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CFO Insights 2020 August

デジタル化への道のり:危機回復を支援するデジタル化計画における検討事項

CFOが直面する課題に関しての最新情報や知見を毎月発信しています。今回は税務面におけるデジタル化への道のりについてお伝えします。

今や税務部門は戦略的プランニングで重要な役割を果たし、多くの企業はそのデジタルトランスフォーメーションを加速しています。そんな中起こった今回の危機は、企業がその事業運営方法を変革し、回復を支援すること、そして、税務・財務部門のリーダーが業務上不可欠な変化を受け入れ、更なるデジタル化を推し進めることを余儀なくしました。

優先課題とチャンス

自社ビジネスのデジタル化に必要な手順や計画の策定は、様々な要因が複雑に絡み合った取り組みのように思えるかもしれません。ですから、変革を実施する前に先ず、貴社の差し迫った優先課題、そしてチャンスに焦点を当てることが重要なのです。デロイトはこれまで、数々の優れた税務部門をサポートしてきました。その経験に基づくと、CFOおよび税務部門のリーダーが危機回復支援において注力すべき主要事項として、以下の三つが挙げられます。

  1. デジタル化のための土台作り―デジタル化の恩恵を受けられるような環境の構築。
  2. マニュアルプロセスの合理化、自動化―プロセスの合理化・テクノロジーの活用による効率化と人員削減。
  3. 戦略と価値の推進―ビジネスの全体戦略に寄与する計画の策定。

ここ数か月、デロイトは、世界中の多くの企業とリモートで協力し、税務部門が喫緊の危機的状況に対応し、通常業務を取り戻し、今後の成長計画を策定する支援をしてきました。その中で気づいたのは、ほとんどのCFOは、自社の優先課題については理解しているものの、変革の範囲が広いために、どこから着手したらよいかについては確信が持てていないということでした。そこで必要となるのが視点の転換です。CFOは、どこから着手するか、短期的に何をすべきかを、自社支援に必要な戦略的デジタルケイパビリティをいかに創出するかという視点から考えるべきなのです。

現在地から目的地へ

これほどの規模かつ重要な取り組みにおいて、どこから着手するかを簡単に決めることのできるCFOは少ないでしょう。しかし、以下のステップを踏むことで、スタートライン、そして方向性を見出すことができるのではないでしょうか。

  1. 大きく考える―先ず、上記で検討した優先課題やチャンスを足がかりに、展望を見極め、ビジネスチャンスを評価します。税務部門と話し、非効率なマニュアル作業に多くの時間が経常的に費やされている業務を特定することなどがその一例です。似たような問題に悩む財務部門の同僚にブレインストーミングに加わってもらうのもよいかもしれません。テレビ会議やバーチャルホワイトボードなどのツールが役立つでしょう。
  2.  小さく始める―次に、潜在価値、リスク、導入の容易さに基づいて、チャンスを優先付けします。新型コロナウイルスによる職場環境の混乱が今後も継続する可能性を考えると、在宅勤務に必要不可欠なこと、あるいは単なる財務的メリットを超える、広範な影響をもたらすこと(例:効率化やリスク緩和、または過去のテクノロジー投資からの新たなメリット創出)から始めるのがよいかもしれません。優先事項が一つ二つ決まったら、今度はアプローチを明確化し、実現可能か否かの検証(概念実証)を行います。
  3. 迅速に行動する―チャンスの優先付け、検証を行ったら次は、その効果、メリットを周囲に理解してもらわなければなりません。変化の押し付けを避けるため、この段階で、移行時に対応が必要なことをエンドユーザーに正確に理解してもらい、そのニーズに合わせた調整を行うことは非常に重要です。エンドユーザーからの情報が不十分だったために変革を受け入れてもらえなかったという結果は避けなければなりません。賛同が得られたら、実施後の影響に基づいてチャンスを順序付けし、相乗効果による勢いが生まれるよう、短期間で展開する必要があります。

日本におけるペーパーレス化の状況

洗い出されたチャンスに基づきデジタル変革プランを策定する際、多くの企業が目を向けるのは生産性向上です。しかし、新型コロナウイルスパンデミックによる突然の職場環境の変化や在宅勤務で生産性が大きく阻害されたことからも分かるように、生産性の維持はその向上と同じくらい重要です。強固な技術インフラやエンドツーエンドのデジタルプロセス(すなわち「ペーパーレス」)は、災害時等における生産性確保のための重要な要素です。税務・財務のリーダーにとってコンプライアンス業務を行うことは短期的な主要課題であり、生産性維持のための措置を講じることは、あらゆる行動計画において大切な要素なのです。

生産性維持のための重要な要素の一つは、既存プロジェクトへの統合、すなわち、税務のデジタル化や職場のバーチャル化に必要な変化を洗い出し、実行することです。現在、多くの企業が、SAP S/4 HANAOracle Cloudなどの次世代ERPシステムにアップグレードすることでこの目標を達成しようとしており、これにより、文書保存の方法やその支援プロセスを見直す新たなチャンスが生まれています。

