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CFO Insights 2020 June

モビリティ 「移動先での情報アクセスと洞察」

CFOが直面する課題に関しての最新情報や知見を毎月発信しています。今回は、企業におけるモビリティが事業・組織にどのように影響を与えるか、またビジネスモデルやバリューチェーンの変革をどのようにもたらすのかについて説いています。

モビリティとは?

スマートフォンの出現により人々の生活様式が一変しました。最新のスマートフォンはモバイルウォレット、Eコマース、生体認証、GPS、高性能カメラに至るまで様々な機能を持ち合わせており、世界的に見てもスマートフォンをはじめとしたモバイルデバイスへの個人消費は急増し続けています。

一方、企業においてはミレニアル世代が労働力の大きな割合を占めており、その結果、多くの従業員がスマートフォンの提供するシームレスな仕組みを職場環境にも期待するようになりました。同時に、ビジネスモデルやバリューチェーン全体の変革への期待の高まりにもつながっています。
エンタープライズモビリティマネジメントとは、従業員が移動先でもスマートフォンなどのモバイル端末を利用して企業が所有するデータや情報へのアクセスを可能にするために、プロセスやテクノロジー設計、ワイヤレスネットワーク環境、および接続するモバイル端末を総合的に管理することです。

デジタル化に乗り出そうとする組織・企業にとって、モビリティは経営上のきわめて重要な課題でありIT投資の最重点項目の一つです。Bring Your Own Device ( BYOD ) ポリシーは、従業員の生産性と満足度をより高め、より熱心に仕事に取組みまた人同士の協力も進みます。そしてこのことはIT関連のコストとメンテナンス作業を削減することにもつながります。

企業での”モビリティ”に関する新しいポリシーを導入する場合、新しい端末やサービス、接続方式を包括的に支える基盤が必要になります。爆発的な数に上るアプリを利用するモバイルに対応するためには、従来の方法では不十分で、これらのアプリを開発し流通させるには新しい技術と仕事の仕方、それを載せる新しいプラットフォームが必要となります。

新たにモバイル端末を導入するたびに企業はそのIT環境における費用対効果の見極めが必要となります。モビリティの促進で働く場所を選ばなくなることは、すなわち企業所有のデータへのアクセスが分散化されることを必須とし、それに伴う強靭なサイバーセキュリティ確保が必要となります。

企業は自らのモビリティ戦略を社外の関係先と連携したものにしていく必要があり、それは、外部のサプライヤーやディストリビューターは言うに及ばず、それぞれにBYODを実行する顧客までもカバーする必要がでてくるでしょう。企業の“モビリティ”ポリシーの実装は長く困難な道のりであり、達成のためにクロスファンクショナルな連携が必須です。

企業が“モビリティ”化を実現するために、1.顧客や従業員向けの新しいアプリケーションの開発と導入、2.モバイルクラウドの原則に沿ったインフラ基盤の更新、3.それらを最大限に活用するためのビジネスプロセスの再構築、の3分野に大きく投資していることがわかっています。

60%以上の企業はまだ既存のITインフラをモバイル対応させるプロセスの途上にあり、一方、30%の企業がモバイルを駆使して既存のビジネスモデルを再設計し、収益を増加させている。

ビジネスプロセスの“モビリティ”化

ビジネスプロセスの“モビリティ”化とは、既存のビジネスプロセスをモバイル端末で完了するために最適化することであり、実現には組織内の全ての事業部門との連携が必要です。投資対効果(ROI)を最大化させるために、各業務プロセスを慎重に分析し、モビリティ化に適する業務プロセスを選択する必要があります。また、企業によっては、複合的な技術開発を必要とする場合があり、ソフトウェアの追加調達、既存システムの再構築、またはその両方が必要になる場合があります。追加コストの発生は関係者を巻き込むうえでの障壁となり得ます。

企業として、従業員の不満が発生してからの事後対応的なアプローチをとるのではなく、モビリティ化による効果を最大限引き出すために自発的に取り組む必要があります。

バリューチェーンにおける“モビリティ”化

バリューチェーンのモビリティ化の実現には、自社とパートナー企業との連携が必須です。この“モビリティ”化の実現により、業務運営の効率化、タイム・トゥ・マーケットの短縮を図ることができ、問題が発生する前に物事を解決することができる可能性もあります。

会社に対しBYODポリシーの導入を強く望んでいる従業員は、社外の顧客に対峙し最新のテクノロジーに詳しく、且つ移動中でもインターネットの利用を希望する人々です。営業や、マーケティングそしてサービス部門など常にクライアントや顧客と対峙する職種においては、バリューチェーンの“モビリティ”化が従業員と顧客とのより良い関係構築、また、より迅速な問題解決に貢献します。営業職においては、販売機会の進捗管理、リアルタイムでの競合情報の入手に役立ちます。また、顧客サイドから考えると、“モビリティ”化で複数のチャネルにアクセスでき、より購入しやすい環境が実現します。

CFO組織(経理財務部門)におけるモビリティ

CFOをはじめとする多くの経理財務部門のリーダーが、ミレニアル世代による業務上のモバイル端末活用に対する期待や要望をすでに認識しており、経理財務部門内の“モビリティ”化は加速する動きが高まっています。経理財務部門の業務内容に関連した “モビリティ”化は、次のような分野ですすめられています。

  1. モバイルアプリを利用した出張管理。予約から経費請求、払い戻しの通知に至るまでトータルで管理できる。現在多くの旅行代理店が、同業他社との差別化要因として、“モビリティ”に特化したサービスの提供をおこなっている。
  2. 経費精算のワークフロー承認 (例外承認を含む) 。徐々に導入されつつあるが、モバイル端末の活用が進むにつれて、導入が急増していくものと考えられている。
  3. 企業が所有するマスターデータの変更および承認作業。例えば、企業が所有する取引業者の変更時等、複数人の並行承認が必須のケースなどにおけるワークフロー承認にも適用可能になってくるであろう。
  4. モバイル端末によるモバイル決済。インドではモバイル決済が主流になりつつあるが、B2Bの決済処理についてもモバイル決済に移行されるのは時間の問題だろう。
  5. BIツール上のダッシュボードとレポート出力。今日の経理財務部門において最も“モビリティ”化されている分野は、ダッシュボードとレポート出力である。ほとんどのBIツールにモバイル対応のオプションが組み込まれており、多くのリーダーが企業の情報管理戦略に不可欠な要素として、レポート機能のモビリティを求めている。
     

関連リンク

デロイトグローバル発行 CFO Insights:

上記記事では、リモートワークの世界で効率的なマネジメントを行うために経理財務部門のリーダーができることはなにか、経営を進めるうえで価値創造の概念は今後どのように変化していくのか、について論じています。

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