“機会の創出”でテクノロジー領域の女性活躍拡大を目指す「Women in Tech」

自動車のシートベルトはなぜ女性や妊婦を考慮に入れずに設計されていたのか?

テクノロジーとSTEM(科学、技術、工学、数学)分野で活躍する女性を増やす取り組みは各所で行われている。イノベーションの恩恵を社会に偏りなく広げるには、女性をはじめとするダイバーシティを考慮に入れたSTEM人材育成が不可欠だ。例えば、以前は、車のシートやシートベルトは男性の体型を元に設計されていたと言われており、女性にフィットしないケースがあった(妊婦にいたっては考慮されていなかったことは多くの人が想像できるだろう)。

同じように体調管理アプリは生理周期など女性特有の数値も本来考慮にいれるべきだが、開発者が男性だけだと多様な視点を取り込むことは難しい。つまり、本来ビジネスで成果を上げようとする点でも多様性の視点は不可欠なのだ。しかし、テクノロジー領域において、いまだジェンダーバイアスは根強い。

デロイト トーマツが推進する「Women in Tech」

テクノロジー領域において、女性活躍を推進するデロイト トーマツの取り組みが「Women in Tech」だ。デロイト トーマツのCTO(Chief Talent Officer)でDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)リーダーの大久保理絵が率いるチームは男女40人程度が参加し、社内外で啓発活動を行っている。Women in Techは元々デロイト グローバルで始まった取り組みだが、日本でも活動に注力すべきだと日本独自のチームを 2021年6月に発足した。

デロイト トーマツ グループ 執行役員 CTO(Chief Talent Officer)、DEIリーダー / 大久保 理絵
長年にわたりオペレーション改革コンサルティングに従事。業務、組織、ITの総合的なオペレーティングモデルの設計を強みとし、ロボティックプロセスオートメーション、シェアードサービスセンター構築、アウトソーシングアドバイザリーを含む豊富なサービス提供を幅広い業界で行っている。デロイト トーマツ コンサルティングのエシックスサブリーダー、DEIリーダーを歴任し、2021年に、デロイト トーマツ グループのDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)リーダー、2022年にCTO(Chief Talent Officer)に就任。

「私も含めデロイト トーマツでは、多くのメンバーがテクノロジー関連の仕事をしています。しかし、その全員がテック系のバックグラウンドを持っているかというとそうではありません。ただ、企業や社会の課題を解決するためには、テクノロジーが必要になってくる。何もテクノロジーは難しいことではない、課題を解決するためのひとつのツールなのだと伝えていくことで、女性たちにテクノロジーを面白がってもらいたい。そのための“機会の創出”をしています」

発足のタイミングで大久保は、自分たちと同じような考えや取り組みをしている組織や団体を探したという。そこで出会ったのが、今回の対談相手でもある特定非営利活動法人(NPO法人)WaffleのCo-Founderである田中沙弥果氏だ。

2022年7月にはWaffleが主催する女子中高生及びジェンダーマイノリティ向けコーディングワークショップ「Waffle Camp」でデロイト トーマツのコンサルタントによる座談会が行われた。テーマは「テクノロジー分野には、どんな仕事があって、どんな人が働いているかを知ろう!」だ。

これも大久保の話す「機会の創出」だ。中高生にとって社会にどのような仕事があるかを知る機会は少ない。テクノロジーに興味が持てなくても、社会や企業の困りごとを解決する仕事に興味を持つ人は多い。その解決にテクノロジーが必要であれば、テクノロジーに対する距離感はもっと縮まる。

特定非営利活動法人Waffle Co-Founder / 田中 沙弥果氏
2017年NPO法人みんなのコードに入職。文部科学省後援事業に従事したほか、全国20都市以上の教育委員会と連携し学校の先生がプログラミング教育を実施するために事業を推進。2017年から女子およびジェンダーマイノリティの中高生にIT教育の機会を提供開始。2019年にIT分野のジェンダーギャップの解消を目指し一般社団法人Waffle(現NPO法人Waffle)を設立。2020年Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満30人」受賞。内閣府 若者円卓会議 委員。経産省「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」有識者。