国税庁のデジタル化および納税者へのデジタル化奨励

文書保存方法を見直す際に忘れてならないのは、国税庁がデジタル化に一定の要件を定めているということです。電子文書を保管するためには、納税者は申請を行い、電子文書保存システムや支援プロセスが、以下の要件を満たしていることを証明する必要があります。

  • 修正・削除など変更履歴の記録
  • 関連する記録間の相互参照
  • 記録の可読性の確保
  • 記録を検索する機能
  • 記録のタイムスタンプ
  • 内部統制機能の存在

従業員の経費と業者からの請求書

在宅勤務の開始またはその拡大による支出の増大により、生産性維持とペーパーレス化の問題に加え、従業員の経費や業者からの請求書について新たな課題も生じています。ほとんどの従業員は現在在宅で勤務しているため、領収書や請求書を紙で受け取ることは難しく、時間もかかります。旅費交通費は削減されましたが、代わりに、モニターや文房具の購入、携帯電話やインターネットの費用、オンライントレーニング費用の立替払いなど、新たな従業員経費が発生しています。

従業員経費の領収書や業者の請求書の処理をデジタル化していない企業が、日本の文書保存に関する法規制に準拠することは難しく、青色申告が取り消される可能性があります。デジタル化している(あるいは既にデジタル化した)企業であっても、個別の法的要件を満たしていない、電子化を適切に行っていない場合は同様のリスクを負っていることになります。 

特に大切なことは、国税庁が定めるデジタル化期限要件に準拠することです。というのも、必要な手順や事前承認を得られなかった場合は、紙の領収書を保管しておくことが必要になるからです。

デジタル化の実施者

期限

経費を使い、文書を受領した本人

領収書受領後、約3営業日以内

上記以外の個人またはチーム

通常のビジネス処理サイクル後(最低でも2か月ごとに実施されると想定)、約7営業日以内

 

国税庁は、技術的な要件(例:タイムスタンプ)を満たすために、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会認定のソフトウェアプロバイダーを使うことを認めていますが、本社が日本国外にある企業の多くにとって、そのようなソフトウェアを自社製あるいは他の一般的な経費・請求管理ソフトと統合することは難しいでしょう。

印鑑(ハンコ)問題

日本でデジタル化を検討している企業にとっては、印鑑という別の課題もあります。当然のことながら、押印には紙の書類が必要です。その結果、会社によっては文書押印の日を定め、社印の押印が必要な従業員は、在宅勤務をしているにも関わらず、定められた日に出社しなければなりません。

社内承認に印鑑を使用している場合は、社内承認の印(および証跡)を残すシステムに替えることは簡単です。一方で、業者や顧客など、社外の当事者が契約に押印を求めている場合、システムの置き換えはそれほど容易ではないでしょう。

契約書に実印が求められる理由の一つは、判例および民事訴訟法で「押印があるときに文書が真正であると推定されている」からです。しかし、日本政府は2001年4月に電子署名法を制定し、複数のベンダーが電子署名の認証システムを提供することを許可しており、電子署名法に基づき、PDFなどのデジタル文書に電子的に付された署名は、実印同様真正であると推定されます。しかし、この制度は新型コロナウイルス発生まであまり注目されていませんでした。

ただし、現在市場で入手できる電子署名の中には、電子署名法によって認可されていないものもあることには注意が必要です。既にデジタル署名を導入している企業の中にも、電子署名法の認可外のシステムを使用している企業もあるでしょう。いずれにせよ、電子署名法に準拠する可能性が高い文書を抽出し、電子署名法に基づく電子署名の利用について費用便益分析を実施することが推奨されます。

まとめ

新型コロナウイルスは世界中の企業を取り巻く状況や労働条件を劇的に変えました。税務部門が自社の回復を支える取り組みとして、生産性を維持し、新たな課題に対応するためのデジタル化のチャンスを特定することはますます重要になっています。

文書保存や従業員経費、請求書、第三者との契約処理などをペーパーレス化、デジタル化することは、効率化やコンプライアンスリスクの低減などの他のメリットももたらします。また、管理上の負担やコスト削減につながる可能性もあります。

例えば、電子文書を紙で保管する場合、現在日本では、通常、最長で10年間、火災その他の災害から保護される環境で大量の記録を保管することが求められます。デジタル化すれば、紙の索引を作り、紙で保管するのと比較して、そういった管理上の負担を大幅に軽減することができます。

一方、デジタル環境に移行するためには、請求書および文書の保存要件に準拠しなければなりません。加えて、デジタル化の申請には、様々なIT要件や業務プロセスを理解するだけのIT専門知識が必要です。デジタル化を視野に入れている企業は、申請手続き等についてできるだけ早く外部専門家らの支援を求めることが推奨されます。

関連リンク

上記の内容は、Deloitte Thought Leadershipの記事に基づいています。記事の完全版には以下のリンクからアクセスできます。

詳細をご希望の場合は、伊奈 弘員(hirokazu.ina@tohmatsu.co.jp)または吉田 賢 (sayoshida@tohmatsu.co.jp)  までご連絡ください。

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