それだともうサステイナブルではないので、「共創」、「寛容」や「長期的視点」が大事になってきます。

これまでの企業は「エクスクルーシビティ」を大事にしてきたと思うんです。契約を結ぶときに「エクスクルーシブな条件でうちだけ特別扱いされたぜ、やったぜ、いい契約を結んだね、ナイス、グッジョブ」って言っていたんですけど、もうそういうことじゃないんですよね。だから、占有や排他ではなく共創的視点として「インクルーシブであること」、DEIが重要なんです。

 

DEIはマイノリティや弱者のためのものではない。「経営やマネジメントの根幹に多様性がある」と真剣に取り組むべき

若宮:DEIはマイノリティや弱者を“助けてあげる“ということではなくて、誰もが搾取や抑圧なく活躍できる組織や社会を目指すものです。エクスクルーシブにやると一部の人は快適で効率的ですが、それにインクルードされない人たちの個の能力が生かされないことになります。それは「下手なマネジメント」です。特に今のVUCAの中では多様性があるとレジリエンスやパフォーマンスが上がりますし、インクルーシブに考えていかなければ企業としてレピュテーションリスクにかかわりますよね。例えば、世の中で優良とされる企業にお勤めのご家族が「私は会社に搾取されている」と言ったら大打撃です。自分たちだけが利益を出して決算発表の時に増収、というだけでは、社会にとって価値があると認められない時代になっているということです。やはり、「経営やマネジメントの根幹に多様性がある」と真剣に取り組むべきと思います。

栗原:「DEI推進は、マイノリティや弱者のためにやっているのではない」というのは本当に大事なメッセージですよね。これが浸透しない限り、マジョリティ側の当事者意識は生まれないですし、DEI推進が「社会の価値、企業の価値」になっていくということを強くアピールしていかないといけないのかなと思います。東さんはいかがでしょうか。

東:デロイトグローバルでも、インクルーシブな文化を持った組織はそうでない組織よりも6倍イノベーティブ、6倍アダプティブ、3倍ハイパフォーミングという分析結果あります。実際、新規事業や組織改善のアイデア出しなどの際には、いろんなバックグラウンドを持った人が集まるとアイデアの深みも広がりも全然違うんですよね。このような経験をして自分事化していくことが必要なんだろうなと思います。

栗原:イノベーションが必要ない組織なんてないと思うので、どの組織にとっても死活問題ですよね。

(後編はこちら

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執筆者

Diversity, Equity & Inclusion チーム

Diversity, Equity & Inclusion チーム

デロイト トーマツ グループ

「Diversity, Equity, & Inclusion(DEI)」を自社と顧客の成長を牽引し、社会変革へつなげていくための重要経営戦略の一つとして位置付けているデロイト トーマツ グループにおいて、様々な「違い」を強みとするための施策を、経営層と一体となり幅広く立案・実行しているプロフェッショナルチーム。インクルーシブな職場環境の醸成はもちろん、社会全体のインクルージョン推進強化に向けて様々な取り組みや発信を実行。 関連するリンク デロイト トーマツ グループのDiversity, Equity & Inclusion