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アフターコロナの宿泊業 生き残りへの処方箋(第2回/全2回)

新型コロナウイルスの猛威は、世界中の人々の行動様式に大きな変化をもたらしています。特に日本における緊急事態宣言の発出、海外各国におけるロックダウンおよび水際対策による国境封鎖でヒト・モノの流れが大きく制限されたことにより、特に宿泊業では甚大な影響を受けていることは論を俟ちません。本稿では財務的観点にビジネストランスフォーメーションの観点を加え、アフターコロナにおける宿泊業の新たなビジネスの在り方を説明します。(週刊ホテルレストラン2020.8.28日号掲載)

『9割の事業者は自助努力による反転攻勢は難しい』

第1回においては、マーケットの長期低迷や一部消滅(ビジネスユース・宴会)により、「宿泊事業者全体の17%程度がここ1~2年で財務危機に陥るリスクがある」(当社試算)ことを示したが、それ以外の企業が必ずしも安泰ということではないだろう。Withコロナにおいて早々にRevPARや稼働率をBeforeコロナの水準まで回復させ、安定した財務状況を維持できる事業者は恐らく全体の10%もない。それ以外の多くの宿泊事業者では、遠くない未来において自助努力による財務基盤維持に限界を迎え、外部からの資本調達の必要性が増すと見立てている。
この時点における資本調達は、短期的に企業存続させるという“守りの目的”だけでなく、ニューノーマルの時代へ向けたトランスフォーメーションのための投資余力確保という“攻めの目的”もあることは重要な論点である。資本力のあるトップ層の企業は現状のような厳しい経営環境下のなかでも、「一等立地を狙った水平統合」や「宿泊以外の事業展開」といった攻めの姿勢を取ると思われる。それらの企業と対峙しニューノーマルの時代で勝ち抜くためにも、”反転攻勢に向けた聖域なき資本政策と新たな戦略“の検討が急務であろうと考える。

<宿泊事業者における財務・事業の当社見立て>

 

 

財務状況(例示)    

事業状況(例示)    

  A.トップ層
  (全体の10%前後)

・緊急事態宣言もあり、2020~2021年度は赤字も、2022年度頃には通期黒字化

・コロナ影響により資本・資金の目減りは生じたが純資産比率は20%以上を維持し安定的な財務状況

・コロナによる影響を踏まえ、早期に資金・資本調達を図り、ニューノーマルに向けた新たな投資のための資本余力も充分

 ・観光地頼みではなく宿泊施設そのもので圧倒的な集客力を有する

・ビジネスユース・団体旅行・宴会などに頼らず個人需要だけでも採算が取れる

・足元のRevPARや稼働率はBeforeコロナ並みの水準に回復

B. ミドル層
(全体の70%前後)
 

・コロナ影響で営業利益は2023年度まで赤字続き、資本・資金の目減りに歯止めが利かな

・純資産比率が10%を下回る企業も多くなり、運転資金のための新規借入が必要となる

・中期的にも需要の完全回復が見込めず固定資産の減損が生じ、大幅に資本を毀損する事業者も発生
⇒聖域なき資本政策の検討が急務
 

・Withコロナに合わせたプラン作りや支出抑制などあらゆる手を打つも、客足・客単価ともに激

・客足は旅客の回復カーブに合わせ、2~3年かけて段階的な回復

・宴会、ビジネスユースなどの消滅した一部需要を補うことはできず、慢性的に供給過多が継続
 

C. ボトム層
(全体の17~20%)
 

・2020~2021年度 に債務超過

・コロナにより客足が激減、短期的な需要喚起・支出抑制を図るも効果は限定的

『生き残り策だけでなくニューノーマルにおいて勝ち抜くための再構築戦略を描く』

前段では宿泊事業者が直面する財務・事業の今後の見立てについて述べたが、ここからは今後各事業者が「ボトム層回避の為の生存施策」ならびに「トップ層になる為の再構築戦略』」について論じたい。以下図表にあるとおり、業界の構造的課題である「大幅な売上減&赤字」「数年がかりのマーケット回復&一部消滅」「競争激化・供給過剰」を所与のものとして今後必要な生存施策・再構築戦略についての全体像を示した。

生存施策において既に各事業者が試行錯誤して進める「支出抑制・不採算事業カット」「感染対策徹底」については、Withコロナを前提に引き続き徹底した自助努力が必要であることは言うまでもない。加えて「政府・自治体主導による観光需要喚起策」といった官の施策を呼び水に、各事業者としても「近郊居住者を対象としたプラン造成・キャンペーン施策」「宿泊以外の需要の補足(法人・医療機関への貸し出し)」など限られた需要を取り込むため努力を続けるほかない。一方でこのような各事業者の血のにじむような自助努力だけでは、今回のような『過去最大級のクライシス』を乗り越えられないことは繰り返し述べた。
この後はその資本を梃に各事業者が「ニューノーマルにおいて勝ち抜くための再構築戦略」について筆者の仮説を記述したい。勝ち残るとは、企業を存続させるだけでなく、コロナの影響に関わらず高いADR・OCC・RevPARを維持し、結果的に高い収益性・キャッシュ創出力を持ち、未来へ向けた投資をしながら、永続的に発展する企業となることを指す。これらに共通するのは、限られたパイにおいて「顧客から指名される宿泊事業者」「市場の将来像を読んで先手必勝する宿泊事業者」である。
なお、再構築戦略は、「個として差別化を図るトランスフォーメーション」と「組織として拡張を図るトランスフォーメーション」に大別され、それぞれが連鎖してこそ、相乗効果が表れるものと考えている。

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筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
マネージングディレクター  稲川 直樹
ヴァイスプレジデント 原田 翔太


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