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デジタルトランスフォーメーションを推進するための組織構築

dX Leaders Summit 開催レポート(2020/10/30 ライブ配信)

デロイト トーマツ グループは2020年10月30日、日本を代表する企業のCIO、CDO、CTOなど情報システム・IT部門等の幹部を対象に、「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための組織構築」をテーマとしたオンラインイベント「dX Leaders Summit」を開催した。

今回、第2回となるdX Leaders Summitでは、企業はいかにdX組織を構築できるか、dxを推進するうえで重要になる組織の構築に向けて、デロイト トーマツ のプロフェッショナルによる知見やインサイトをご紹介した。実現に向けた効果的な取り組みの方向性をご参加の皆様と一緒に考える時間となった。

※本ページの記載情報は記事公開時点のものです

- 開催レポート -

「両極化の時代」に求められるデジタル経営

「新型コロナウイルス感染症は経済社会に非常に強く影響を及ぼし、従来の規範や秩序が揺さぶられ不確実性が増大している」

 イベントの冒頭、デロイト トーマツ グループ CEO 永田 高士は現状をこのように分析した上で、今後の展開について次のように説明した。

 「新型コロナウイルス感染症のショックからの復興は単純な道すじではなく、企業は新たな価値創造を目指していくことが肝要である。コロナ禍により、人々の健康や安全に関する意識が強まった今、ESG投資やSDGsが喫緊の経営課題になり、“社会価値”に対する意識改革が求められている。CSR・社会貢献活動の延長線上で取り組むのではなく、収益創出につながる機会と捉え、“企業価値”と“社会価値”の創出を一体的につなぎ合わせて戦略的に取り組む経営モデルに転換していくことが重要である。デロイト トーマツ グループでは、このような時代を「両極化の時代」と捉え、この時代にこそ求められる「デジタル経営」を実現するためには、dXの推進・実現が必須なのだ。」と視聴者へ訴えかけた。

 ここでいう「dX」は、デロイト トーマツ グループでは「Business transformation with digital」と定義し、ただ単に現行のビジネスをデジタル化することではないことを意味している。

最後に永田は、「デジタルテクノロジーをツールとして利活用すれば、多面的・重層的な繋がりを社内外に構築し、ビジネスと経営のあり方を根本的に変革することができる。こうした取り組みを通じて企業の変革を促していかなければならない」と締めくくった。

Main Session

Main Sessionでは、デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社 執行役員の森正弥より、eコマースや金融における最先端技術を活用した新規事業や大規模組織マネジメントに従事してきた過去の体験に基づき、DX組織を構築する際の重要なポイントや見逃しがちなポイントを紹介した。

以下、講演における主要な骨子をご紹介する 

DX組織構築のきっかけは“攻めのガバナンスの確保”を実現するため

実際に経験したグローバル企業での取り組みにおいて、DX組織を構築し大きな効果をもたらしたが、きっかけは、企業の“成長ステージに応じた攻めのガバナンスの確保“であった。高い技術力を有し、マーケットや消費者心理の分析を行うなど現場力はあるため、その能力を経営陣は全社的に活かしていきたいと考えた。そこでデータを活用するDX組織を構築することで、組織のガバナンスとイノベーション力を高めることにした。

 このDX組織は、データバリューチェーンを意識して構築した。そのため、研究開発の組織は各側面から支援することとし、以下3つの部署を設置した。

  1. 「データレイク」:グローバルでデータを管理部門
  2. 「プラットフォーム・プロダクト」:データを活用し、レコメンデーションや需要予測のプラットフォームを作る部門
  3. 「コンサルタント・アナリスト」:プラットフォームを使い、データを分析・活用する部門

 データバリューチェーンを意識した組織を構築したことで、ガバナンスは向上した。しかし、攻めのガバナンスを実現するためのマネジメントについては不十分だった。その理由は、それぞれの取り組みが可視化されていないという点にあった。そもそも経営陣は、現場全体の能力を全社的に活用したいというのが目的だったため、その状況でDX組織を構築しても、その能力をDX組織内に閉じ込めただけに終わっていた。全社活用をしていくためにはさらなる仕組みが必要とされた。

