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CFO Insights 2020 September

MASTER DATA MANAGEMENT-デジタル化への道のりはここから始まる

CFOが直面する課題に関しての最新情報や知見を毎月発信しています。今回はデジタル化に向けた「Insight Driven Organization=インサイト駆動型組織」への移行の重要性についてお伝えします。

なぜ今デジタルトランスフォーメーションが重要視されているのか?

2020年に入りCOVID-19の影響もあり、この8か月間で、デジタルトランスフォーメーションがますます加速し、経済界は劇的に変化しました。現在、多くの企業が危機的状況に直面しており、ニューノーマル時代における持続的成長の実現に向けた重要な意思決定を迫られています。

このような状況において、CFOは平常時と同等以上に、財務管理、キャッシュフローの追跡、実績管理など多岐にわたる業務を求められます。多くの企業が、業務の最適化と収益性の向上のために、デジタルトランスフォーメーションの一環として、データアナリティクスを活用するのは当然のことです。

過去10年間、リーディングカンパニーは膨大な量のデータ処理とインフラストラクチャの構築に多額の投資を行ってきました。現在、世界では、一日平均250京バイト以上のデータが使用されています。CFOや組織のリーダーは、自社がその大量のデータを活用できる状況にあるかどうかを改めて考えるべきではないでしょうか。

不確実性の高い環境下における企業活動の成否は、大量にあるデータを分析し、企業、製品、及び顧客に関する洞察をいかに迅速かつ正確に導き出せるかにかかっています。手軽で簡単なツール、テクノロジー、デジタルリポジトリが無数にあるデジタル時代における経理財務組織のリーダーは、Insight Driven Organization=インサイト駆動型組織への移行の舵取り役としての役割を果たす準備をしておくことが必要です。

Insight Driven Organization=インサイト駆動型組織とは何か?

今日、「データ」 「アナリティクス」 「インサイト」 という言葉を聞いたときに思い浮かぶのは、コスト削減、意思決定の迅速化、収益性向上のためのアナリティクスツールの活用やインサイト(洞察、深い理解)ではないでしょうか。企業がInsight Driven Organizationに移行するためには、CFOのみならず、IT、ビジネス、コンプライアンス、およびデータ保有部門のリーダーと協働体制でアナリティクス技術を活用し、戦略的な意思決定と運用上の意思決定の間のギャップを埋めることが必要です。賢明なCFOは、データモデルを理解しデータ傾向を可視化、またプロアクティブなモニタリング体制を構築し、組織全体やプロセスの改善に優れたテクノロジーとツールを活用することができるでしょう。経理財務組織は、CFOやコントローラーが事業の兆候をしっかり捉えることができるよう、企業の中央司令部としての地位を確立し、財務データを統括することが必要です。

経理財務組織は、データの洞察、傾向分析、KPIモニタリングをし、以下のような問いかけを通じて、業務上の意思決定をより一元的に管理することが可能です。

  1. この日、この顧客にはどの価格帯で提供すべきか?
  2. どのリスク投資を打ち切るべきか?
  3. どの在庫製品をサプライチェーンの中に組み込むべきか? 

Insight Driven Organization へ移行することによって、CFOはこのオペレーションモデルを活用し、以下3つの重要分野に注力することができます。

1.コスト削減:組織は、データアナリティクスを活用して問題の根本原因を掘り下げることで、プロセス改善の機会の特定、コスト内訳の理解、排除すべきロジスティックスエラーの特定ができます。これにより、サプライチェーンコストの削減、要員計画の最適化、多様なデータの蓄積・分析の効率化が可能となります。

2.より迅速で優れた意思決定:ビッグデータの出現により、組織は無制限のデータソースを利用できるようになりました。ビッグデータは、ニュース、研究調査結果、グラフ、音声、画像、ソーシャルメディアなどの非構造化データを介し、リアルタイムに、地域を越えて市場で起きている出来事を照合可能です。データ蓄積と処理の高速化と、新しいデータソースの分析機能、およびダッシュボードによって提供される可視性が相まって、組織は即座に分析が必要な重要事項に焦点を当て、根本原因や変化を突き止めることができるようになりました。そして、そこから得られた情報に基づき意思決定を行うことが可能です。

3.収益性の高い製品とサービス:組織は、ビッグデータとアナリティクスを併用することで、顧客の全体像を把握し、顧客の感情まで深く理解することが可能です。同時に、プロダクトサービスライフサイクル[YR1] のプロセスに沿った主要な相互作用に焦点を当て、カスタマーエクスペリエンスを追跡し、記録します。さらに、アナリティクスは製品の収益性の分析、顧客行動プロファイルの特定、支出傾向のモニタリングに活用し、顧客価値とビジネス価値の双方の向上を目指すことが可能です。

経理財務組織はどのようにデジタルジャーニーに乗り出すことができるのだろうか。

Deloitteが実施した最近の調査において、分析ソリューション導入の際に組織が直面する主な課題はデータ管理にあることが明らかになりました。コンサルティングにおける決まり文句の一つに「Garbage in Garbage out(ゴミからはゴミしか生まれない)」 というフレーズがあります。リーダーとして、この言葉を聞いたことがある、もしくはこの言葉を使用したことがあるかもしれませんが、実際にどれだけの経理財務組織がデータ品質基準、保守プラクティス、管理ポリシーといった基盤に重点を置いているでしょうか。

