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サステナビリティ経営のあり方と経営実装
~経営戦略、推進体制、人的資本の観点から(後編)~ ESG/気候変動シリーズ(ファイナンシャルアドバイザリー) 第6回
サステナビリティの経営実装にあたって、まず最初に検討すべき要素として「戦略」、「組織体制」、「人的資本」の3つが挙げられます。具体的にどのようなことを検討する必要があるでしょうか。本シリーズでは、サステナビリティを経営の本流に実装していく際にビジネスリーダーが目配りすべきポイントや有効な打ち手について前・中・後編に分けて解説します。後編では、これらの三要素のうち、「人的資本」の観点から考察します。
はじめに
カーボンニュートラルや人権、SDGsなど、サステナビリティに関する論点が日常的にビジネスシーンで語られるようになった昨今、企業は情報開示や規制への対応を一歩先へと進めていく変革の段階にある一方で、サステナビリティ推進の難しさに直面するケースも少なくない。
本稿では、2023年7月6日に開催しましたサステナビリティ経営実装セミナーシリーズ(全4回予定)の第1回「サステナビリティ経営のあり方と経営実装~経営戦略、推進体制、人的資本の観点から~」の内容をもとに、サステナビリティを経営の本流に実装していく際にビジネスリーダーが目配りすべきポイントや有効な打ち手について前・中・後編に分けて解説していく。
後編では、これらの三要素のうち、「人的資本」の観点から考察したい。
サステナビリティ経営と人事戦略
本稿では、サステナビリティ経営を人事・人材のレイヤーに落とし込むために必要な検討事項や実例をご紹介する。
サステナビリティ経営と人事戦略の関係性
従来、人事領域の取り組みは社内的なものであったが、近年はデジタル化・少子高齢化・働き方改革など社外環境の影響を大きく受けるようになった。このような状況下では、ビジネスモデルや経営戦略に合わせて人事戦略も変えていく必要がある。加えて、経営理念やパーパスも人事戦略と密接に関連する。つまり、パーパスを明確に定め、それを実現するための具体的な施策として人事領域の各種検討を行うことが求められる。
具体的な人事施策に落とし込む手順
経営環境の変化に応じて人事戦略を見直す際、最初に検討するのは人材ポートフォリオである。人事戦略には組織体制/人材要件/人材ポートフォリオ/要員計画の4つの枠組みが存在するが、事業ポートフォリオと同様に、人材ポートフォリオについても環境変化に合わせて変更することが重要である。そのうえで、人事戦略を通じて経営戦略を実現するためには、具体的施策である「人事制度(インセンティブ施策)」「タレントマネジメント」およびそれらの土台となる「環境整備」の3点を含む人材マネジメント全体を経営戦略と連動させて構築することが重要である。
(図1)人材マネジメントのあるべき姿
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
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次に、具体的な施策の検討として、「タレントマネジメント」、「人事制度(インセンティブ施策)」について順に解説する。
前者の「タレントマネジメント」については、人材育成方針をその中心に据えて検討を進める必要がある。人材育成方針は、人材要件と人材ポートフォリオを整理することによって明確化され、採用活動や異動配置の際に重要な位置づけとなる。また、人材育成方針によって、社内におけるリスキル(リスキリング)の必要性や方針も可視化されるため、従業員自身の主体的なリスキルを促進することにも繋がる。なお、リスキルとは「新しい職業や業務遂行に必要なスキルが、現状のスキルから大幅に変化する場合において、当該スキルを獲得すること」と定義され、日本企業においてはリスキルの方針がない企業が多く、キャリアサポートの実施によって組織的なスキル転換や学びの仕組みが整備されていないという課題が存在する。
後者の「人事制度(インセンティブ施策)」について、サステナビリティ経営の文脈においては特に、評価制度と報酬制度に着目することが重要である。例えばサステナビリティ目標を経営目標として掲げる場合、その達成度に応じたインセンティブ付与(賞与等)を検討することが考えられる。また、経営理念に掲げる価値観を行動評価に落とし込み、給与改定や昇格昇進に反映させる設計を採用するケースも少なくない。
サステナビリティ経営と人事戦略の実現に向けた取り組み
経済産業省の「価値協創ガイダンス2.0」では、人事戦略は企業の価値観や長期戦略を実現するための「実行戦略」の一つとして位置づけられている。サステナビリティ経営においては各社固有の価値観やパーパスを検討したうえで、社会課題解決の観点を踏まえて長期戦略を検討し、企業の価値観/パーパスおよび長期戦略と統合的に人事戦略を検討することが重要である。そのうえで、策定した戦略に関するKPIを検討、モニタリングするため、サステナビリティ推進体制を含むガバナンス体制を整備することも求められる。サステナビリティ経営における人事戦略は、経営層/経営企画部門/人事部門が一体となって検討・推進することが必要であり、それを主導する役回りとして、日本企業にはCHROの存在と活躍が望まれている。
(図2)サステナビリティ経営に向けた人的資本投資・人材戦略の検討
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
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執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ストラテジー
シニアヴァイスプレジデント 石原 有希
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ESGアドバイザリー
シニアアナリスト 菅井 晴子