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後継者不在企業における後継者育成について

デロイト トーマツ人材機構シリーズ 第8回

前回は、地域企業における受援力と人材獲得についてお伝えしました。今回は、後継者不在企業における後継者育成について、親族内承継が減少傾向にあることに触れつつ、親族外承継(外部からの経営人材の招聘)について解説します。

I.はじめに

中小企業・小規模事業者(以下「中小企業」という)は、地域の経済や雇用を担う重要な存在である。しかし、今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業の経営者は約245万人と見込まれており、うち約半数の127万(日本企業全体の約3割)が後継者未定となることが見込まれている。この現状の改善に努めないと、中小企業の廃業の急増により、令和7年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性がある。従って、政府は、令和7年までの10年程度を「事業承継の集中実施期間」とし、事業承継の支援を実施している。

後継者不在中小企業の事業承継を行うに当たっては、後継候補者の選定およびその者が優れた経営者となるための後継者教育が必要であるが、現状では多くの中小企業において後継者育成に関するノウハウは有されておらず、円滑な事業承継を実現する阻害要因となっている。

II.後継者不在中小企業における後継者育成に関する課題

1. 親族内承継について

従前より我が国における『事業承継』とは親族、すなわちオーナーの子息子女への承継が一般的であったし、親族外承継が一般化してきた現在においても、主たる事業承継の類型の一つであり続けている。一方、以下の点から、親族内承継については円滑には進まず、減少傾向になるといわれている。

(1)オーナー一族の後継者がいない

(2)オーナー一族に後継者がいたとしても、経営者としての力量が不足している

上記(1)について、オーナー一族の中に後継者がいないケースは増加傾向であるといわれている。これは、いわゆる『継がせる息子がいない(子供がいないケースや、娘のみのケース)』のみならず、経済成長が鈍化し、かつ、コロナ禍等を含めて先行きの不透明さが増す事業環境の中で、不安定な稼業を子息子女へ引き継ぐことに抵抗感を持つオーナー経営者が少なくないことにも起因する。極めて厳しい経済環境の中、愛しい子息子女に経営者としてのいばらの道を歩ませたくないという親心が親族内承継の減少要因になるケースである。

次に(2)のケースである。社内に後継者が存在し、承継に向けて着手しているケースであったとしても、これらの経営者が経営者としての能力を十分に有しているとは限らないケースが想定される。経営者としての資質は必ずしも遺伝するとは限らず、また、事業をゼロから立上げ、情熱と経験にあふれた創業者・経営者と異なり、二代目は創業者が作り上げたものを引き継ぐ必要がある。これをなし得る過程で、他の役員や従業員、取引先等から経営者としての力量を認められる必要があるが、先代との比較等から簡単には進まないケースも多い。

上記のようなケースが増加してきたことにより、いわゆる親族内承継が減少傾向になるのではないかと考えられる。

 

2. 親族外承継(外部からの経営人材の招聘)

1.にて述べた状況が進行していく一方、親族外承継(外部からの経営人材の招聘、M&Aによる譲渡)が増加してきている。ここで、外部からの経営人材の招聘に関するポイント、留意点について述べたいと思う。

外部からの経営人材の招聘を成功裏に導くためには、ひとえに譲る側であるオーナー経営者の『覚悟』が必要であると考えられるため、当記事においては、これらに焦点を当てたいと思う。

譲る側であるオーナー経営者に求められる覚悟を整理すると、以下の3点に集約されると考えられる。

(1)後継者教育実施企業の事業承継に関する方針(承継する覚悟やタイミング)が明確になっていること

(2)後継者教育実施企業の考える候補者に求める主なポイント(経験や知識、経営に関する考え方等)に一定の柔軟性があり、両者に入社後、承継していけるイメージが沸くこと(イメージが沸くほどコミュニケーションが取れること)

(3)後継者教育実施企業に「次の後継者を育成する」「共に成長していく」という想いがあること

まず、(1)についてであるが、外部からの経営人材の招聘を進める際に、『オーナー経営者による中断』が起こることがある。将来の成長戦略や承継戦略に不安を覚え、後継者を外部に求めてみたものの、いざ具体的な検討に入ると尻込みするケースである。このケースは特に、事業承継にどのような選択肢があるか、どのようなプロセスで進めるか等の事業承継に関する基本的な知識がオーナー経営者側にないことに起因すると考えられる。

次に(2)である。オーナー経営者は、自らが起こし、育ててきた事業を譲る後継者に対して、非常に多くの資質を求める傾向があることは否めない。それ自体は否定されるべきものではないし、致し方ない部分はあるものの、当然ながら過大な要件を設定すると候補者数自体が絞られてしまい、ポテンシャルがある後継者とのめぐり逢いの機会を逸してしまうこととなる。

最後に(3)である。これは(2)とも関連するが、パーフェクトな後継者候補は存在しないと割り切り、後継者候補を育成しつつ、自らも成長する覚悟が重要である。特に外部から経営人材を招聘する場合には、自社のビジネスや経営体制等についてゼロから育成する必要があるため、これらを自らの手で行っていく決意を持つ必要がある。

 

外部から招聘された人材は、濃淡はあれど既存の役職員からの反対や抵抗を受けることも想定されるため、オーナー経営者自身が自らの引退とタイミングを決意し、外部から招聘した後継者候補をハンズオンで育成していくことが重要であると考えられる。

なお、これらを遂行するためには、候補者の育成においては、オーナー経営者自身が、自社のビジネスにおける外部環境・内部環境等の分析を通じて、経営者としての鋭い勘や経験を整理して言語化できることが重要であることを付言したい。

 

3. 親族外承継(M&Aによる譲渡)

親族外承継のもう一つの類型に、M&Aによる譲渡が挙げられる。これらは別稿に譲ることとし、当記事においては割愛する。

 

III.まとめ

上記のとおり、減少傾向にある親族内承継に代わり、親族外承継は増加傾向にあるが、親族外承継を選択する場合、外部からの経営人材の招聘やM&Aによる譲渡の場合であっても、譲る側であるオーナーに十分な準備が必要となる。また、当該準備は短期間においてなし得ることは極めて困難であるし、また、親族内、親族外のいずれの承継戦略を取るかによって準備の内容も大きく変わってくる。円滑な承継を行うためは、大方針を早期に特定し、その大方針に沿って具体的な準備に早期着手することが望ましいと考えられる。

デロイト トーマツ人材機構株式会社 取締役

(2021.8.4)

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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