Source: Deloitte Analytics Survey 2019

成功への道はマスタデータ管理から

多くの経理財務組織は、マスタデータの管理に関し、規模や形態、背景に関わらずデータガバナンスやメンテナンスのために試行錯誤しています。業界をリードするような成熟した組織においては、多くの場合、マスタデータの作成、メンテナンス、およびモニタリングのためのプロセスを明確に定義しています。またこれらの組織は、明確に定義したプロセスに加え、マスタデータ標準のガバナンスと監視、および機能横断での主要パートナーとの連携のために、中枢となる部門を配置しています。

データ戦略に関して言えば、データ主導型の成熟した組織では、オンプレミスかクラウドかにかかわらず、どのようにデータを蓄積するか、また、どのようにデータをクリーンアップし、重複を削除するか、そして最も重要なこととして、データを何のために活用したいかについて明確な計画を立てています。経営幹部は、データの取り扱いや処理にあたっては、“新たな考え方”で対応しなければならないでしょう。“デジタル”で成功するための基盤として、データはビジネスの根幹となる資産として認識されなくてはならないのです。
CFOまたはマスタデータ管理の推進者が把握しておくべきベストプラクティスを共有します。

1. 部門横断の協働体制をとる

データに関し責任を負う部門全体において、データのビジネスオーナーを特定します。データのビジネスオーナーは、データの品質、管理、メンテナンス、および分析に責任を持つことになります。マスタデータ管理の複雑さを過小評価している組織は、データ分析モデルから適切な示唆や価値を引き出せないため、簡単に頓挫してしまう可能性があります。それゆえ、複数の機能を連携させることで、こうした懸念を緩和し、社内の方針を理解し、組織がデータをどのように活用したいかについて、戦略的なビジョンを共有するべきです。

2. 財務マスタドメインへの明確な階層と定義を明らかにする

明確な方針または勘定科目一覧の作成は、マスタデータ管理の基本的なステップです。これらは、財務マスタデータの企業プロセス、オーナーシップ、およびメンテナンス方針を決定するのに役立ちます。さらに、重要なマスタデータの分類を組織全体で統一するために、マスタデータの分類方法やメンテナンス方法に関する標準ルールを明文化する必要があります。

3. 下流への影響を明確にする

組織の規模と複雑さが増すにつれ、マスタデータの量と複雑さも増していきます。賢明なリーダーは、これらの変化を予測して計画する必要があり、マスタデータの変更がもたらす財務報告、経営報告、およびシステムへの影響を確実に考慮・反映させるための適切なメカニズムを整備する必要があります。

4.  集中型コマンドモデルを構築する

従来の財務およびデジタルエコシステムを精査し、Insight-driven型機能のためのターゲットオペレーティングモデル(TOM)を構築します。このプロセスの一環として、経理財務組織のビジョン及び役割、データガバナンスと高度な分析のアプローチを、関連プロセスの管理同様に定義する必要があります。

5.  成功への青写真を描く

将来のビジョンに向けたロードマップを作成することは、変革に向けた取り組みに優先順位をつけ、ビッグデータの分析ツールを効果的に実装し、そして財務の未来をよりよく推進することにつながります。テクノロジースタックを計画する際には、アプリケーションやデータ登録、モニタリング、メンテナンス、ガバナンス、テスト、蓄積に至るまで、End to Endでのプロセスニーズを考慮する必要があります。

6.  Quick Winを見極める

組織にとって、マスタデータをできるだけ早くクレンジングするための計画と戦略の策定に着手することが重要です。マスタデータマネジメントに投資する経営幹部は、意思決定を裏付けるため、迅速に成果を得たいと考えています。すぐに得られる成果としては、アーカイブするマスタデータとトランザクションを識別からデータベースサイズを縮小、システムのパフォーマンスを向上させることなど多岐にわたります。その他の成果としては、ブランクや誤字、重複、および欠落データなどの不適切な登録を一掃することなどです。

組織がデジタルトランスフォーメーションへの取り組みを加速させる必要性がこれまで以上に高まっている中で、Insight Driven Organizationを目指す組織は、まず、自組織のプロセス、能力、技術の現状を精査することに取り組むべきです。デジタルトランスフォーメーションへの道のりは長く困難な場合がありますが、リーダーはそれに応じて計画を立て、まず初めにデータ管理の基盤を確立してから、新しいテクノロジーアーキテクチャをエコシステムに組み込むことが重要です。

Insight Drivenな経理財務組織への移行は、技術導入の失敗や急激な改革によって短期的な障害をもたらす可能性がありますが、認識されているビジネス上のメリットと競争優位性は、これらの障害を容易に上回ります。ロードマップを定義し、小さなことから始め、失敗から学び、変化を慎重に管理することで、分析イニシアチブは、ビジネスにおけるファイナンス戦略の礎となるのです。

著者について

詳細をご希望の場合は、Andrew Chang(andrchang@tohmatsu.co.jp)までご連絡ください。

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