 組織を構築するだけでは解決とはならない

必要だったのは、DX組織を構築することに加えて、デジタルを活用できる人材(=デジタル人材)をダイナミックにマネジメントできるフレームワークだった。

そこで、新たに「プログラム・マネジメント体系」を導入。インフラストラクチャやデータコレクション、ビジネスアプリケーションに至るまで、必要なデジタル人材をマネジメントフレームワークにマッピングすることにした。その際、対立する部門や責任者不在のプロジェクトなどについても整理・統合を実施。さらに、DX活動の最終目標を定量的に評価する指標「KGI」(Key Goal Indicator)を策定し、すべてのプロジェクトをフレームワークと紐付けた。

さらに3カ月に1度、役員全員でプロジェクトレビューして取り組みを可視化した結果、透明性を確保できるようになった。また、どういった人材が足りないのかも明確になり、育成や人材の登用も実施できるようになった。

企業にとって必要となるDX組織というのは、その企業の組織文化やガバナンスのストラクチャーによって変わり、マネジメントの仕方も異なる。企業がどのような成長の段階にあり、どのような目標に向かって進んでいるかに基づき、作るべきDX組織や推進方法は選択されていくべきだ。企業が適切な組織を構築し、内部にしっかりと核となるデジタル人材を育成し、その能力を全社の目標達成へのドライバーとしてフル活用していく。そして、この激変の時代においてもマーケットから選ばれる存在としてあり続けるということがすべての企業にとって重要なことだと考える。

Insights from Deloitte

Main Sessionでは、デジタル人材の育成やその登用の重要性を説明した。このデジタル人材の育成・登用は多くの企業に共通の課題だ。この課題について、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社より、企業のdX推進を支援しているプロフェッショナル3名が登壇し、参加者からのリアルタイムアンケートで得られた実際の声を踏まえながら、“Insights from Deloitte”にて見解を述べた。 

「人材の育成」がキーワード

冒頭、箱嶋は経済産業省が試算した「IT人材に関する試算結果」のチャートを参照しながら、「2020年でも30万人、10年後には45万人の需給ギャップが出ると試算されています。コロナ禍の状況を見るとこの差はさらに広がっていくと考えられる」と指摘した。

この指摘に対して森亮より「人材の需給ギャップについては1企業が人材を育成して対応すればなんとかなるというレベルではなく、何十万という単位で足りない。国家的な問題になりつつある」と補足。

さらに、dX Leaders Summitの参加者によるリアルタイムアンケートでは、「デジタル人材が大変不足している」と答えた企業が95%にも上る。多くの企業がデジタル人材不足に直面している現状は明らかである。

森亮は、アンケート結果を受けて「新型コロナウイルス感染症により、立ちゆかなくなっているビジネスから別のビジネスに人員を配置転換し、その流れでデジタル人材をうまく育成できないかという議論が出ている。しかしそれだけは、需給ギャップは埋めることができない。今後は、若い世代にITの魅力を伝え、デジタルスキルを育てようという議論も始まっている。」と説明。

では、デジタル人材を確保するためにはどのような手段があるのだろうか。多くの企業は「中途採用」や「新卒採用」で人材を確保しようと考えているようである。
デロイト トーマツ グループは、dX組織を構築する上で足りないスキルエリアについて調査。その結果「プロデューサー」や「データサイエンティスト/AIエンジニア」「ビジネスデザイナー」「アーキテクト」「UXデザイナー」「エンジニア/プログラマ」といったすべてのスキルエリアで人材が足りないということがわかった。 森亮は「しかし、人材マーケットに“企業が必要としているレベルのデジタル人材がいない”という問題は残る。」とし、「たとえば、M&Aによる企業買収の結果、一時的に優秀なデジタル人材を確保できたとしても、優秀であるからこそ、その人材を維持することは難しい。また、日本企業は従来からベンダー任せ・外注頼みの傾向も強く、変化の速いデジタル時代では、内部にデジタル変革を担うリソースを抱え、機動的に対応する体制を作ることをしない限り、顧客のニーズの変化(進化)に追随できない。だからこそ、 “人材の内製化”=内部でデジタル変革を担う人材を育てる”ことが重要である。」と力を込める。 さらに森正弥は、別の視点についても語った。「 “内製化”というキーワードは重要。dXの推進は、“人材をどう活用するのか”、“業務プロセスをどう変えていくのか”といった企業文化に深く関わることになる。自社を変革していくためには、現場とのコネクションが必要不可欠である。つまり、たとえIT技術やテクノロジーに長けた人材を登用できたとして、自社に変革が生まれない。昨今では、多くの企業がこの事実に気づき始めており、その観点からも“育てる”ことが重要である」

