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ナレッジ
近年の運送業界の動向と気候変動への対応
1.はじめに
運送業界は、近年におけるBtoCのEC市場の急拡大により、宅配便の取扱個数は右肩上がりに増加しています。その一方で、慢性的な労働力不足が課題と言われていますが、EC市場の拡大が、労働力不足にさらに拍車をかけるおそれがあります。この労働力不足の解消のためにも、運送業界においても機械化やデジタル化を進め、労働生産性の改善を推進することが急務と考えられます。また、気候変動への対応に関する社会的気運が高まっており、運送業界においても温室効果ガス排出量削減への対応が迫られています。以下では、このような環境変化の分析をするとともに、運送業界における今後の展望について考えていきたいと思います。
2.運送業界の現状と今後の展望
(1)EC市場の拡大と運送業界の労働環境
物販系分野のBtoC-EC市場規模は毎年右肩上がりで拡大を続けており、特に2020年においては、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う巣ごもり需要もあり、急拡大しています。またEC市場の拡大により、宅配便の取り扱い個数も右肩上がりで増加を続けています。
(注:EC化率は全ての商取引金額(商取引市場規模)に対する電子商取引市場規模の割合を指す。)
EC市場の拡大に伴い、宅配便の取扱個数も増加傾向にありますが、運送業界の労働時間は他の業界と比較して長く、また慢性的な人手不足の状況が続いており、労働者の不足度合いを示す指数も他の業界と比較して高いことがわかります。2018年6月に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により、時間外労働について罰則付きの上限規制が導入されることとなり、2024年度からはこれがトラックドライバーに対しても適用され時間外労働の上限が年960時間(月平均80時間)に制限されるため、トラックドライバーの需給はさらにひっ迫するおそれがあります。
(注:労働者数について、「不足」と回答した事業所の割合から「過剰」と回答した事業所の割合を差し引いて算出)
(2)運送業界の労働生産性改善に向けた今後の取組み
宅配便の取扱個数が増加傾向にある一方で、営業用トラックの積載効率は低下傾向にあり、40%を下回る水準で推移しています。これは、物流に求められるニーズが多様化していることや時間指定のある貨物が多いことに加え、共同輸配送などの積載効率向上に向けた取り組みに対する荷主の理解を得ることが難しい等の事情から、低迷しているものと考えられます。これに対し、2021年6月に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」では、2025年度に積載効率を50%にすることがKPIとして掲げられています。運送業界の労働生産性を高め、ドライバー不足を解消するためにも、共同輸配送の推進、マッチングやデータ共有システムなどのデジタル化推進などにより、積載効率を向上させていく必要があります。
また、運送業界の労働生産性向上のためには、宅配便の再配達率を低減させることも必要です。EC市場の伸長を受けた置き配の増加やアプリを利用した配達時間の通知等で再配達率は低下傾向にはあるものの、1度目の緊急事態宣言が発出された2020年4月の調査時点からは上昇しており、下げ止まっている状況です。これに対し、総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)では、KPIとして2025年度に再配達率を7.5%まで低減させる目標が掲げられています。宅配便の再配達は、温室効果ガス排出量の増加やドライバー不足を深刻化させる問題であり、宅配ボックスの設置や置き配の推進により、再配達率の低減を図る必要があります。
総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)では、今後取り組むべき施策として、物流DX及び物流標準化が掲げられています。物流DXとは、機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革することと定義されており、幹線輸送の自動化・機械化、庫内作業の自動化・機械化や、AIを活用したオペレーションの効率化、荷物とトラック・倉庫のマッチングシステムなどが主要な取組例として挙げられています。また、物流の機械化・デジタル化を推進するためには、物流を構成する各種要素の標準化が必要不可欠とされており、業務プロセスの標準化や、伝票データ、外装・パレットの標準化等が例示されています。運送業界の労働生産性を高め、また効率化による温室効果ガス排出量削減のためにも、物流の機械化・デジタル化、並びに標準化を推進する必要があると考えられます。
3.気候変動を巡る動向と温室効果ガス排出量削減に向けた取り組み
(1)気候変動を巡る動向
2015年に開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定以降、気候変動への対応は世界的な関心事となっており、2021年に開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)では、2100年の世界平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃以内に抑える努力を追求すること、石炭火力の段階的削減へ努力することなどが合意されました。また我が国においても、温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにすること、2030年度に2013年度比で46%削減することを目指すことが表明されるなど、気候変動に対する取り組みの必要性が高まっています。なお運輸部門については、2013年度における温室効果ガス排出実績224百万トンに対し、2030年度の目標は146百万トンで、削減率の目標は35%とされていますが、削減目標を46%と公表している運送会社もあり、業界の今後の動向にも留意が必要です。
また、2021年の改訂コーポレートガバナンス・コードでは、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の充実を進めるべきとされています。さらに、金融庁は有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示について議論しており、早ければ2023年度にも有価証券報告書における開示が義務付けられる可能性があります。
(2)温室効果ガス排出量削減に向け取り組み
上記のとおり、気候変動は世界的な関心事であり、運送業界においても温室効果ガス排出量の削減目標が定められているため、削減に向けた取り組みを推進していく必要があります。2021年12月に開催された「グリーン物流パートナーシップ会議」の参加者を対象にしたアンケートでは、過半数の回答者が、モーダルシフトや共同輸配送にすでに取り組んでおり、また今後取り組みたいテーマとしては、機械化・自動化や標準化などが挙げられています。これに加え、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの低炭素車両への移行、再生可能エネルギーの導入なども含めて対応を検討し、温室効果ガス排出量削減に向けた取り組みを推進するとともに、サステナビリティ情報の開示の準備を進めていく必要があります。
現在取り組んでいるグリーン物流並びに物流の生産性向上のテーマに関するアンケート結果
取組中のテーマ |
回答者数(複数回答可) |
回答割合 |
---|---|---|
モーダルシフト |
19 |
70.4% |
共同輸配送 |
14 |
51.9% |
輸送ルート・輸送手段の工夫 |
13 |
48.1% |
帰り荷確保(帰り便活用) |
9 |
33.3% |
機械化・自動化 |
6 |
22.2% |
(出所:第20回グリーン物流パートナーシップ会議「参加者アンケート調査結果」より上位を抜粋)
(注1:アンケート参加者は、運輸業、製造業等の27団体。)
今後、取り組みたいグリーン物流並びに物流の生産性向上のテーマに関するアンケート結果
取り組みたいテーマ |
回答者数 |
回答割合 |
---|---|---|
共同輸配送 |
14 |
51.9% |
モーダルシフト |
9 |
33.3% |
輸送ルート・輸送手段の工夫 |
8 |
29.6% |
待ち時間の削減 |
7 |
25.9% |
標準化(パレット、情報システムなど) |
6 |
22.2% |
帰り荷確保(帰り便活用) |
6 |
22.2% |
機械化・自動化 |
6 |
22.2% |
(出所:第20回グリーン物流パートナーシップ会議「参加者アンケート調査結果」より上位を抜粋)
(注1:アンケート参加者は、運輸業、製造業等の27団体。)
以上