実際の座談会を通じて、Waffleの田中氏も「発見の多い座談会でした」と絶賛する。「小学生のころは、男の子も女の子も分け隔てなくプログラムを楽しんだりしているのに、中学生になると離れていってしまうケースが多い。このタイミングで、普段周囲にいない大人たちの話を聞けるのは本当に貴重な機会。多様性ある選択肢を見せてくれたと感じていますし、確実に未来の職業選択の解像度があがる。中高生だけでなく、一緒に参加したメンターの大学生の子たちも興奮していました」。

Waffleは難しく捉えられがちなテクノロジーを、お菓子のワッフルのようにポップに変えていき、女性の可能性を解き放ち、ともに世界に影響を与えることを目指している。日本のジェンダーギャップ指数は156カ国中120位(世界経済フォーラム:2021年)と低く、IT・STEM分野でも同様だ。女性のIT人材が増えれば、80万人も不足しているといわれるIT人材不足が解消されるとも言われている。

「前職で小学生にプログラミングの出前授業を行ったところ参加者数に男女差はなかった。それが中学生になると20:1で女子が少なくなったんです。例えば、学校の授業で理数系の先生が女性の場合、「自分は理系タイプだと思う」という女子生徒の割合は11%もあがるという。女性がテクノロジー分野に進出していけば、それだけ興味を持ってくれる女性が増える可能性が広がり、機会の創出につながります」と田中氏は話す。

採用視点から、社会課題解決視点へワークショップを通じて推進

「Women in Techが発足したきっかけには、社内の女性活躍推進や採用の視点がありました。デロイト トーマツにおいてクライアントの課題解決をしていく上でテクノロジーは外せません。テクノロジー人材は必要ですが、そもそも人が少ないし、他社と奪い合いになってしまう。それなら、採用を一度忘れて、マーケットそのものを変えていこうと考えました」
採用という課題から一度離れることで、今まで見えていなかったものが見えてくる。大久保はそう考えた。

「マーケットチェンジが起きれば、結果としてデロイト トーマツ グループにとってもプラスになる。だから、まずはデロイト トーマツとそれ以外のような境界線を引かず、真っ直ぐに人を見るような仕組み作りを心がけました」
大久保らチームは、Waffleだけでなく、産官学の様々な有識者にヒアリングに行ったという。

「理系は難しいというイメージがあり、敬遠されがちですが、実際は内容がよくわかっていないことが多い。消去法で文系に行く人は男女ともに多い印象を受けました。でも社会に出たら文系理系の区別はない。大学までの区分けで、その後の選択の幅を狭めたくないんです」と大久保は話す。

Women in Techでは、キャリア層と大学生、そして中高生まで範囲を広げてプログラムを提供している。

「大学生向けのプログラム開発のために色々な方にお話を伺うと、テクノロジーが難しいイメージを払拭させるためには、大学生では遅いことを知りました。また、大学の先生方とお話をした際に、中高生にも向けた取り組みをを行うのであれば、私学だけにアプローチせず公立に対してもプログラムは提供すべきとご提案いただき、10月から公立でもプログラムの提供を拡張していきます」

1つの公立が変われば、自治体が変わる。自治体が変われば、集合体の国が変わるかもしれない。Women in Techは拡張を続けている。

「誤解されがちですが、私たちのコンセプトは、いわゆる理工系の女性を増やすことではないのです。歴史を見てもテクノロジーは、人が想起した『こうあったらいいな』に応えるように進化してきた。その『こうあったらいいな』を描ける人材を増やしていくことが重要。その先には理系があっても文系があってもいい」

実際に学生に対するワークショップでは、身の回りで変えたいことがテクノロジーで実現した世界を対話を通じて共に描いていくという。「プロフェッショナルサービス特有のフレームワークを使った情報整理を想像されるかもしれませんが、思考はフレームにはめたくない。思い切り発散し、思い描いたものを1つピックアップし、それを調査し、分析をして提案をプレゼンテーションとして仕上げていきます」

