Posted: 26 Dec. 2022 3 min. read

スペースポート(宇宙港)が生み出す価値 Part2

~日本のスペースポートの現在地~

スペースポートの生み出す価値

近年の民間企業による人工衛星打上げ需要増に牽引される形で、人工衛星を打ち上げる場所としての宇宙港(スペースポート)[1]も様々な形で各地にて建設されている。このスペースポートの価値は、従来的な人工衛星の軌道投入や商業化が加速する有人宇宙飛行、将来的には高速二地点間輸送などの打上げ機の“打ち上げ場所”としての利用価値(0次価値)のみならず、スペースポートを支える関連サービスとして宇宙機器の製造整備、商業施設、宿泊施設、交通、観光等の多くの”関連産業・経済的効果を呼び込む”ことが可能である(1次価値)。

さらに、スペースポートを中心に集まった企業・人材・情報・サービス等によって、地域の基盤産業である農業、漁業、林業、エネルギー、観光、飲食・小売等の高度化を促進することが期待できる(2次価値)。スペースポートがもたらす先端技術・サービス等によって地域全体の近代化・スマートシティ化に大きく寄与するのである。スペースポートの真の価値は単なる打上げ場に留まらない。

本稿では、スペースポートが実現する1次価値について、建設途中を含めた5つの国内スペースポートの現状をマクロ的に分析する。さらにその分析結果を踏まえて、次回の連載では、ミクロレベル(個人)でどのような価値を享受するのかを、シナリオ分析(ペルソナ)を用いて分析を試みる。

※本連載の分析は、あくまで公表情報等からの定量・定性情報に基づいた分析であるため、必ずしも各スペースポート周辺環境の実態を正確に表現しているとは限りません。

本稿の調査分析の前提条件と手法

マクロ分析の前提条件

  • 分析対象:種子島宇宙センター、北海道スペースポート、スペースポート紀伊、スペースポート大分、下地島宇宙港
  • 分析時期:2022年5月時点
  • 情報ソース:各種公開情報(詳細は図表出典参照)及びインタビュー調査

マクロ分析の手法

  • スペースポートの価値評価基準として考えられる「基礎情報(地域人口、観光客数、地域総生産等)」「インフラ(人のアクセシビリティ(時間)、宿泊施設数、MICE規模[2])」「商業(商業施設、グルメエリアへの距離、観光レジャー施設)」の3つの観点から現状を洗い出し(定量)、さらに各地域の社会経済に精通したコンサルタントへのインタビュー調査(定性)をもとに各スペースポート周辺環境の把握及び比較分析を行った。

国内スペースポートの価値分析(現時点)

本稿では伝統的な種子島宇宙センターや内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)のほか、建設中の北海道スペースポート(北海道大樹町)、スペースポート紀伊(和歌山県串本町)、スペースポート大分(大分県国東市)、下地島宇宙港(沖縄県宮古島市)の5つのスペースポートを対象に、各スペースポートをとりまく周辺環境の現状分析を実施した(図1)。さらに、スペースポートが有する本来の価値や顧客体験といった無形の価値も見込むために、デロイト トーマツ グループに所属する各地域の社会経済に精通した8名のコンサルタントにインタビュー調査を行い、定量データだけでは見えてこない価値や可能性についても追加的に検討した。

スペースポートの現状比較

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スペースポート内の施設について、スペースポート大分と下地島宇宙港は、既存の大分空港とみやこ下地島空港にあるレストランやカフェ、ショップ(免税店を含む)、展望デッキ等が利用できることが想定される。これら既存空港では国際線も運行されていることから外貨両替も可能である。特に、大分空港は、会議室やラウンジを有し、既存の利用者数が多いために受け入れのキャパシティが大きい。種子島や大樹町には宇宙科学技術館や大樹町宇宙交流センターSORAがビジターセンターとして併設されており、特に種子島の宇宙科学技術館には技術の展示だけでなく食堂やおみやげショップが備えられている。このようなスペースポート内の施設の充実は、射場関係者や見学者のCX(顧客体験)を向上させ、ヒトやカネを呼び込むことが期待できる。

地域活性化を目指すスペースポートにとっては、施設内だけでなく、周辺の整備も重要である。発射準備の関係者や見学者の宿泊施設や商業施設、交通インフラは特に重要である。また、ロケット等の打ち上げは早朝であることが多いため、打ち上げ後でも宇宙ファンというほどではない一般の見学者や家族連れも楽しめるような観光・レジャー施設やレクリエーションも大切な要素である。

交通インフラについて、スペースポート大分及び下地島宇宙港へは、大分空港とみやこ下地島空港を通して、東京、関西、名古屋だけでなく、国際線により韓国や中国から直接アクセスすることが可能である。両港は、バスを使って最寄り駅または市内から1時間以内に到着することができる。一方、大樹町、串本町、種子島の射場は現時点では直接アクセスできる電車やバスなど公共交通機関が整備されておらず、車での移動が必要となる。射場への公共交通機関によるアクセスは、射場関係者や個人見学者、特に海外からの訪問者にとっては重要な要件となり、今後、スペースポートを盛り上げるためには整備が必要となるであろう。

