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持続可能なモノづくりの実現に向けた企業の挑戦

From vision to action

主要国における気候変動ムーブメントの概観

2015年11月のCOP21(パリ協定)以降、毎年開催されるCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)や国際的なイベントを契機として、さまざまな気候変動イニシアチブが立ち上がり、相互に連携しながら、世界の気候変動のムーブメントを起こしている。国家レベルでも、2020年9月に、中国・習近平国家主席が、国連総会で「2060年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする」ことを宣言し、2021年4月には米国・バイデン大統領が、「温室効果ガス排出量を2030年までに2005年比で50-52%削減する」目標を宣言した。日本政府においても、2020年10月に「温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする」目標を宣言し、「2050年カーボンニュートラル」がデフォルトとなる社会へとなってきた。

さらに我が国においては、「地球温暖化対策推進法」の改正(2021年)により、カーボンニュートラル化が「基本理念」として法律に位置付けられ、企業には温室効果ガス排出量の開示が求められるようになった。企業の排出量が「誰でも見える」ことから、「全社を挙げたカーボンニュートラル化」が、企業価値を決める時代になり、企業は投資家等から更なるプレッシャーを受け始めている。

2020年後半から、機関投資家が、企業へ具体的な脱炭素目標を要請する動きや、投資先のCO2排出量の実質ゼロを宣言する動きが出てきた。資産運用会社最大手の米国ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、投資先企業トップへ宛てた書簡のなかで、「カーボンニュートラルを実現する事業戦略の開示」を要請した(2021年1月)。

 

世界トップの賛同数を誇る日本企業の取組み

このような要請に対して企業側は、気候変動に対する自社のコミットメントを示し、情報開示を進めている。気候変動をテーマとして企業のガバナンスとリスクマネジメントの高度化、その開示を求めるイニシアチブであるTCFDに賛同している企業は約2300社(2021年7月)、そのうち日本企業の賛同数は440社余りで、賛同数は世界トップを誇る。TCFDでは、TCFDが提言する気候変動に関する具体的なシナリオ分析(例えば、世界平均地上気温変化2℃と4℃の2030年、50年のシナリオを描き、自社の影響を分析)を用いた情報開示が推奨され、企業に対して、公表している財務報告書で具体的な開示を提言している。TCFDは一部の先進国では既に制度化されており、グローバルスタンダードとなりつつある。我が国においても金融庁が、サステナビリティ・TCFDについても言及している「コーポレートガバナンス・コード」を改訂し(2021年6月)し、上場会社は、サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取り組みを開示することを求めている。

 

企業に求められる高い目標水準とスピードと実効性

こうした目標設定・情報開示は、グローバルでビジネスを展開する大手企業だけの話ではない。企業は取引先(サプライヤ)にも目標設定を要請し、温室効果ガスプロトコル・スコープ3(事業者の活動に関連する他社の排出)を目がけた、サプライチェーン全体での脱炭素化を目指し、既に動き出している。

さらに欧州ではこうした目標水準の高さだけではなく、その中身のスピードと実効性もステークホルダーから強く求められ始めた。オランダ・ハーグの地方裁判所は欧州石油最大手の英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルに対し、同社が発表していた「温室効果ガス排出の2050年実質ゼロ、エネルギー1単位あたりのCO2純排出量30年20%、35年45%削減(16年比)」との方針について、具体性・拘束力・スピード感の欠如を指摘し、スコープ3まで含めた削減を要求した。

一方で、いち早く脱炭素化を図ることにより、コスト削減を実現し、競争力強化を狙う動きも見られる。国内大手製造業では、「2030年にグループの事業所のCO2排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル」を目標に掲げ、工場の脱炭素化に10年で600億円超を投じる計画を発表した。エネルギー消費量を正確に把握し、古い設備をエネルギー効率の高い設備に置換え、製品やサービスに必要なエネルギー消費量を削減し、コスト削減、競争力強化を狙っている。

 

気候変動対策とサーキュラーエコノミーが経済に与える相乗効果

上記で見てきたように、スピードも具体的な内容も求められる脱炭素化に向けた動きであるが、EUでは、カーボンニュートラルの達成に向けては、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現も合わせて求められている。また、世界平均地上気温変化2度目標を達成するために積極的な気候変動対策を行った場合、既存トレンド(RCP6.0)と比較して、経済成長はマイナスになるとされる。しかしながら、サーキュラーエコノミーを組み合わせることにより経済成長がプラスに転じるとされ(UNEP Resource Efficiency)、気候変動対策とサーキュラーエコノミーを両輪で回す考え方が先進国で一般的になりつつある。EUでは、2020年3月に「New Circular Economy Action Plan(新循環型経済行動計画)」を発表し、持続可能な製品やサービスを標準化させ、製品の設計段階から廃棄が出ないようにすることを求め、製品の設計・製造から消費、修理、再利用、リサイクルに至るライフサイクルを構築することを目指すイニシアチブ(Sustainable Product Legislative Initiative)を示した。製品ライフサイクル全体で循環型経済を推進するものである。

 

バリューチェーン全体で実現する製造業のサステナビリティ

本レポートで提言するSustainable Manufacturing(持続可能なモノづくり)は、地球規模の社会アジェンダ解決と自社の企業価値増大を両立させられるよう、ものづくり全体を変革していくことを目指したものである。Sustainable Manufacturingによって、世界中の製造業において経済的にも環境的にも大きな利益を生み出している。本レポートでは、製造バリューチェーンにおいて、脱炭素、省資源の観点から従来の業務の在り方を見直し、測定可能な改善をもたらすことができる設計・調達・生産・輸送・アフターマーケットの各業務について、実例を交えて説明する。

  • 設計:Product design with sustainability in mind = 持続可能性を考慮した製品設計
  • 調達:Material selection and ethical sourcing = 素材選択と倫理的な調達
  • 生産:Forging the factory of the future = 未来の工場
  • 輸送:Streaming shipping and distribution = 輸送・物流の合理化
  • アフターマーケット:The case for a circular economy = 循環型経済の事例

ここで見てきたように、グローバルでは、気候変動に対する「達成目標の高さを競う競争」に加えて、実際の改革スピード/本気度を問う動きが加速している。また、その内容もエネルギーの効率化だけではなく、製品ライフサイクル全般における効率化と、循環型経済の推進が求められている。個別工程に留まらず、自社のものづくりをバリューチェーン全体で捉え、サステナビリティを中心に据えたモノづくり「Sustainable Manufacturing」へと変革することが、いまこそ求められているのではないか。

本レポートが、日本の製造業において「エネルギーと天然資源を節約しながら、環境への悪影響を最小限に抑える、経済的に健全なプロセスを経て製品を製造」(米国環境保護庁)するプロセスへと変革し、尚且つ、グローバル競争力を高める一助となれば幸いである。

 

執筆者

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
産業機械・建設セクター担当

ディレクター 芳賀 圭吾 
ディレクター 上杉 利次
シニアマネジャー 瀬尾 弘毅

(2021.10.1)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

 

 

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※レポートは英語となります

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