「例えば、給食の味が気に入らないという中学生が『それテクノロジーでどうやって解決する?』という問いに3Dプリンターでお米の粉を使ってお寿司を作るという答えをだしてきた。課題をテクノロジーでどう解決するか?を考えれば、誰もがテクノロジーに興味を持てる。時にはデロイト トーマツの取り組みに協力してくれる企業に依頼して、実際に企業の課題をワークショップに取り入れたりもしています」

中高生を対象とした「未来ワークショップ」の開催の様子。ワークショップでは、「学校で何かひとつ変えられることがあったら何を変えたい?」という問いを起点に、身の回りの課題を深掘り、テクノロジーを活用した解決策を発想した。ワークショップ前後のアンケートによると、参加した生徒は例外なくテクノロジーに対する興味が喚起されるという結果が出ている。

Women in Techも内包するデロイトの「WorldClass」、根底にあるのは利他の心

デロイト は世界全体で、Women in Techも含めて教育(Education)、スキル開発(Skills)、機会創出(Opportunity)の3分野で2030年までに全世界で累計1億人の人々に対してポジティブなインパクトを及ぼすことを目指す WorldClass と呼ばれる取り組みを行っている。デロイト トーマツ グループでも日本国内で2030年までに200万人の人々に対してインパクトを及ぼすことを目標としている。

「デロイト のグローバルCEOが繰り返し言うのは『ただ社会的に正しいだけではない。ビジネスとしても正しいのである』ということ。ビジネスを犠牲にして社会に貢献するのではなく“社会に貢献すること”と“ビジネスとして成長すること”は繋がっているという考え方です。例えば災害が起きた際、私たちは復興支援として大打撃を受けた産業に対してプロジェクトを組成し、解決を目指す取り組みを行う。それは社会の貢献にもつながるし、私たちのビジネスでもノウハウになる。社会課題を解決することがビジネスに繋がる。価値を創ることがビジネスになる。そのことをグループ全員が信じているからこそ、これら取り組みが可能となります」

WorldClassは国連で採択された2030年を達成期限とする「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」のゴール4(質の高い教育をみんなに)及びゴール8(働きがいも経済成長も)にアラインする取り組みだ。デロイトはこの取り組みを通じて経済社会の変化が加速するなかで、より多くの人々が活躍できる社会を目指しているという。

人が輝くための投資と機会創出で社会課題を解決していく

テクノロジー業界を目指す同士がいないことで、興味を持っても諦めてしまうケースもある。学ぶ「機会の創出」をどう提供するのかは重要な要素だ。しかし、企業で行う場合は課題も出てくる。

「デロイト トーマツは自社の利益だけでなく、企業や業界の枠を超え、広い視野で見ている。Women in Techの活動はもちろん、世の中のことをしっかりと考えている企業だと改めて感じました。」と田中氏が話すと、大久保は「デロイト トーマツはこの取り組みに投資枠を付けている。この取り組みが取り扱う社会課題の解決、つまり人が輝くための投資と捉えています」と返した。

オバマ米元大統領は2015年の演説でアメリカがなぜSTEM教育に力を入れているのか?を語る最後に若者だけに依存せず社会も共に動くことの重要性を語っている。

So it’s not enough for us to just lift up young people and say, great job, way to go. You also have to have labs to go to, and you’ve got to be able to support yourself while you’re doing this amazing research. And that involves us as a society making the kind of investments that are going to be necessary for us to continue to innovate for many, many years to come.

ですから、若い人たちを持ち上げて、よくやったと言うだけでは十分ではありません。 研究室がなければなりませんし、素晴らしい研究をしている間、自分自身を支えることができなければならないのです。そのためには、今後何年もイノベーションを続けるために必要な投資を、私たち社会が行う必要があるのです。

大久保の考え方はまさに、社会が行う投資と言えるだろう。同氏は最後にこう説いた。

「人材が輝く場所はデロイト トーマツの中でなくてもいい。ただ、輝く人材はたくさん生まれて欲しい。私たちはまずそこから始める。それが日本の女性が活躍するきっかけになり、ひいては日本の経済社会、そしてデロイト トーマツにもプラスになると考えているからです」

※本ページの情報は掲載時点のものです。

RELATED TOPICS

TOP

RELATED POST