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次世代のエアラインに求められる情報開示

航空業界を取り巻く法規制

国内の航空会社に求められる情報開示について、法規制との関係性から性質別にまとめ、今後の情報開示のあり方について考察します。

はじめに

著書:公認会計士 笹岡 祐也
昨今、移動手段としての航空運送は、加速するグローバル化やLCC(low Cost Carrier)の参入、インターネット普及によるチケット予約の利便性の向上などを背景として、利用者にとっては選択肢が多様化するとともに、より身近で重要なものとなってきました。
一方で、航空輸送は一つのミスやトラブルで大きな事故につながるおそれのある輸送手段であり、他の輸送手段と比べても、より高い安全性や信頼性の確保が求められるという特徴があります。
本稿では、定期航空運送事業を営む国内航空会社が行う情報開示と、それを取り巻く法規制についてまとめ、今後の情報開示のあり方について考察を行うものです。なお、本文中の意見に関わる部分は筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではない点をお断りします。
 

航空業界における情報開示と法規制

航空業界における情報開示には、旅客(利用顧客)、出資者、金融機関、規制当局などの各ステークホルダーに向けて様々なものがありますが、大別して安全性に関わるもの、利便性に関わるもの、その他(事業運営に関わるもの等)の性質に区分されます。
航空会社を規制する主要な法律である航空法の目的(第1条)としても「航空機を運航して営む事業の適正かつ合理的な運営を確保して輸送の安全を確保するとともにその利用者の利便の増進を図ること等により、航空の発達を図り、もつて公共の福祉を増進する」こととされており、特に安全性や利便性が重視されていることがわかります。
安全性と利便性について、開示される情報と主な法規制には、例えば以下のようなものがあります。

情報開示の性質 開示される書類・情報 主な法規制
安全性 安全報告書など 航空法、航空法施行規則など
利便性 航空輸送サービスに係る情報公開「特定本邦航空運送事業者に係る情報」など 航空法、統計法

安全性に関わる情報開示

安全報告書とは、本邦航空運送事業者が作成と公表を義務付けられているものであり、「輸送の安全を確保するために講じた措置及び講じようとする措置その他の国土交通省令で定める輸送の安全にかかわる情報を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録」(航空法第111条の6)とされています。
安全報告書の公表は、毎事業年度の終了後6ヶ月以内に、インターネットの利用その他の適切な方法により行われなければならないとされており、国内航空会社のほとんどは自社のホームページ上で安全報告書を公開しています。
安全報告書では、航空法施行規則第221条の6に掲げられる以下の事項を中心に一定の情報開示が要求されていますが、航空会社によっては国土交通省航空局による安全監査立入検査等の状況、使用する機種や機材数、機齢なども開示されており、内容は多岐に渡ります。
(航空法施行規則第221条の6より抜粋-輸送の安全に関わる情報)
  一  輸送の安全を確保するための事業の運営の基本的な方針に関する事項
  二  輸送の安全を確保するための事業の実施及びその管理の体制に関する事項
  三  法第百十一条の四 の規定による報告(=安全上の支障を及ぼす事態の報告)に関する事項
  四  輸送の安全を確保するために講じた措置及び講じようとする措置に関する事項
安全に関わる体制や方針は、航空会社の主要コストである人件費や整備関連費用にも大きな影響を与えます。整備士やパイロットなどの人材不足が懸念される今後、経営のリスクとしてもより一層の適切な管理が求められる項目です。各航空会社が行う安全確保のための施策や状況を知るうえで、開示の充実が望まれる情報であることはもとより、経営分析においても重要なものとなっていくと考えられます。
また、安全報告書の頁数や発行時期についても以下のようにバラつきがあり、各航空会社の対応は画一的でないことがわかります。

※特定本邦航空事業者(客席数が100又は最大離陸重量が5万kgを超える航空機を使用して行う航空運送事業を経営する事業者をいう)として、国土交通省ホームページにて情報開示される国内航空会社グループ10社の2015年度安全報告書を対象に、筆者が集計。

