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航空運送業における航空機に係る会計処理のIFRS適用上の主要論点

第1回取得原価の決定

航空機の取得原価の決定におけるIFRS上の論点である、取得原価の算入範囲、PDPの会計処理、借入費用、政府補助金について記述します。

1、はじめに

著者:公認会計士 佐藤 和基

本稿は、航空運送業における航空機の会計処理に関してIFRS適用上の主要論点について検討していくものです。第1回は、自社で航空機を保有する場合の取得原価の決定に焦点を当て、IFRSにおける取扱いを中心に考察します。なお、本文中の意見に関わる部分は私見であり、また会計処理は個別の状況に応じて異なる可能性があり、個別の事実と状況に基づく判断が必要となる点をお断りします。

本稿は、航空会社及び各キャリア区分(FSC:Full Service Carrier、LCC:Low Cost Carrier)ごとに、財務数値から読み取れる航空業界の特徴について考察していきます。なお、本文中の意見に関わる部分は私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではない点をお断りします。

2、背景

航空運送業において、航空機は最も重要な資産であり、航空会社の経営に最も影響を与える要素となります。

民間旅客機としての航空機は1機当たりの購入価額が数十億円から高いものでは数百億円に及び、また発注から納品までには相当の期間を要することから、自社で保有する場合には多額の資金調達が必要となります。購入による調達は企業の財務体質の悪化を招きかねないため、リースによる調達がよく行われます。他方で、リースによる調達は金利負担が大きいことから、大手の航空会社では自社の資金調達力や借入コストを比較考量の上で購入・保有するケースが多く見られます。

航空機の購入に当たっては、航空機の流通市場での取引数が小さいことから一般的に事前に発注が行われ、その発注内容には種々の割引や航空機の追加購入オプション等が盛り込まれます。その割引の中には、取得原価から控除すべきものとそうでないものがあるため、その内容をよく理解して個別の判断により会計処理に反映する必要があります。

 

3、Pre-delivery Paymentsの会計処理

一般的に航空機の製造には数年を要し、その金額は多額になることから航空機の製造業者に前払い(Pre-delivery Payments、以下「PDP」)を行うことが多くあります。前払いの目的は、航空機の購入枠の確保と、航空機メーカーに対する航空機製造資金の一部を提供することと考えられます。

PDPが航空機購入の前払いであり、手付金としての性格を有する場合には、当該支払額を建設仮勘定として会計処理することが適切と考えられます。この会計処理において、外貨建てのPDPの当初認識は、支払われた日における直物為替レートによって換算し、その後換算替えは行いません。

資産化したPDPは、使用可能となった時、すなわち、航空機が納品され、稼動可能となる時まで減価償却を行いません(IAS第16号55項)。

4、借入コストの会計処理

資産計上したPDPが適格資産に該当する場合には(資産の意図した使用が可能になるまでに相当の期間を要する場合)、借入コストを資産化する必要があります(IAS第23号5項、8項)。

IFRSを導入している欧州航空各社の、借入コストの資産化に関する開示例の抜粋は以下の通りです。

企業名

借入コストに係る会計方針

AirFrance

KLM

建設中の航空機及びその他の重要な資産に関する支出額に直接起因する金利費用は資産化され、関連する資産の取得原価に含められる。特定の借入金によって支払われる場合を除き、当期の一般目的借入金に対する平均金利を使用して算定する。
Lufthansa 適格資産の購入または製造の資金調達に密接に関連して発生した借入コストは資産化されている。
British Airways 建設中の航空機および他の適格資産に関する支出額に直接起因する金利費用および関連する外貨換算から生じる為替差損益は資産化され、取得原価に加えられる。
Quantas 航空機等の適格資産の取得、および、その他の重要な有形固定資産の取得、建設あるいは生産に関連する借入コストは、当該資産の取得原価を構成するものとして資産化される。
SAS 事業活動において発生した借入コストは、発生した期間に費用計上される。未だ引き渡されていない航空機の前渡金にかかる金利費用は、適格な製造資源の入手過程の一部として資産計上される。前渡金が支払われた航空機の納入遅延が決定した場合、利息費用の資産化は中断する。資産化された金利費用の償却は、航空機の本質に従い、航空機がサービスに供されたときに開始する。

 各社アニュアルレポート(Air France  KLM社、Lufthansa社、Britgh Airways社については2013年12月期、SAS(Scandinavian Airlines System)社については2013年10月期、Quantas社については2014年6月期)を著者が仮訳

 借入コストには、実効金利法で計算した金利費用、ファイナンス・リースに関する財務費用、外貨建借入金から発生する為替差損益で金利コストに対する修正とみなされる部分を含みます(IAS第23号6項)。

適格資産に該当するPDPを実施した場合、次の条件の全てを満たした時に借入コストの資産化を開始する必要があります(IAS第23号17項)。


1) 当該資産への支出が発生していること
2) 借入コストが発生していること
3) 意図した使用又は販売に向けて資産を整えるために必要な活動に着手していること


借入コストの資産化は、航空機の製造が実質的に完成した時点で終了する必要があります(IAS第23号22項)。また、航空機の開発に必要な部材の不足等によって開発が中断している場合、借入コストの資産化がその期間に中断されることに留意が必要となります(IAS第23号20項)。特に新機種の航空機の製造においては開発が遅延する場合がありますが、その原因は様々であり、開発過程として必要な期間であるか否かを個々に判断する必要があります。

5、取得原価の計算要素

航空機の購入には、航空機の納品に遅延が生じやすいことを考慮した条件が契約上合意されています。例えば、通常の機体、エンジン、内装装置等の購入価格に加えて、大幅な割引やリベート、インセンティブを得ることがあります。

航空機の取得原価は値引き及び割戻しを控除したうえで決定する必要があり、この取得原価の決定は個々のコンポーネントの取得価額の値を決定する出発点となります(IAS第16号16項(a))。

ボリュームディスカウントやローンチカスタマーディスカウント(注)といった一般的な割引については機体やエンジンといったコンポーネントに適切な配分基準によって按分し、取得価額から減額します。

また、航空機の取得原価には直接付随費用を含める必要があります(IAS第16号16項(b)、17項)。航空機に関連する直接付随費用には航空機登録免許税や耐空証明書費用、無線免許費用といったものが該当します。航空機の取得原価には、経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所に置くための費用も含まれるため、例えば、日本の航空会社が海外の航空機メーカーから航空機を取得した場合、海外から日本へ輸送するコスト(燃料費など)を取得原価に含めるものと考えられます。

(注)
航空機メーカーに対して、新たな航空機の製造開発をメーカーに踏み切らせるだけの充分な規模の発注を行い、その新型機製造計画を立ち上げる後ろ盾となる顧客に対する値引きのこと。

6、政府補助金の会計処理

IAS第20号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」では、資産に関する政府補助金の表示について、2つの選択肢を定めています(IAS第20号第24項)。

第1の方法は、補助金を繰延収益に認識し、それを資産の耐用年数にわたって規則的に純損益に認識する方法です(IAS第20号26項)。

第2の方法は、当該資産の帳簿価額を算定する際に、補助金を控除する方法であり、補助金は償却資産の耐用年数にわたって、減価償却費の減額として純損益に認識されます(IAS第20号27項)。

いずれの方法を採用した場合にも、政府補助金の対象となるコストを耐用年数に応じた期間にわたって損益に認識することが要求されるため、受領した補助金をコンポーネントに割り当てる必要が生じます。例えば、機体などの特定のコンポーネントの購入に直接起因するインセンティブとして補助金の提供を受けた場合には、当該コンポーネントに対して補助金を割当てる必要があります。

 

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