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CFO Insights 2021 June

「Future of Work(新しい仕事の在り方)」に向けた取り組みの加速:CFOのための新たなインサイト

CFO InsightsではCFOが直面する課題に関する最新情報や知見を毎月発信しています。今月は、ファイナンス部門の「Future of Work」を加速するために必要な「仕事の再構築」について概説いたします。企業は、最大の資産である人のポテンシャルを最大限活用するために、テクノロジーの活用と人材重視の双方を目指す戦略を策定する必要があります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは、まるで未来へのタイムマシンのようだと表現されることがあります。そして、そのパンデミックの影響は変化の加速度からも明らかです。しかし、私たちが乗り越えなければならないのは、コロナウイルスとその経済的・社会的影響によって生じた急激な変化だけではありません。根本的なディスラプション(破壊的変化)が起こったため、私たちは文字通り、従来とは異なる、まったく新しい仕事の世界に踏み込もうとしているのです。その世界では、予測不能な未来と終わることのないディスラプションに備え、それを乗り越えていかなければなりません。この新しい世界で私たちが目指すべき方向は、「変化への対応と適応(Survive)」から「変化を梃にした、さらなるビジネス成長(Thrive)」へとシフトしています。かつてアルバート・アインシュタインが残した名言“新しい世界の探検には古い地図は使えない”という言葉は、今も変わらず、有意義で的を射ています。

デロイトのグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2021(Deloitte Global Website)では、エグゼクティブや企業が新しい世界の予測不能な未来に対して、どのように備え、“Survive”から“Thrive”への転換をリードしていくかについて考察しています。本レポートで明らかになったのは、2020年に発生した世界的なパンデミック、財政危機、社会的公正の危機に最も適切に対応した企業は、既に「未来志向型のThrive」のマインドセットを持って事業を展開していたこと、そして、カタリストとしてディスラプションを新たな契機と捉えていたことです。このような組織のリーダーは、将来起こりうる予測不能のディスラプションに備えるため、変化するビジネス・ニーズに合わせて投資の方向性を検討し、テクノロジーを通じて働き方を改革し、労働者の適応力とモビリティを活用して迅速に意思決定できるよう、仕事をデザインする傾向が高いのです。特に注目に値するのは、調査対象のエグゼクティブの61%が、今後の重点を、仕事の最適化から仕事の再創造に完全にシフトさせたと述べたことです。対照的に、パンデミック以前には、仕事の再創造を重視すると述べたエグゼクティブは29%に過ぎませんでした。仕事の再創造を行動に移すこと(私たちは「仕事の再構築」と呼んでいます)により、私たちが今行っている仕事や、働き方、そしてその仕事により創出される価値を根本的に変革し、人と技術のケイパビリティを融合させて双方の可能性が最大限に発揮されるようにし、まったく新しい次元の成果と価値をもたらすことが可能になります。

1 Slaughter A、 (2020年) 「Forget the Trump Administration. America Will Save America.」、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)

テクノロジーだけでは足りない - CFOに求められる役割とは?

「Future of Work」の取り組みを加速し成長するためには、CFOにとって現状維持では不十分でしょう。CFOは、トランスフォーメーションを導くリーダーへと自らを変革し、テクノロジー投資をコスト効率性重視から価値創造重視へ転換させなければなりません。最新のテクノロジーを導入してファイナンス機能を変革し、付加価値につながるサービスに変容させ、事業部門との連携を通じたデータとビジネス感覚の活用につなげる必要があります。

図 1 – 現状維持では不十分:ファイナンス部門は将来の業務のあり方について戦略的に選択すべき

これを実現するためには、CFOはコロナ禍以前からの考え方や従来のアプローチを転換させる必要があります。これまでファイナンス機能のデジタル時代を推進してきたのは、ハインドサイト(結果の考察)やインサイト(洞察力)を重視したビジネスデータや情報を提供する新たなテクノロジーでした。テクノロジーは間違いなく、ファイナンス機能にとっての新しい仕事の在り方を形作っていくでしょう。しかし、人が能力を発揮し、向上させていくためには、テクノロジーの導入だけでは不十分です。「テクノロジーを適切に活用すること」に焦点を当てるべきです。それゆえにCFOは、絶えずディスラプションが起こる世界で求められる新たな価値を創造し、フォーサイト(先見的洞察)をもたらす役割を担うことになるでしょう。

図 2 – 絶えずディスラプションが起こる世界で、CFOはハインドサイト(結果論)からフォーサイト(先見的洞察)への転換を促すテクノロジー投資にフォーカスすべき

テクノロジーの活用と人材重視の双方を目指す戦略の策定

ディスラプションが続いたこの1年間で明らかになったのは、企業は、最大の資産である人のポテンシャルをまだ活用できていないということです。「Future of Work」を加速し、成長していくために、CFOおよびファイナンス部門責任者は、テクノロジーの活用と人材重視の双方を目指す戦略を策定する必要があります。そのような戦略の核心となるのは、人材エコシステムの形成、柔軟な労働環境の整備といった、ファイナンスの仕事の再構築でしょう。

