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金融機関による賃貸不動産の担保評価における留意点

収益還元法を適用した担保評価

近年、アパートローンやノンリコースローン等の不動産に対する融資が増加するにつれ、金融庁や日銀、監査法人も金融機関の不動産リスク管理態勢を注視する状況となっています。不動産融資においては、債権回収の裏付けとなる担保不動産の評価が重要な論点の1つとなりますが、収益物件の担保評価の際に、不動産鑑定評価の手法に比較的近い内容の収益還元法を自社で適用している金融機関から、収益還元法が十分に活用できていない金融機関まで様々です。本稿では、金融機関の担保評価(収益還元法)の留意すべきポイントを3点程ご紹介致します。

金融機関による収益還元法を適用した担保評価の3つのポイント

1. 適用手法の選択

不動産融資の対象となることの多い賃貸アパート・マンション等の収益物件については、その不動産から得られる収益が価格を形成する大きな要因であり、不動産鑑定評価基準においても、貸家およびその敷地の鑑定評価額は、実際実質賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格を標準とすることが定められています。

したがって収益物件の担保評価においては、安易に原価法による積算価格を採用せず、収益還元法による収益価格を標準とした価格決定を行うことが、担保評価の高度化に向けたポイントになると考えられます。

2. 収益・費用項目の妥当性

次に、収益・費用項目においても留意が必要になります。例えば、マーケットの将来予測、近隣地域の特性、対象不動産の個別性等を考慮した上で、適切な賃料・空室率が設定されているか、将来的に発生するであろう大規模修繕の費用が適切に評価に織り込まれているか等に留意することが望ましいと考えられます。

3. 還元利回りの妥当性

還元利回りは、不動産が生み出す純収益の額の、その元本価格に対する相対的な割合を示す指標であり、純収益を割り戻して収益価格を求めるための率(%)になります。

多くの金融機関の担保評価においては、地域別のベースレートに、築年数や権利関係等のリスクプレミアムを積み上げることにより、還元利回りを査定する方式が採用されています。査定の考え方としては、不動産としてのリスク要因が多くなるほど、リスクプレミアムが積上がり、利回りが高くなることになりますが、リスクプレミアムの積上げ幅については、各金融機関により異なります。

還元利回りの設定において参考になる資料としては、公表されている不動産投資家調査やREIT(投資法人)開示情報等がありますが、これらの情報を参考にするほかに、自社の担保評価額と、実際の担保処分における売却実績価格との間に大きな乖離が無いかどうかをバックテストすることも有用であり、自社で設定した還元利回りテーブルがマーケットの実態と乖離していないかどうかを定期的に検証する仕組みを持つことが重要と考えられます。

収益還元法の担保評価に関する主な検討ポイント

4.終わりに

収益還元法に基づく収益価格の精度を高め、賃貸物件の適切な担保評価と貸倒引当金の算定を実施できるようになることは、融資を拡大すべき優良賃貸物件と回収リスクの高い個別物件を選別し、将来的な不良債権の発生を抑制することにつながるものと考えられます。

有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ(FSI)においては、多数の不動産鑑定士や不動産ファイナンス経験者に加えて、金融機関の監査に精通した公認会計士や、アナリティクス、リスク管理の専門家を擁しており、金融機関を始めたとしたクライアントから、不動産担保評価関連コンサルティング業務や、不動産業向け貸出リスク管理に関する助言業務を受注しております。トーマツは金融と不動産の専門家の視点から、豊富な知見と実績を活かし、クライアント金融機関の不動産融資リスク管理や不動産担保評価の高度化を助言します。

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