宿泊施設については、ロケットの発射準備には数日を要し、打ち上げは早朝になることが多く、延期もあり得ることから、スペースポート周辺に宿泊施設を整備することが必要である。スペースポートのある市町村の観光サイトに掲載されている宿泊施設数を確認すると、リゾートとして有名な宮古島は宿泊施設が60件と最も多い。続いて、南種子町(35件)、串本町(33件)、国東市(21件)、大樹町(9件)となる。

商業施設については、スーパーや日用雑貨店、コンビニは打ち上げ準備に係る滞在者や早朝から参加する見学者などに必需品や食料品を提供する。また、大型のショッピングモールは観光資源となり得る。このような商業施設について、スペースポート大分と下地島宇宙港、スペースポート紀伊、種子島宇宙センターでは10km圏内の近隣にスーパーやコンビニがあり、下地島と串本町周辺には20~30店舗規模の中規模ショッピングモール、大樹町や大分空港から1時間ほどの場所には中・大型ショッピングモールがある。

観光・レジャーやレクリエーションについては、スペースポート大分周辺には、別府温泉のほか、スポーツアミューズメント施設や遊園地などがある。下地島や種子島、串本町周辺には、日本でも有数のビーチがあり、海水浴をはじめスキューバダイビングや釣りなど幅広いマリンアクティビティを楽しむことができる。大樹町はスキー場やキャンプ場を有しており、山のアウトドアを楽しむことができる。また、文化財や天然記念物は各スペースポート周辺に存在するため、保護しながら適切に活用することで人を呼び込む材料ともなり得る。

このように、今後、スペースポート内及び周辺の環境は、打ち上げ需要に牽引されたヒト・モノの往来増で整備が加速されることが期待される。次稿では、より多くの人の関心を呼び込んで多数の企業や個人がスペースポートの未来を共創できる視点を生み出すため、スペースポートの利用者がどのようなスペースポート体験をするのか、シナリオ分析(ペルソナ)を用いて分析してみたい。

(出典)
[1] 本記事では射場、宇宙港、スペースポートをいずれも同一の概念として使用している(概念詳細は「スペースポート(宇宙港)が生み出す価値」( 2021年11月19日)参照のこと
[2]MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)を指す。
[3] 令和3年度の住民基本台帳より、宇宙港所在の市町及びその隣接する市町の住民人口から算出。
種子島宇宙センター:鹿児島県南種子町、中種子町、西之表市
北海道スペースポート:北海道大樹町、広尾町、えりも町、様似町、浦河町
スペースポート紀伊:和歌山県串本町、古座川町、那智勝浦町、すさみ町
スペースポート大分:大分県国東市、豊後高田市、杵築市
下地島宇宙港:沖縄県宮古島市
[4] 下記サイトより掲載(最終アクセス2022年5月31日)
種子島宇宙センター:https://fanfun.jaxa.jp/visit/tanegashima/access.html
北海道スペースポート :https://fanfun.jaxa.jp/visit/taiki/access.html
スペースポート紀伊:https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000036412.pdf
[5] 2022年5月時点のGoogle マップのルート検索結果より掲載。また、グルメエリアとはその地域の飲食店が集まるエリアをさす。
[6] 下記サイトより掲載(最終アクセス2022年5月31日)
種子島宇宙センター:http://www.town.minamitane.kagoshima.jp/sightseeing/accommodation.html
北海道スペースポート:https://visit-taiki.hokkaido.jp/sp_list.php?c=stay
スペースポート紀伊:https://kankou-kushimoto.jp/stay
スペースポート大分:https://www.city.kunisaki.oita.jp/soshiki/kanko/yumekikou-shukuhaku.html
下地島宇宙港:https://miyako-guide.net/spots-cat/stay/
[7] 下記より掲載(最終アクセス2022年5月31日)
種子島宇宙センター:鹿児島県「令和2年観光統計」
北海道スペースポート:十勝総合振興局 「令和2年観光入込客数集計表」
スペースポート紀伊:和歌山県 「令和2年観光客動態調査(速報値)」
スペースポート大分:国東市「第2次総合計画後期基本計画 令和2年度施策進捗状況、検証・評価レビュー」
下地島宇宙港:宮古島市「空路・海路別入域観光客数」
[8] 各都市の市町村経済計算から掲載(最終アクセス2022年5月31日)
種子島宇宙センター:https://www.pref.kagoshima.jp/af08/toukei/documents/90765_20211116155356-1.pdf
北海道スペースポート:https://www.tokachi.pref.hokkaido.lg.jp/fs/2/9/0/8/4/8/1/_/R2_syuukei.pdf
スペースポート紀伊:https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020300/sityouson/index_d/fil/R1gaiyou.pdf
スペースポート大分:https://www.pref.oita.jp/site/toukei/shichosonmin.html
下地島宇宙港:https://www.pref.okinawa.jp/toukeika/ctv/ctv_index.html
[9] SCとはショッピングセンターの略

執筆者

𦚰本 拓哉/Takuya Wakimoto
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
 

中村 祥代/Sachiyo Nakamura
有限責任監査法人トーマツ

アフリカやアジア、島嶼国、中南米等の発展途上国における日本政府のODA事業や企業の進出展開支援、オープン・イノベーションの促進のほか、国内の宇宙分野人材育成支援に従事。特に、航空宇宙やデジタル技術を活用した途上国支援を強みとする。

※所属などの情報は執筆当時のものです。

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