ファイナンスの仕事の再構築

クラウド、インテリジェント・オートメーション、コグニティブ・コンピューティング、ブロックチェーン、アドバンスト・アナリティクス、ビジュアライゼーションなどの革新的テクノロジーの活用により、人が能力を最大限発揮できるようにファイナンスの仕事を再構築し、これまでになかった新たな価値をもたらす、人と機械の新たな協働関係を作り出すことが可能になります。これによりファイナンス部門責任者は労働力および労働環境の新モデルを活用し、人には、人間がやるからこそ価値を生み出せる仕事を割り振ることができます。つまり、人がやるべき仕事は、ファイナンスの仕事をハインドサイトやインサイトを重視する現在の形式からフォーサイトを重視する形式に転換させることです。オペレーションファイナンスの仕事は、タッチレス取引処理やリアルタイムの財務情報提供、財務リソースの一元管理へと進化することが可能です。それに対しビジネスファイナンスは、ビジネス上の意思決定の迅速化や事業計画と分析の統合に役立つ、先見的で洞察的な分析など一段上の価値を提供します。そして、スペシャライズドファイナンスは、アジリティ向上につながる先見的分析と能力に戦略的に集中する、効率的なプロセスとソリューションへと転換します。

人材エコシステムの形成

テクノロジーの進歩および人と機械の新たな協働関係が進むとともに、未来のファイナンスの仕事の在り方に適したスキルとケイパビリティ が重視されるでしょう。人のスキルアップに関しても、機械の性能向上に関しても、今後の道筋は、以前通ったことがある道と似ています。つまり、社内育成、外部採用、外部リソースの活用です。

需要が高まっているスキル(データ分析、ビジュアライゼーション、企業連携、専門知識を要する業務など)は、取得またはスキルアップのためにコストがかかります。しかし、新規採用や支出が控えられている中では、「社内育成」が、コスト効率性が高く効果的であり、優先度の高い人材の不足を埋めることができるのです。ただし、時間とリソースに制約がある中では、必要なスキルの要件を優先させることが重要です。一般的に取得可能なスキルやツール、機械学習のケイパビリティなどの定例的なスキル(マネージメントレポート、請求、決済など)については、リモート勤務環境が向上しているため、地理的条件を選ばず人材プールの中からスキルを「外部採用」することが可能です。業種によっては、新規採用の停止により、ファイナンス部門が人材を「外部採用」することは制限されるかもしれませんが、失業率の上昇により、従来「社内育成」していたスキルは「外部採用」する方が容易になってきているでしょう。

ファイナンス業務としてはまだ一般的になっていないものの、ここ最近急速に出現してきているスキル(ブロックチェーンによる取引処理、システム管理など)についても、リモート勤務環境の中、地理的条件に関係なく「外部リソースを活用」することが可能です。新規採用の停止により、「外部採用」よりも、社外人材のレンタル移籍などの「外部リソースの活用」が現実的な選択になるかもしれません。

適応性が高く柔軟な労働環境の構築

労働力のポテンシャルを最大活用するために、未来のファイナンス部門は、効率性とアジリティを両立させる適応性のある組織を設計する必要があります。買掛金、売掛金、現金管理、定例報告、税務などの実務については効率性が重視されるため、低コストで効率的な成果を上げることができるよう、機能別に集中管理を行う従来のヒエラルキー構造が理想的でしょう。

一方、企業会計、財務企画・分析、財務オペレーション、内部監査、専門的な税務・財務などの専門知識を要するファイナンス業務については、専門知識を有する人材プールを一元管理し、組織全体の共通目標達成を焦点とするセンター・オブ・エクセレンス方式が理想的でしょう。

また、年間計画の策定・予測、財務テクノロジー導入、戦略計画策定などの財務プロジェクト業務については、機能横断的なプロジェクトチームの組織構造が最も成果を上げられるでしょう。分析やレポーティング、事業継続、企業連携、IR、ベンダー管理などの協働的なファイナンスの業務では、アジリティが極めて重要です。ファイナンスに限らない専門性を備えた自律的なチームをミッション単位で構成することにより、戦略的に優先度の高い課題に集中して取り組むことが可能になります。このような組織構造が、全面的な成功の核心となるでしょう。

絶えずディスラプションが起こる世界で成長する

絶えずディスラプションが起こる世界では、ある一定期間での短期的な戦略策定ではなく、継続的なシナリオプランニングを取り入れた戦略策定へと転換させる必要があります。つまり、CFOおよびファイナンス部門は、重点をコスト効率性から価値創造にシフトさせ、迅速な意思決定に必要な先見的洞察を提供できるよう、変革しなければならないのです。

これを実現するために、CFOとファイナンス部門責任者は、テクノロジーの活用と人材重視の双方を目指す戦略策定に注力するべきです。企業の最大の資産は人のポテンシャルであることを念頭に置き、これらの戦略を進めていくことが、今日の収益にインパクトを与え、組織を成長させるために極めて重要となるでしょう。

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