 これについて、箱嶋は「プロデューサーやビジネスデザイナーといったdXのトリガーを引くはずの上流のスキルエリアが足りていないという結果に驚いている」とコメント。

それに対し森正弥は「例えば、AIはすでにコモディティ化しており、お客様が何を考えているのかを高い精度で抽出したり、お客様の離脱を予測したりすることも可能になってきている。しかし、それが分かったあと、“では、どうすればいいのか”という部分が解決できていない。現在求められているのは、AI技術を活用し予測することではなく、その予測結果を使ってビジネスにどう貢献しているかを考えるということ。それが調査結果にも反映されているのではないか。」と語った。

dX組織が目指すべき姿

dX組織をどう設計していけばいいのか。

森正弥は、dX組織の目指すべき姿を説明するとともに難しさを下記の通り説明した。

 「多くの企業が目指すべき方向性は、各部署・各部門・各カンパニーにdXを推進する責任者を配置し、その責任者が連携しあいながらdXを推進していくチャンピオンモデル。あるいはBAUモデル(Business As Usual Model)で、既に自律してdxが推進される状況にあるモデルであり、これらができると現場力の強化につながる。

しかしチャンピオンモデルにはdXの起点となるデータにまつわるコンプライアンスやガバナンスといった課題がある。データを扱う上でコンプライアンスやガバナンスを考える必要があるものの、現場でこれらについて考慮することは事実上難しい。

ただし、どの企業もガバナンスは本業ではない。ガバナンスの人材を育てるのが難しいという問題があり、ガバナンスの専門家を外部から雇い、そのエリアをカバーしようとする。しかし、専門家からは“これもダメ、あれもダメ”の連発になり、そもそもdX推進が後退してしまう。簡単に“ダメ”と決めるのではなく、自社の文化や歴史を理解した上で“攻めのガバナンス”を行う必要がある。こういったガバナンス人材をいかに育てていくかということも同様に重要である。」

 そこで森亮が海外の先進事例である“デジタルファクトリー”について言及。

「これまで限られた研究者たちにより、DXや変革を実現するラボ活動が盛んに行われていた。一方、“デジタルファクトリー“は、誰もが再現できるよう仕組み化・標準化することで、イノベーションさえも量産化することを可能にさせる。つまり、dxのテーマ探索やアイディエーションも量産化できるようになってきており、これらデジタルファクトリーへの期待が高まっているのである。

ドイツのスタートアップと大企業の例では、スタートアップがアイディアを多く出し、それを大企業がすぐに形にすることで、スタートアップの人たちが働きたくなる環境を作ること、そして、足りない人材を外部から補充しながら、徐々に自走できるようにしていく。これがまさにデジタルファクトリーの神髄であり、こういった取り組みを日本でも行いたい」とコメントした。

 次いで森正弥は「dX推進で重要なのは外部ベンダーなどにすべてをアウトソースしないということ。自社のプロセスを理解している人が中心になって活動するのが重要。そういう人材を育成し、そういった組織が他社と連携する。いかに自社でデジタルを変革し、人材を確保し育てていくか。変化の速いデジタル経営時代の顧客ニーズの進化に対応するためにもデジタルファクトリーを作っていくことが重要である」と語る。

 

dX推進は、今や企業にとって差別化の武器ではなく、不可欠な要素になっている。また、一時的な流行でもなく、持続的な営み、すなわち経営そのものだとも言える。

ただし、これを推進する人材の確保・育成は一筋縄ではいかない。外の力に頼り過ぎることで、中長期的に見て外部依存の状態が恒常化することはリスクでもある。

今回のInsight from Deloitteでご紹介した事例などを参考に、人材を受け入れ、機能させ、そしてdXの経験を自律的に増幅していくことのできる環境を整えることから、ぜひ始めてみていただきたい。

- dX Leaders Summit開催概要 -

開催日時: 2020年10月30日(金) 16:00 -17:20 (ライブ配信)

 

プログラム:

16:00         開会の挨拶
                  デロイト トーマツ グループ CEO 永田高士

16:10         Main Session

               「dX組織構築ーdX推進をさらに加速させるための基盤づくり」

                 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

                                                                               執行役員 森 正弥

16:35         Insights from Deloitte

                 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員 

                                                              森 正弥、森 亮、箱嶋 俊哉

17:20           閉会    

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