 各社固有の事情が頁数や発行時期に影響を及ぼしている可能性もありますが、今後の法規制や各航空会社間の競争を通じて、開示内容やその適時性にはより高い水準が求められるようになることも考えられます。
 

国内航空会社の安全報告書の発行時期と頁数
国内航空会社の安全報告書の発行時期と頁数
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利便性に関わる情報開示

航空運送事業においては、安全性に次ぐ重要なものとして、利用者の利便性確保のための情報開示が行われています。
各航空会社においては、航空法により路線やダイヤなどの運航計画及び運賃を国土交通省へ届出することが義務付けられているほか、これらの情報はホームページなどでも開示されています。また、統計法においては、国内線や国際線の輸送実績、燃料消費量などについて、国土交通省へ報告することとなっています。
そして、国土交通省ではこれらの報告内容を取りまとめており、これにより四半期ごとに公開されているのが「航空輸送サービスに係る情報公開」です。
「航空輸送サービスに係る情報公開」では、以下のように、各社サービスの利便性を横並びで比較・分析するうえで有用な情報を得ることができます。

(出所:国土交通省ホームページ「航空輸送サービスに係る情報公開」のうち「特定本邦航空運送事業者に係る情報」より項目を抜粋)
1.航空輸送サービスの比較等に関する情報
 (1)定時運航率(全体の便数に占める出発予定時刻以降15分以内に出発した便数の割合)
 (2)遅延便(出発予定時刻より15分を超えて出発した便)
 (3)欠航便
2.運賃関連情報
 (1)輸送実績
   平均搭乗区間距離、輸送人員数、輸送人キロ、旅客収入
   輸送人員あたり旅客収入、輸送人キロあたり旅客収入
 (2)路線別データ
   旅客数、座席数、座席利用率

例えば、利便性に関わる重要な指標として、各社の運賃設定水準の推移を見てみましょう。
ここでは、運賃設定水準を見る指標の一つとして一般的な、輸送人キロあたり旅客収入で比較してみます。

※2015年3月期における輸送人キロあたり旅客収入の各社水準をそれぞれ100として、2016年3月期及び2017年3月期の各社推移を示した。特定本邦航空事業者として、国土交通省ホームページにて情報開示される国内航空会社11社を対象に筆者集計。

上図から、航空業界はLCC(low Cost Carrier)の参入以降は低価格化傾向にあった一方で、ここ数年では各社とも運賃下げの状況に歯止めがかかっていることがわかります。また一方で、H社などは下げ基調を継続していることがわかります。

現状では、エアラインの利用者にとって運賃設定の水準や定時出発率、定時到着率などの指標は感覚やイメージによるところも大きく、イメージの浸透・定着から各社の業績に影響を与えるようになるまでには一定の時間がかかっていると思われます。しかし、こうした利便性に係る客観的な指標やKPI(Key Performance Indicator)の状況を利用者がいち早く、広く知るようになれば、航空会社を選択する際の判断がよりしやすくなるのではないでしょうか。



国内航空会社輸送人キロあたり旅客収入
国内航空会社の安全報告書の発行時期と頁数
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次世代のエアラインに求められる情報開示

前章までに見てきた通り、今後は、安全性に関わる情報開示の内容やその適時性についてより一層の充実が求められるようになったり、利便性に関わる情報について統計情報として集計・報告されるのみでなく、それらの指標がよりタイムリーに、かつ、利用者の意思決定に即した形で開示されるようになったりすることが考えられます。
また、本稿で取り上げた安全性、利便性に関わる情報開示のほかにも、航空会社では数多くの開示又は報告を行っています。こうしたそれぞれの情報開示を行うなかで、例えば統合的な情報開示を行うなどの工夫が求められるようになる可能性も考えられます。
いずれにしろ、航空業界として各ステークホルダーの期待に応え続けるためには、各エアラインが如何にわかりやすく利便性や安全性の状況について開示するか、議論されていくものと思われます。また、今後のエアラインとっても、これらについて納得感のある説明や情報開示が行えるような事業運営や経営の在り方が望まれるものとなっていくのではないでしょうか。

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